観戦が終わり、閉会式に出る跡部を残してバスで一足早く帰った可憐達は、部活終了まで普通に部活に勤しんでいた。
ただスケジュールだけは普通でも、やっぱりどこか仕切り直し感を全員感じているのは分かった。
どうも皆動きがぎこちない・・・というか、何か考えながら各々動いてるような感じがする。来年には何が必要なのか、皆考思案しているのだろう。
「・・・・ふう。これで全部だったよねっ?」
空のドリンクボトルの山を目の前にしている可憐も例外ではなく、一応スケジュール通り体は動かしているものの、どうも本調子じゃないみたいな感じがする。
まあ。
自分の場合、他にも起因があるかもしれないが。
「・・・・はあ。」
大分受け入れられてきたが、それはそれとしてずっと叶わない思いを持っているのはしんどい。心理的にずっと大きい荷物を背負い続けている感じに近い。
捨てたら良いのにとも思うが、捨てようと思って捨てられるものでもないし。
(日にち薬、とかっていうけど、こうしてたら段々消えていくのかなあ・・・)
なまじ友達だから余計しんどいんだよなあ、と思う。
いっそ友達ですらなくなったら楽なのかもしれないが、その勇気もない。
そもそもこのしんどさは、忍足が好きだということから始まっているのである。
傍に居たいし話していると楽しいし、嫌いだなんてとんでもない。
だから離れたくないと普通に思う気持ちもあって、だからこそ矛盾でしんどい。
はああ、と一際大きい溜息を吐きつつ戻ろうとした所で、振り返ると正に今考えていた人物が居た。
「可憐ちゃん、お疲れさん。」
「忍足君・・・」
「悪いねんけど、そこの予約表取ってくれへん?」
「えっ?予約表・・・あ、ああっ。これだねっ。」
予約表。
というのは、テニス部に数ある各種設備の予約表の事で、今忍足がくれと言ったのは、目印がくすみピンクのボードの色であるコートの予約表。
部活後にコートを使って自主練をしたい人は、これに名前を書いておくのだ。
因みにこのボード。
別にその日使いたい者だけではなく、明日や明後日や・・・まあ言うなれば先んじての予約ような事も、ある程度先まで出来るのだが。
「おおきに。」
「うんっ。」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・お、忍足君そんな沢山練習するのっ?」
多分今日だけの話だと思って、少し書いたらすぐ返そうとするだろうから受け取って返しておいてあげようと思っていたら、思いの外ガリガリ書きだす忍足。
可憐は全然構わないが、本当にそんなに練習するのだろうか。
「ん?ああ、もしかして待ってくれてたん?堪忍な、別に自分で返すさかい。」
「わ、私は良いんだけどっ!でもどうしたの、忍足君ってそんなに居残りする方じゃ無かったのに、急に・・・」
「せやねんけど、今は時間足らへんねん。取り敢えず練習時間重ねな、形にもならへんし。」
「形・・・何か、新しい事始めるのっ?あ、難しいショットとかっ?」
「いや・・・ああでも、事と次第によったら覚えなあかんようになるんやろか。逆に今まで使えとったショットでも、気軽に出されへんようになるかもしれへんな。何せ、コートの中に人が居る事なんか考えてへんかったし。」
「???コートに人が居るっ?」
「ちょっと、ダブルスやってみよかて思うてんねん。」
可憐の口が「ダ・・・」の形のまま止まった。
ダブルス。忍足がダブルス。
いや確かに、別に今シングルスだからって、ずっとシングルスやってなくちゃいけないみたいな決まりもないけれど。
「・・・そ、そうなのっ!?え、ど、どうして急にっていうか、あ、反対してるわけじゃないよっ!違うよっ!そうじゃなくてでも、純粋に理由は何っていうかっ!」
「理由なあ・・・まあ、元々俺そんな言うほどスタイルに拘りはなかってんけど。別にD嫌やていうわけでも、絶対Sがええていうわけでもあらへんかったし。」
「そ、そうなのっ?」
「ほんで、それはそれとしてひと夏やってみて思ってんけど。
やっぱり、Dがどうも弱いと思うねんやん。俺は。学校としてな。」
これは榊の方針の構造的欠陥の一つでもあるが。
負けたら入れ替え。
そう、負けたら入れ替え、である。
勝ったらレギュラー維持、ではないのだ。
負けるかどうかが争点だから、負けさえしなければレギュラーで居られる。
それはつまり、試合が回って来なくてもそれは負けたわけじゃないから、レギュラーの座はそのままなのである。
という事はつまり何が起こるかと言うと、S選手のそれに対して、D選手の方がやたら頻繁に入れ替えられるという事態。
するとそれに伴って更に何が起こるかというと、深刻なD選手の減少なのである。
矢面に立ちたくない。
レギュラーになってもその座を直ぐに奪われるなんて嫌。
そういう考えの者が皆消極的になあなあでSを選ぶせいで、D選手のメンバーが枯渇している。というのが忍足の見解であった。
それからそもそも、校風的にD選手が氷帝は育ちにくいのである。
学校の為というより、自分のためのテニス。
それが氷帝テニス部の特徴だが、反面俺が俺がの雰囲気になりやすく、Dにうってつけな相手に合わせるタイプの選手は居づらさを感じることも多いのだ。
だから忍足はDに回ることにした。
D選手の強化は、チームの底上げに必ず繋がる。
自分が最も貢献出来そうな形がこれだと、忍足はこの夏で結論を出したのだった。
「え、じゃあもうペアは決まってるのっ?」
「せやで。こないだOK貰うてん。」
「そうなんだっ。一体誰ーーー」
「侑士!俺んち泊ってくれ!今日!」
バン!と部室の扉を開けて叫びながら入ってきたのは向日。
噂をすれば、と思いながら忍足は小さく笑った。
「どないしたん、いきなり。」
「だってよ、姉貴と親が揃って全然納得してくんねーんだよ!毎日20時までなんてそんなの・・・あれ、桐生。居たのか。」
「ああ、うん・・・居たけどっ。」
居たけど、そんな事はどうでも良いんだ。
それよりももしかして。
もしかしてもしかして。
「そうそう!俺達、D組むんだぜ!だからどうって事でもねーけど、お前も応援してくれよ!な!」
やっぱりか。
本当にやるんだ。D。
忍足と向日の2人でD。
「・・・うんっ!応援するよ、頑張ってっ!」
何か凄い事が始まる気がする。
根拠もないけど、兎に角可憐はそう感じられて仕方がなかった。