Overnight party 5 - 2/5


全員揃ってる。
この状況でやりたい事は沢山あるが、実はやっとかないといけない事もある。

なのでそれを果たすべく、一同は自転車でライブハウス「プリズム」へやってきたのだ。

「おっちゃーん!こんちはー!」
「ちゃーすw」
「こんにちは・・・」
「ちわ。」

「お、来たね。いらっしゃい。」

店主の意向により、昼でも暗めなライブハウスに足を踏み入れると、流石に夏休みというか中高生があちらこちらでぽつぽつ集まって話をしていた。

「お久しぶりです、小田切さん。」
「やあ幸村君、本当に久しぶりだ。丸1年ぶりくらいかな?」
「もうそんなになりますか?すみません、すっかりご無沙汰してしまって。」
「いや、元気そうで良かったよ。なんだか男らしくなったねえ。」
「ふふ、そうですか?それなら嬉しいです。」
「で?その後ろの大勢は?」
「ああ、皆テニス部なんです。今日は少し、ライブの段取りでお邪魔しました。皆、小田切さんだよ。ここのオーナーさんなんだ。」
「小田切睦です、よろしくねえ。」

こんにちは、初めまして、と口々にテニス部が軽く挨拶をする。
のを小田切は軽く眺めまわし、目だけ緩ませて微笑んだ。

「皆ゆっくりしておいでね。はい、メニュー。今日はおじさんがおごってあげよう。」
「やたー!」
「おっしゃあ!ありがとうございます!」
「ああただね、今日はちょっとお客さん来るんだよね。」
「え。」
「あ、じゃ、じゃあその時にはお暇を、」
「ああいや、出て行って欲しいわけじゃないんだよ。居てくれて全然良いんだけど、まあ来るという事だけ・・・念頭に入れておいてね。うん。」

寧ろ、居てくれないと困るのだ。
ただ、具体的に誰が来るのか言ったら、多分皆帰る。
だから小田切は黙っておいた。

「ああ、後ね。今日はケーキあるから、皆で食べてね。」
「「やったー!」」
「すみません、なんだか今日は色々頂いてしまって。こんな大勢なのに。」
「っていうか何か今日異様にサービス良くないwどうしたのw」
「棗君、私の事なんだと思ってる?

これでもライブハウスのオーナーだからね。特別賞、おめでとう。」

テニス部皆、あ。と言いたげな顔をした。
ビードロズは、皆で顔を見合わせた。

そして破顔してお礼を言ったのはいうまでもない。



さて。
今回ライブハウスに集まった主目的である。




「よーし!それではこれから、桑ちゃんのお家でブラジルライブをするための会議を始めまーす!」

「いぇーい!」
「よろしくお願いします。」

そう。
今日は夏休み直前に出た、ブラジルミュージックライブIN桑原家(店)の打合せをするのだ。

皆が口々に返事して拍手する中、当の桑原が一番のどぎまぎ顔であるが。

「あの・・・なあ、なんていうか、本気でするのか・・・?」
「あ、やっぱり会場が自宅って抵抗ありますかw」
「では、ハコを今から探しましょうか?一先ずプリズムのスケジュールを貰ってきますので、ちょっと待ってーーー」
「違う違う違う!そういう意味じゃない!そうじゃなくてその・・・なんていうか、手間だろ?俺の為に、わざわざそんな、」
「はっ。」

千百合は思わず笑ってしまった。
俺の為。わざわざ。

「そんな御大層な事、ぜーったい此奴考えてないわ。」
「ふふっ!そうだね、桑原気にしなくて良いと思うよ。」
「いや、そんな・・・」
「楽しそうだし、一回やってみようくらいの感覚じゃねえの?俺もそんくらいライトで良いと思うけど?」
「本人達がやるのにやぶさかでない、と言っているのだ。甘えても良いのではないか?」
「なんじゃ、乗り気じゃな。」
「いや、それは・・・ま、まあ異文化を学習する良い機会だと思っているだけだ!」

真田的には、これを機にどうにか桑原家の家計が黒字にならないかと気を回しているのである。
正直、普通に桑原と仲良くしていると、皆多かれ少なかれ家が大変なのは直ぐ察せられる。
もしこのライブが家の宣伝になるのなら、それはテニス部としても桑原家の黒字化に少しでも貢献するべきである・・・と真田は考えている。流石に、本人を前にそうと口には出せないが。

「確かに、異文化の勉強という意味でも有意義ですね。」
「いぶん・・・?よくわかんにゃいけど、何かべんきょーしないといけないの?」
「ああいや、ビードロズは演奏の事だけ考えてくれ。そういう事を考えるのは、こちらでやろう。」
「そーお?んじゃあんじゃあ、会議を進めやしょー!先ずハコをー、」
「違うでしょリーダーwハコの前に肝心な事があるでしょw」
「え?何?どれ?」
「日時よ、日時。日付と時間決めないと、ハコも探せないでしょうが。」
「あ!そーだった!んーとねーえ、日時かー・・・・んー・・・」

日時。
というか、もっと言うと時期の話。

「海原祭りまでは、そっちに集中した方が良いんじゃないかな?」
「それもそうだな。文化祭は大舞台だ。学校行事に手を抜くのもけしからん。」
(ま、キーボード担当もそっちのが良いんだろうな。)
「そうなると、海原祭りの後から本格的に練習を開始、ということになりますね。」
「ええと、じゃあ冬?寒くなってからの演奏になるでしょうか・・・」

冬。

紫希が何気なく言った単語を紀伊梨は拾って、すぐさま思いついた。

「よし!」
「え?」
「クリスマスにしよー!」
「ちょっと待てえええ!」

これには流石にストップせざるを得ない桑原。

「え、駄目ー?」
「駄目だろ!それは流石に駄目だろ、いくら何でも!クリスマスだぞ、クリスマス!皆家族とか大切な人と過ごす日だぞ、それなのに、」
「あ。もしかして店閉める感じ?」
「え、クリスチャンだっけw宗教上の理由か、じゃあしょうがないねw」
「そうじゃない!そうじゃなくて!俺の家の事は良いんだ、皆がクリスマス、どうか、って・・・」

そう言われて皆顔を見合わせる。
クリスマス。皆どうか。

「別にクリスマスダニっちゅう事で何かするわけでもないき、俺は構わんぜよ。」
「え、ちょっと待ってこれ、もしかしてクリぼっち申告的な話になってるのw」
「クリぼ・・・?今何と言ったのだ?」
「クリぼっち、という略語だ。正式には、クリスマスにひとりぼっち、という。文字通り、クリスマスを一人で過ごすという意味になる。」

そしてもっと正確に言うと、単に一人で居るというだけでなく、なんとなく孤独感を覚えながら過ごしています的なニュアンスもある気がする。のは、気のせいだろうか。

「良いじゃん良いじゃん!どうせクリスマスパーティーしたかったし、ライブパーティーって事にしよ!」
「あ、それ良いじゃん!単にクリスマスパーティーと被ったし、どうせ集まるって感じで。ジャッカルもそれで良いだろい?」
「え?ああ、いや・・・まあ確かに・・・」
「五十嵐、ちょっと良いかな。」
「およ?」
「クリスマス、っていうのは厳密にはいつの事だい?25日当日の事?」
「あ、でも・・・無理してクリスマス当日に被せる理由はないんじゃないでしょうか?」
「24日とか、もうちょっと前でも良いんじゃない。学校が無い期間で、クリスマスからそこまで離れてない日とかでも。」
「そうですね、それが良いでしょう。」
「おーしおし、じゃあそんな感じでwじゃあ次だ、時間w」
「時間かー。お昼にしよっかなー、夜は遅いよねー?」
「春日、何書いてんの?」
「あ、ちょっとLINEでスケジュール表を・・・」

(・・・本気かよ。)

話が目の前でガンガン具体的になっていくのを見て、桑原はちょっと呆然としていた。

本当にやるのか。マジか。
そういうお世辞というか、建前じゃなくて。


「ジャッカル!」


桑原は意識が急速に引き戻された。

「・・・・!ご、ごめん!なんだ?」
「時間。ランチタイムで良いのかよ?」
「あ、ああ、うん。大丈夫・・・と、思う。一応聞かないといけないけどな。多分大丈夫だ。」
「じゃあディナーは各自でという事で一つwデートするなり、家族と居るなり、ぼっちになるなり、任せますw」
「ほいほーい!んじゃあ次ね!誰が何の担当しますか!」
「何の・・・」
「担当・・・」

つい・・・とテニス部勢が顔を見合わせる中、幸村は軽く手を挙げる。

「ねえ、五十嵐・・・というか、ビードロズ4人に。ちょっと良いかな。」
「はい、ゆっきー!えーと?えー・・・あ!発言を許可しまーす!どうぞー!」
「有難う。実はね、カラオケの時に話が出た時から薄々思っていたんだけれど。」
「うん!」

「今回、俺達は観客じゃないんだね?」
「え?そーだよ、皆でやろーよ!」

ええええええ、な顔になるテニス部一同。
棗は膝まで叩いて笑っている。

「ちょっと待って、おたくら何で此処まで呼ばれたと思っているのw」
「まさか日時のヒアリングの為だけに、ライブハウスまで来たと思ってたわけ?マジ?」
「ブ、ブラジルミュージックが初めてなのは、桑原君以外皆一緒ですから・・・」

「それはそうかもしれんが!」
「ブラジルへの馴染み具合は同じでも、音楽の心得については差があるからな。」
「何をする前から音楽が苦手な人も居ますからね。」
「なんで俺を見るんじゃ。」
「い、いや、俺だってそんな詳しいわけじゃないし、」
「別に良いんじゃねえ?要はジャッカルの好きな曲やるっていうのが目的だろい?」

パン、と丸井のガム風船が割れた。

「難しい曲無理してやるもんでもねえし、大会とかコンテストで優勝目指すわけでもねえじゃん?カラオケの延長みたいな感じで気楽にやったらよくねえ?それこそ、カラオケでタンバリン振るくらい誰でもやるだろい。」
「そうそうそれそれー!ブンブンナイスー☆」
「でもそれなりに完成度は高くしておかないと。店舗の前でやる事を考えたら、迷惑をかけるわけにいかないよ。」

「その辺はもう編曲に任せようよ。責任は兄貴が取る方針で。」
「ちょっと待って待って待ってw止めてそうやって軽率に責任おっ被せんのw」
「と、取り合えず一先ずは、その辺りの事を置いておきましょう!完成度にも関わりますけれど、先ずは出来そうな楽器を洗い出して、そこから楽器の人数を決めて、」
「何にも出来ない人はボーカルって事ですな!誰かやりたい人居るー?」
「あ、待って。あんまりボーカルばっかりに寄らないで。低音リズム隊誰かもう1人くらい欲しい。」
「何当てようかねw何か太鼓1種類くらいだったらドラム経験なしでもいけるよねw」
「あ!待って待って、バラードもやってみたいー!」
「となると、曲ごとに多少編成チェンジが必要かもしれませんね。桑原君、何か絶対やりたい曲のご希望がありましたら、今のうちにリストアップを・・・桑原君?」
「え?あ、ああ・・・」
「っていうか、あんたらも何か口挟んでよ。」
「そう思うんなら、もう少し話の進むペースをスローにしてくれんか。」

「不覚だ、ついていけん・・・!」
「ハイテンポで進んでいきますねえ、話が。」
「まあ、ビードロズにとってはこの手の段取りは慣れたものだろうからな。」


わあわあ騒ぐ一同。
それを遠巻きにちらちらと伺う周りの客。

小田切が時計を見ると、そろそろ「お客」の来る時間。