「勝あああったああああー!!!」
勝ーった勝った、ほーやれほ、なんて即興の歌を歌う紀伊梨は、まだ閉会式の興奮が冷めやらない。
日を浴びて眩しいくらいに輝くトロフィー。
風を受けて翻る優勝旗。
優勝、立海大附属と記された賞状。
全部全部、日本で一番の証。
紀伊梨みたいに歌って踊ったりはしないが、他3人も似たような浮ついた気持ちだ。
いや、別に良いだろう今くらい浮ついても。
だってだって、日本で1番なんだ。今浮かれないでいつ浮かれる。
「良かった・・・本当に良かったです、皆が勝てて・・・」
「ちょっと涙ぐんでるw」
「ご、ごめんなさい何か嬉しくて、ホッとして・・・・」
「本当に優勝とかするんだ。」
「えー?千百合っち優勝するって思ってなかったのー?」
「いや思ってたけどさ。それはそれとして、本当に日本一なんだ彼奴ら、って思うとこうピンときにくいっていうか。」
友人が優勝する姿というのはビードロズにはおなじみと言えばおなじみだが、それはあくまで小さい大会の話。
日本で一番となると、やっぱりスケールが違う。
違うけどでも、確かにそこに友人たちは優勝者として君臨しているのだ。若干別世界感を抱いても、それはもう仕方が無いと思う。
「あ、でもでもあれだよねー。」
「何。」
「最後だったのに、ゆっきーの試合見らんなかったなーって!」
ぐ。と千百合は黙った。
「確かに、決勝なのに1歩も動かなかったってのはちょっと残念だったねえw」
「でしょでしょ!?あー、ゆっきーがテニスするの見たかったなー!」
「まあほらwイップスの件もあるからw」
「でもさー、あれって相手が強かったらだいじょうV!なんでしょ?あっちも強かったから、大丈夫だよー!」
「確かに、四天宝寺も強かったですよね。真田君が5ゲームも取られて・・・千百合ちゃん?」
「・・・何でもない。」
思い出した。
勝利へのご褒美の話。
確かに不戦勝になるかもとは言われたし、不戦勝でも良いと千百合も返したが、まさか1球も打たないで棄権されるなんて。
ある意味では幸村の実力の賜物と言えなくも無いのかもしれないが、これは千百合がというより幸村の方がご褒美に値すると思うかどうか。いや待て、この場合思ってなかったらまさか、こちらから思えと詰め寄らねばならないのだろうか。
そんな馬鹿な。ハードルが高すぎ。
「あ。」
紫希の声が、千百合の意識を急速に現実に引き戻した。
というか、戻してくれたというべきか。千百合は内心で紫希に感謝した。
「・・・どしたの?」
「あ、MelonだMelon!」
「あっぶねえ、ICカード落とすとかw個人情報の塊なのにw」
紫希が拾ったのは、ICカードだった。チャージして買い物や定期に使えるあれ。
個人との紐づけが非常に強く、金銭への関わりも深く、落とすと一大事な代物だが、生憎この辺りには持ち主らしき姿が見当たらない。
「私、ちょっと届けてきますね。」
「え、マジで。」
「あ、じゃあじゃあ紀伊梨ちゃん達もーーー」
「いえ、先に行っておいて下さい。一人で大丈夫ですし、それに万一バスを逃したら大変です・・・今日の主役を待たせるわけに行かないですから。」
そう、今日はこのまま一旦一同は家に帰り、五十嵐家に集まる。
紀伊梨念願のお泊り会の為にだ。
関東大会の時よろしく、立海勢が一度学校に戻る時間差を利用して準備を始める予定だったので、実は浮かれつつも結構時間的にはタイトなのである。
運動公園は広い。紫希の足は遅めという事を差し引いても、此処から事務棟のある所まで行って往復で戻るとなると、30分くらいはズレが出るだろう。
「えー、もうその辺に落としなおして放っといたら良くない?」
「そ、そんな事出来ませんよ、落とした人は困ってらっしゃるでしょうし・・・」
「まあまあ、じゃあ一旦此処で別行動って事でw念のために俺達先行くけど、多分普通にバス停で合流できるっしょw」
「ゆっくり歩くからねー!」
「ふ、普通に歩いて下さって大丈夫ですから・・・」
こうして、4人は一度2手に別れた。