「うーん・・・オケオケ!」
紀伊梨が足をぶらぶらさせつつ、シャーペンでメモに名前を書く。
「つまりー、音楽にけっこー自信ありなのはブンブンにやーぎゅですな!」
「おう。」
「で、苦手なのはニオニオですな!」
「俺は観客希望なんじゃが。」
「一人だけ逃げられると思うてかw」
「たるんどるぞ。苦手な事から逃げるなどと、武士の恥だ。」
「今武士の話はーーーー」
「こんにちはああああ!」
バン!と音を立てて開かれる扉。
ぜはあ、ぜはあ、と肩で息をするおじさんが一人。
「あ・・・」
「え。」
「お?」
「あ。」
「あー!おっちゃーん!」
「やあ皆はじめまして!そして久しぶり!そして昨日ぶりだな愛する娘に息子よ!」
そこに居たのは黒崎雄一。
千百合と棗の父親であった。
「それ以上一歩も近づくな、鬱陶しい。」
「鬱陶しい!?そんな娘よ、一日ぶりだっていうのになんて無体な!」
「おっちゃん久しぶりー!」
「ああ紀伊梨ちゃん、久しぶりだな!紫希ちゃんも元気にしてたか!」
「はい、ご無沙汰しています。」
「そうかそうか!ああ幸村君も!もう君の顔が最近ドンドンレアになってしまうから困ってたんだ!」
「ふふ、すみません。色々と忙しくて。」
「うんうん、知ってるぞ。テニス部だな、テニス部・・・・うん・・・・」
うん・・・と言いながらじっ・・・・と一同を眺めまわす雄一。
何なんだこの人はこの人で、とか思いながらテニス部は口々にこんにちは、とか初めまして、と挨拶をする。
「ああ!そうだったな、初めまして!千百合と棗の父親の、黒崎雄一だ!皆いつもうちの姫と王子をありがーーーーおふっ!」
「妹w父親に向かって脛は流石に可哀想じゃねw」
「こんな父親の下に生まれた私らの方が可哀想よ。」
わからんでもない。
と何人かはちょっとだけ思った。
「だ、大丈夫ですかおじさん・・・」
「あ、ああ紫希ちゃん有難う・・・」
「有難うじゃなくて帰れよ。そもそも何で此処に居るんーーー」
「私が呼んだんだよ。」
小田切がカウンター越しに言った。
「マジすかw」
「用事があってねえ。あってというか、余計なお世話っちゃあお世話だけど。」
「お世話?」
「フライヤーだよ。新しいの要るだろう?」
「「「「「あ。」」」」」
ビードロズと幸村の声が揃った。
「フライヤー・・・とは何だ?」
「まあ、大雑把に言うと広告というかビラというか。ポスタータイプの宣伝の事だよ。」
「そう!そしてビードロズのフライヤーは!結成した当時に急ごしらえで撮って作ったものしかない!小2の頃のだぞ、小2の!もう更新しても良いだろう、いい加減!」
「そーだったー!忘れてたー!良いじゃん良いじゃん、今日は皆居るし撮ろー撮ろー!」
「しかし、皆と言いつつ私達は関係ないのでは?」
「そういう問題じゃない・・・・レンズに映らないからと言って、居なくて良いなどというわけじゃない、それは残念ながら素人の意見だ。分かるか君?」
「そういうものなのか・・・?」
「オフコース!」
「うっぜええ・・・・我が親ながらうぜえ。」
「濃い父親だな。」
「胸やけするわ。」
「黒崎の父ちゃんって写真趣味?」
「いえ、カメラマンさんなんです。プロの方です。」
「へー!ラッキーじゃん、色々こういう時便利だし。」
「まあねw確かにフライヤーは要るからね、忘れてたwじゃあ撮りましょうか、カメラマンw指示をw」
「よし!じゃあ早速!そうだなー・・・そう、だなー・・・」
す・・・と視線を伏せる雄一。
これは仕事モードの時の顔である。かなり真剣。
「小田切、ステージは今使えるか?」
「ああ、良いよ。」
「よおし、4人とも上がってくれ!あ、テニス部の皆もだ。小田切、スポット!3~8番と、B!」
「はいよ。」
小田切が配電盤でスイッチ操作をすると、ステージのライトが一部点灯する。
4人はそこへ上がる。
何もない舞台の上へ。
「わー!すごいすごい、ステージが空っぽだー!」
「俺達は、上がって良いんですか?」
「え?」
雄一はきょとんとした顔をした。
「何言ってるんだ?良いも何も、全員のピン写を撮るんだぞ?」
「えっ?」
「な、何故ですか!」
「写真を撮るのはビードロズだけで良いのでは?」
「いや、そりゃまあ主目的としてはそうだけど・・・さっきも幸村君が言ったけど、フライヤーって言うのは広告のビラの事だぞ?」
「はあ・・・・」
「つまり、目的は宣伝なわけだ。ビードロズのフライヤーは、ビードロズの宣伝の為に使われるわけだな。」
「別にテニス部の宣伝は要らんのじゃが。」
「ふっふ~ん♪知ってるんだぜ?棗に聞いたからなあ。君達は今、宣伝したいものがあるだろう?いやこの場合、宣伝したい店かな?」
宣伝したい。
店。
「・・・え、ま、まさか俺の店を、」
「そうだぞ?君の店というか、君の店の為の宣伝だな。ライブをやるってことは集客を見込んでるって事で、集客がちゃんと出来ればこれは大きい事だ。まあビードロズ的に主目的はそこじゃないんだろうが、もののついでって事で良いだろう?いやあ、腕が鳴るなあ!」
「え、いや、でも、その?」
「何だ?まだ何かあるか?」
「え、だってその、こういうのって広告費とか、」
「別に良いんじゃねえの?」
「おい!」
「だってジャッカルが頼んだわけじゃねえじゃん?それなのに金払うのっておかしくねえ?」
「そ・・・え・・・そ・・・・えええええ・・・・」
それはそうなんだけど。
筋が通ってる気もするし、通ってない気もする。
話が大きくなってきてふらふらし始める桑原だが、親友の丸井は全然意に介していない。
当人じゃないからとかいう事じゃなく、棚から落ちてきたぼた餅に対して遠慮とかそういう感情を持ち合わせない性格だから。
「ねー!皆何やってんの早くー!」
「撮り終わんないと、また今度になるわよ。」
「よおーし!じゃあ早速始めよう、時間は有限だからな!」
「あ、ちょ、ちょっと・・・」
「まあ、良いのではないですか?丸井君の言う通り、あちらの親切ですから。」
「そういうもんか・・・?何か、そういうものの範囲を超えてきてないか、何か、」
「まーまー、悩むのは後にしようぜい、後に!」
ほら、と肩を軽く叩かれて桑原が見たステージは、自分が上るんだと思ったら何だか普段より眩しく見えた。