First national convention:Complete weapon 1 - 1/6



準決勝で敗れ去った次の日。氷帝学園は自主練日だった。

別に傷心を慰める用の自主練日じゃない。
選択権を全員に与えるためだ。

「134、135、136・・・うん、全員居るわね。部長様、揃ったわよ?」
「よし。出せ。」

可憐はバスに揺られて、なんとなく外を見た。

今日も晴れている。
いかにも暑そうだが、車内は涼しい。

「・・・・・・・」
「複雑そうやな。」
「あ、忍足君・・・うん。うん・・・・」

通路を挟んで向こう側に座る忍足の言った事は、とても的確であった。

可憐は今、とても胸中複雑。

「まあ、ね。私もそうだわ。」

忍足の隣、向こう側の窓際に座る網代も、なんだか遠い目をしている。

「・・・何か、何を思えば良いのかわかんないよねっ。」
「そうなのよねえ。本当・・・私達、今日にどんな日になって欲しいのかしら。」

今日は全国大会、決勝。

部活に残って自主練するも良し。
そして、今の可憐達のように、決勝を見学に行くもよし。

圧倒的なパワーを持ち、友人たちが在籍する立海。
全国大会準決勝にて氷帝を負かした、これまた友人達の居る四天宝寺。

どっちに勝って欲しいのか、可憐は自分の事ながら分からない。

関東大会での負け方を思えば、あそこまでコテンパンにしてくれたのだから立海に優勝して欲しい気持ちはある。
ただ。あの王者が敗北する姿を見て、ああ同じ中学生なんだと安心したい気持ちも、無いとは言えない。

まあどちらにしろ、意外とは思わないだろうが。
どっちが勝っても、別におかしくはない。

「侑士君は?」
「ん?」
「どっちに勝って欲しい、みたいなのはある?やっぱり、どっちかっていうと従兄弟の居る方かしら?」
「別に、そういうのんはあらへんなあ。どっちか・・・そうやな、でもどうしてもどっちか言うんやったら、立海やろか。」
「あら意外。そうなの?」
「学校として世話になってるんはそっちやて思うさかい。」
「ああ、成程。確かにね。」
「後はまあ、単純に近いから。」
「?近いって理由になるのっ?」

「近くに強いやつが居るて思う方が、テンション上がるやろ?」

可憐はちょっと目を見開いた。

そうだ、忍足はこう見えて結構負けず嫌いなのだ。
特に、テニスに対してはそう。

可憐はとてもそんな風に思えない分、余計に驚く。
あんな風に一方的に負けて、正直可憐はまだショックから抜け出せないでいる。

絶望感というより、想像力が働かないというべきか。
立海に歯が立つビジョンがいまいち見えないのだが、忍足にはそれが見えているのだろうか。

「案外強気ねえ。何を考えているのか知りませんけど?」
「別に、特別な事は何も考えてへんけど。」
「そうかしら?最近の侑士君、どうも何か考えながらプレイしてる気がするわ。」

「・・・・・・」

可憐はふい、と顔を窓の方に向けなおして、会話から抜けた。

神奈川に行ったあの日から、良い事は色々あったが、こういうのもその一つ。
前はわけもわからずもやもやしながら一緒に居ようとしていたが、今はもう自分の気持ちがわかったので、しんどそうな成り行きになる気配を感じたらすっと離れる事が出来る。

まあ。
ただ意識的に見ないようにしているだけ、という自覚もあるが。

(・・・・どうなって欲しいのか、かあ・・・)

微妙なのは今日の決勝の結果だけじゃない。
自分の気持ちもそう。

可憐はまだ、自分の気持ちに結論が出せないでいる。
好きだということを自覚はした。しかしその次。ではそれを踏まえ、今の状況をどのようにして過ごすか、という事については、決められないまま日々を重ねていた。

勿論、最早諦めるしかあるまいというのが思考の7割くらいを占めている。
しかし残りの3割は、今ならまだやっても許される事があるのでは?という考えを捨てきれずに居る。

こうなってからつくづく可憐が思うのは、「両想いのようなもの」と「両想い」の間には確かに深い溝があるという事だ。
どんなに事実上近くても、建前上そうでないというだけで、周りは出来ることが大分変わってくる。

ただ、それはそれとして、もう自分で身動きとるのが怖いという気持ちも勿論大前提としてある。
傷つくのは嫌だ。
傷つくとわかっていてそれに飛び込むなんて、とてもそんな事出来る気もしない。

でも、傷ついても良いから何かした方が良いのでは。という気持ちも、ほんの僅かながらあるのは事実だった。

自分でもわからない。どうしたいのか。どうすれば満足なのか。

「・・・・・」

いや、違う。
本当は分かっている、どうすれば満足なのか。
でも、その満足は永遠に満たされる事はないのだ。

忍足が最初から、自分を好きになってくれたら良かったのに、なんて。

(千百合ちゃん、凄いなあ・・・)

神奈川で千百合が言っていた。

順番が回ってきさえすれば良いってものじゃないんだよ。ライブのチケットのキャンセル待ちしてるのとはわけが違うんだぞ。

本当にそうだ。つくづくそう思う。
もしも仮に、何らかの事情でーーー例えばもし忍足が告白して、網代が何かの理由でNOと返事をして。その結果忍足が振り向いてくれても、可憐は素直に喜べないだろう。
所詮自分は二番手なのでは?という思考に取りつかれる事は目に見えている。今こうして、想像してみているだけでも既にそうなのだから。

そういう意味では、可憐はもう詰みきっている。結果がどうあれ、忍足の方が網代を好きになっている時点で、一番欲しかった結果はもう手に入らない事が確定してるわけだ。

それでも、振り向いてもらえるだけその想像の未来の方がマシなのだろうか。
いや、マシか?本当にマシか?かえってしんどいんじゃないのか?

可憐は最近この話を考え出すと、いつもこのループに陥る。
一番いい結果はもう駄目で。二番目を目指そうにも、この場合二番目って何なのか全然判断がつかなくて。

そして結局結論を出す前に疲れてしまって、良いやもう、考えるの辞めよう、と思考を切って他の事に逃げる。

楽してるなあ、と思う。
でも。
楽させてよ、とも思う。

どうせいつか、答えが出る。望むと望まざるとに関わらず。
その日まで休みたい。

可憐は瞼を閉じて、眠ったふりをした。