Large bet 3 - 2/6


「ではでは!今日は皆、有難うでしたーーー!」

「「「「「「かんぱーい!」」」」」」

講堂ではまだまだ歓迎会が続いている。
そんな中で社会科準備室に集まる一同は、ジュースの入った紙コップを掲げて、乾杯。
勝利の美酒もとい、美ジュースは美味い。


「あーーーー、たんのしかったーーー!もう最っ高!」

未だにテンション冷めやらぬ紀伊梨は、つい大声になってしまう。

「そりゃあ、あれだけやれれば楽しいだろい。」
「ブンブンも乗ってくれてたよね!いぇーいって言ってくれてたし、ピョンピョンしてくれてたのも見たよ!」
「おう!俺達も楽しませてもらったぜ。」

掛け値なしに凄いと思った。
同じ中学生のライブとは思えない。

特に目を引いたのは、やはり紀伊梨の存在感。

(スーパーでスペシャルな女の子、ねえ。)

「?ブンブン、何ー?」
「いや。」
「うん?変なブンブン・・・むー!バレタかー!」
「甘いな。俺の皿から物取ろうなんて、100年早えだろい。」
「くそー!」

「いぇーいと言えば、あんた達、最初声出てなかったわね。」
「む・・・!」
「すまん・・・」

真田と桑原が土壇場で恥ずかしがってしまった事は、紀伊梨がバッチリアナウンス済だ。

「ま、良いけどね。こういうの苦手だろうし、いざってなるとそういう種類の度胸が必要だし。」
「・・・次は必ず出す。」
「ばーか。」
「馬鹿だと!?」

千百合はニッと笑った。

今日のライブの、一番最初の声出し。
あれは、周りが「何が起こるの?」と静かに注視している中、静寂を切り裂いて「いぇーい!」と言わねばならないから難しいのだ。だから。

「次からはみーんな声出してくれるわ。あんたらの声なんて聞こえないかもね?」
「本当に悪かった・・・」
「いや、桑原!いかんぞそんな事では!次だ!次は2000人の声の中でも通るように、腹から声を出してくれるわ!」

ライブの声出しを何かの勝負かのように言う真田。
千百合は笑ってしまうが、この2人ならこういう反応だろうなと思っていた。

「言ったわね、やりなさいよ。」
「無論だ!」
「桑原は?」
「い、いや、やる!今度こそ!」

「・・・楽しみにしてるから。」

皆の声援は嬉しいけれど。
でも、大事な人達の声援は誰のものより。
どんなものより。

「あの、柳君。」
「何だ?」
「柳生君から聞いたんですが、その。ビードロズは、生徒達の楽しみになる、って・・・」
「ああ、その事か。言ったな。」
「・・・有難うございます。本当に嬉しいです。」

紫希は目元を綻ばせて笑った。

本当に嬉しい。
そう物語る様な笑顔に、柳も微笑んだ。

「俺は思った事を言ったに過ぎない。それに・・・」
「それに?」
「その判断は正しかった。今日のライブを見て、それが分かった。」

ビードロズは自分が期待した通り。
いや、それ以上のパフォーマンスを見せてくれた。

「良いグループだ。まとまりがある。これからも、良い詩を書いてくれ。」
「はい。・・・ん?私ですか?」
「勿論だ。お前はビードロズの重要なメンバー・・・そうだろう。」
「・・・はい!」

「いやー、駄目だわ。飲んでも飲んでも喉乾くわ。」

棗はさっきから1人ハイペースにジュースをおかわりしていた。
幸村はクスッと笑って、ペットボトルを持つ。

「棗は特に熱そうだったからね。入れようか?」
「あんがとー。いやー、あそこスポットがもう、暑いのなんのって!」
「次は、位置を変えないといけないね。若しくは、もっと水を増やそうか。いっそ、クーラーボックスを置いて、いや邪魔になるかな?凍らせて置いておくのも手か。・・・棗?」
「んー?」
「どうしたの?なんだか、急に嬉しそうだね。」
「んー、ふふふ。」

嬉しいに決まってる。

「幸村はさー。」
「うん?」
「俺達に「次」があるって何処までも信じてくれるよねー。」

一応、これが最後になるかもしれないのだけど。
そういうニュアンスを感じ取ると同時に、幸村はおかしくて又笑ってしまう。

「変な事言う棗だね。」
「えー?変じゃなくなーい?」

「変だよ。この世で一番ビードロズを信じてる俺に向かって、そんな事言うんだから。」

誰より近くで見てきた。
ビードロズというバンドの物語を。
大好きな恋人の努力を。
大好きな親友達の力を。

「幸村・・・」
「終わりじゃないさ。此処に居る全員、此れで終わりなんて誰も信じない。そうだろ?」
「・・・おうよ!」

コン、と紙コップをぶつけあったら、中のジュースは嬉しそうに揺れた。

「あ、柳生君おかわり要りますか?どれを取りますか?」
「すみません、それではお言葉に甘えてお茶を。」
「柳生だっけ?お前それで足りんのかよ?」
「ええ、お構いなく。それよりも、其方のお皿の方が零れそうですよ。」
「うお、マジだ!サンキュー!」

(馴染んどるのう。)

仁王は感心していた。

今、この状況下で飛び入りで入った生徒会の人間など、正に天敵の筈である。
それなのに、するっと自然に溶け込んで、もう皆警戒を緩め始めている。

物腰穏やかで、余裕のある態度がそうさせるのだろうか。

「のう、柳生。」
「なんです?」
「お前さん、此処へ来た理由は何処へ行ったんじゃ?」

その仁王の言葉に、皆なんとなく会話を止めた。

「ああ、これは失礼。忘れていました、思っていたより楽しくてつい。」
「ほんまか。」
「本当ですとも。ですが、今しがた思い出したので改めて。

・・・仁王君、無粋ながらイリュージョンの全貌を教えて頂いても?」

その言葉に、全員の目が仁王に向いた。

結局、仁王が何をどこまで計画していたのか、全部を知っている人間は此処には居ないのだった。
普段、事が終わっても計画を話すなんて真似はしないのだが。

「・・・言わんとビードロズは吊るされるんじゃろう?」
「「「「「「えええええ!?」」」」」」

目を剥く一同だが、柳生は涼しい顔である。

「すみませんねえ、こうでもしないと教えて貰えそうになかったもので。」

御明察。

「・・・よかろ。今回だけじゃぞ。」

仁王は苦笑して溜息を吐いた。