紫希が別行動になって間もなく、ビードロズは立海テニス部・・・自販機に行った丸井をはじめ、まだ公園内で細々雑務がある部員を待っている立海テニス部達を見つけた。
「あ、おーいみん・・・む!」
「こらwまだ部活中ですぞw」
「さっさと行こ、邪魔になるし。」
とか言いつつ、ビードロズはテニス部の熱心な応援団である上、そもそもライブなどでビードロズの事は大なり小なり皆知っているため、通り過ぎるだけでも何人かお辞儀したり、手を振ってくれたりしている。別にいつものメンバーじゃなくても、皆なんとなく存在を認識しているのだ。
若干の居心地の悪さみたいなものを感じつつ3人が集団の横を通り過ぎようとした、丁度その時だった。
「すいません。幸村精市君はどこですか。」
その場の全員がそちらを見ると、白と薄いエメラルドグリーンで纏められたジャージの男子が、ラケットバッグを持って立っていた。
「お?あの子朝居なかったっけ?」
「居た居たw」
「え、マジか。何する気なの彼奴。」
「まあまあ滅多な事は起きないでしょwここまで人数居るし、あっちがアウェイだしw」
そう、アウェイなのはあっちなのである。
しかし彼は今、そんな事を一切感じていないかのような意志の籠った目つきで、テニス部が固まっている方に近づいていく。
「幸村は俺でーーー部長?」
前へ出ようとした幸村を、部長の佐川は手で制した。
「おい。お前は誰で、うちの幸村に何の用だ?幸村以外に用事はない、とは言わせないぞ。今は部活中で、幸村は部員だからな。」
佐川がそう言うと、あっちの男子はそう言われることも想定済みですと言わんばかりに、眉一つ動かさず言った。
「俺は駿河台の追川大です。要求は一つ。幸村精市ーーー俺と試合をしてよ。」
やはりな、と思った者は大勢いた。
そうでなければ、ラケットバッグなんか持っていまい。
「何故だ?」
「安心してくださいよ。別に試合して負かしたからって、優勝を辞退しろとか言う気はありません。これは俺の個人的な話です。」
「個人的な話・・・・」
「幸村。準決でお前が対戦した選手を覚えてる。」
幸村は一瞬考えた。
「確か、吉森という選手だったかと。」
「そうだ。吉森先輩だよ。俺の恩人。俺にテニスを教えてくれた、大事な先輩だ。」
「待て!貴様まさか、恩人が負かされたからと逆恨みでーーー」
「ただ負かされただけだったらこんな事言い出すかよ。」
その言葉。
ただ負かされただけだったらーーーその発言の裏の含みは、最早察するに余りある。
「別に、優勝出来なかったからって恨んでるわけじゃないさ。負けは負け。負かしてきた相手にいちいち業を煮やしていたら、きりがないよ。そもそも勝負っていうのはそういうものだし、でもね?
先輩はもう昨日も今日も部活に来てないんだ。テニスが出来ないって出てきてくれないんだ。俺はそれが許せないーーーー許せないんだよ!」
悲痛な叫びだった。
それは悲痛にもなろう、と思えるのが立海側にもまた痛かった。
「あのな・・・気持ちは分かるけれどなんというか、俺にも上手く説明は出来ないんだが、あれは幸村がやった事ではあっても幸村の意志ではないのであって、」
「構いませんよ、部長。」
「幸村・・・・」
「いつか、こういう事が起こるだろうとは思っていましたから。それが今日だった、それだけの話です。」
「じゃあ、やってくれるんだね。」
「ええ、俺は構いませんよ。部長、どうですか。」
佐川ははあ、と息を一つ吐いた。
「・・・・良いよ、許可する。」
「おい、佐川!」
「どうせ一緒だよ。今反対したって、今日解散したら勝手に野試合するだけだ。それなら、今の方が良い。何かあった時対処もしやすいしな。」
「それは・・・」
「ただ、1セットだぞ。時間も押してるからな。」
「はい。」
「良いですよ。」
「それから・・・追川君だっけか。」
「はい?」
「一応辞めとけと忠告はするぞ。一応な。」
この流れで忠告を聞き入れるでもあるまい。
それは全員分かっていた。
分かっていたけど言わずにおれない事もある。
それも全員分かっていた。