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「先ずじゃな、そもそも出来んっちゅうのがおかしかったんじゃ。」

企画書を見たが、ビードロズはそもそも初期案からそんな無理難題を言っているわけではなかった。
だから「出来ない」というのは、何処かに動きの無駄があるから。仁王はそう踏んでいた。

「じゃから、先ずは当日の生徒会の動きを掴む事。その上で何処に余裕があって、どう動いたらその余裕を回して貰えるか、っちゅうのを詰めた。」
「そうは言うが、仁王。聞いた事があるのだが、生徒会の資料は一般の生徒は見られないのではなかったのか?」

そう問う真田に、仁王は笑った。

「なあに、「オフザウォール」のなっちん様にかかったら、資料の入手位は造作もないぜよ。」
「俺でーすw」
「・・・貴様、盗んだのか。」

「・・・彼奴、変な奴だな。」
「だから言っただろ?」

丸井が実感する遥か前から、桑原は棗の変人加減を良く知っていた。

「それがクリア出来たら、次は実際に人を動かす方法じゃ。」
「それなんですが、仁王君。」

柳生は1つ、もしやと思っている事があった。

「私は今日、会長を除く4人のメンバーに話を聞きました。彼らは皆、会長に脅されて作業をしていると言いました。」
「おう。」

「・・・彼らは本当は脅されて等いなかったのではないですか?」

え?
うん?
なーに?

何の話だ、と皆が訝しむ中、仁王は口笛を小さく吹いた。

「吃驚じゃのう、当たりぜよ。」
「・・・やはりそうでしたか。」

可笑しいと思ったのだ。
あの時にも思ったが、やり方としては大胆すぎる。
脅して回ってそれがタネです、なんてそんな杜撰な人間じゃない。この仁王という男は。

「順に行こうかの。まず、第一ステップとして紙で指示を与えておいた。」
「紙で?どういう意味だい?」

首を捻る幸村だが、柳生はピンと思い当たる物があった。

「・・・タイムテーブルですね?書き加えをしたのでしょう。」
「呑み込みがええの。その通りじゃ。なんせ大概の人間はタイムテーブルの指示について、当日になって意味を考えている暇なんぞないからの。」

意味が分からなくても、やらなければ誰かに迷惑がかかるから、取り敢えずやる。
人間、忙しい時はそういうものである。
勿論、生徒会からタイムテーブルを取ったのも返したのも、棗が居れば問題ない。
通常補足を書き込むのは本人及び生徒会長だが、筆跡を真似る位は仁王と棗にかかればどうという事はないし。

「とはいえ、誰かが疑問を持たないとも限らん。その為に、俺は生徒会長に成りすます必要があったぜよ。指示の出し直しも出来るし、目で見て監督できるからのう。」
「簡単に言うけど、良く出来るわね。」
「そーそー!あれがニオニオだったなんて、吃驚したよー!」
「・・・そういえば、本物の生徒会長さんは何処にいらしたんですか?」
「第二保健室じゃな。」
「え?」
「その辺は俺達が調べたんだけどね。」

幸村と柳は顔を見合わせて苦笑した。
この2人は生徒会メンバーのデータ収集係だったのである。

「先日から昼休憩になると居なかったのは、そういうわけか。」
「ごめんね弦一郎。」
「いや、それはわかったけど保健室ってなんだよい?誘き出して閉じ込めたのか?」
「・・・いや、交渉した。」

柳は実に言い難そうに呟いた。

「こーしょー?」
「プリッ。調査の結果生徒会長さんは、先日彼女が出来たばっかりらしくてのう。鍵をかっぱらってやるダニ、ベッドのある所でゆっくりしたらどうかと言ったら、快く変わってくれたぜよ。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・ほう。」

柳生の瞳に怒りの火が灯るのを一同は見た。

「・・・たるんどるっ!!!」
「同意するわ。」

「え?何?彼女が出来たから保健室?なんで?」
「紀伊梨にはまだ早いよw」
「何がー!ねー教えてよー!桑ちゃん!桑ちゃんは分かる!?」
「え!い、いや、そういう事は将来お前に彼氏が出来たら、そいつに聞け!な?」

「まだ分かりません・・・並んでお話しているだけという可能性も・・・」
「信じたい気持ちは分かるけど、食いついて来た時点でお察しだろい。あー、保健室当分行きたくねえ・・・!」

何かとお世話になる事が多い運動部には悲しいお知らせである。

「ま、兎に角そういうわけで入れ替わっとったわけじゃ。此処まで来たら後は最後の仕上げじゃった。」
「と、言いますと?」

「お前さんじゃよ、柳生。」

柳生比呂士。
この男が要マークなのは幸村と柳が調べれば調べる程、浮き彫りになる事だった。

「途中で気づいて、尚且つ待ったをかけるような生徒が居るとしたら、お前さん以外に該当者は居らんかった。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「しんどかったぞ?騙し方も練っておかんと、お前さんみたいな奴は終わった後に何かと手を打ってくるからの。どうにか邪魔させない様にしつつ、最終的にライブの方をちゃんと見て欲しかったんじゃ。」

柳生を懐柔するのに一番良い形。
それは柳生自身に、ビードロズを気に入って貰う事だからだ。

「・・・多分だけどさー。」

棗が言い出した。

「ライブの間中、振り回し続けて何もさせないっていうのも、お前なら出来ないじゃなかったんじゃない?」
「そりゃあそういうプランもあるが、俺は好かん。やり方が不細工じゃ、三流のやる事ぜよ。」

「・・・・・・」

柳生は思わず、ふっと微笑んだ。
どうやら仁王には仁王なりの美学があるらしい。

嫌いじゃない。そういうの。

「話を戻すが、その為にお前さんには最後に下に降りて最前列に来て貰いたかったんじゃ。早い段階で下に降りてきてライブを中止させられたら敵わんから、開演の直前まで粘ってな。」
「そんな事が出来るのかい?」
「何、主犯が下に居ると最後の最後に言えば良いだけの事じゃ。それまでは生徒会長ーーー俺本人を探す様に仕向けていれば良いだけぜよ。」
「仕向けるって、どうやってよ。」

「こうやってよ、黒崎さん。」

全員がぎょっとした。

今、女子の声が。
間違いなく、仁王から女子の声が。

しかし柳生にとっては、只の女子の声ではない。
良く知った声。瀬戸の、声だ。

「・・・そんな事だろうと思いました。会長に脅されて、と私に言った人達は、皆貴方のなりすましだったのですね?」
「おう。現場を押さえられない様にするのは、ちいとばかし大変じゃった。」

思えば、柳生は予定外の作業をしている人間をその場で問い詰めたわけではなかった。
いつも其処へ向かおうとして、移動している最中に鉢合わせ、其処で話を聞いていた。

作業をしているのは騙されているメンバー本人だったが、柳生に話をしたのは仁王だったわけだ。

「参考までに聞きたいのだが。」
「なんじゃ、マスター。」
「何役やったのだ?」
「今回は1人6役じゃの。」
「ニオニオすごーい!」
「山/寺/宏/一の洋画吹き替えかよ!」
「その例え分かりやすいわw」

桑原の比喩は正に的を射て居ると言えよう。
蓋を開けてみれば、今日柳生が会話をしたメンバーの中身は、殆ど仁王だったのだ。

そして。
柳生が仁王だと思った、最前列に居た人物こそが仁王ではなかった。

「・・・本当、びっくりしたわよ。下に居るのは仁王だとばっかり思ってたのに。」
「そーそー!紫希ぴょんあんな所に居たんだねー!」
「ドキドキしました・・・。」
「何を言うか五十嵐。」
「ふえ?」

「お前さんが言うたんじゃろう。一番前で見てて欲しい、ってな。」

「ニオニオ・・・・」

ライブか。
最前列か。

どちらか捨てろと言った時、どちらも嫌だと提案そのものを切って捨てた紀伊梨の姿を、仁王ははっきりと覚えている。


「ちょっと。」


千百合が割って入った。

「良い事言ってるみたいだけど、誤魔化されないわよ。要は案山子の役じゃない。あんた紫希にこんな危ない役させて。」
「えっ!?危ないの!?」
「当たり前でしょ。」
「確かに、相手によっては「馬鹿にされた」、「してやられた」と感じ、カッとならないとも限らん。黒崎千百合の言うとおり、女子供にさせるには危ない役割だ。」
「だからこそ、春日が最適じゃ。」

千百合や真田の言う事は、仁王もよくよく分かっている。

「カッとならないとも限らん、ちゅうのは俺も考えとった。それは誰に影武者をさせても可能性がある。そんなら一番手を出されない確率が低いのは誰か・・・っちゅうと春日じゃ。」
「それは、どうしてだい?」
「ピヨ。見てみんしゃい。春日のこの、誰が見ても人畜無害そうなオーラ。幾ら騙されたからっちゅうて、此れに手を上げられる奴はそうそう居らんぜよ。まして女子じゃ。」
「一理あるが・・・」

そう言われると柳も納得の声を上げざるを得ない。
人畜無害そう、という意味では幸村なども当て嵌まるが、人畜無害な男子というやつは逆に手を出されやすかったりする。
いざという時の周りの味方のつけ易さから考えても、紫希は適役だった。

「それに、万が一の時の事も考えて、優秀なセーフティネットを付けといたきに。」
「せーふてぃねっと?」
「俺、俺。」

丸井が自分を指差して笑った。
それとは逆に、桑原は少し表情を曇らせる。

「セーフティネットって、この場合・・・」
「本当に何かあった時、体を張って止める役じゃな。」
「・・・おいブン太、こういう事こそ俺に任せろよ!俺の方が体格も良いし、力も強いんだ!」

普段余計な事ばかり頼ってくるくせに、何故こういう時に限って自分に振らないのか。
そう考える桑原を、仁王は遮った。

「残念じゃが、この役は今回丸井しか出来ん。」
「どーしてー?」

「いざっちゅう時に何より重要なんは、体格でも力でもない。本人のやる気じゃ。それも義務感だの正義感だのじゃなくてな。そうでないと、咄嗟の時に体が動かんきに。」

一瞬でも躊躇したら、その間に紫希が一発食らってしまいかねない。
そんなんではセーフティネットとは呼べないのだ。

この役の第一条件。
それは何より、紫希を自分が守りたいという意識。

「ふむ・・・しかし、それを考えるなら、付き合いの長い幸村の方がより適役ではないのか?」
「それは演者に影響しかねんかったからのう。」
「・・・どういう意味だ?」

「自分の恋人が、自分以外の女子の騎士役をやるのを黙って見てろっちゅうんは、想像するだに嫌なもんがあるじゃろ。」

あー・・・な空気が一気に蔓延する。
ちょっと赤くなった顔で気まずげに目逸らしする千百合に、柳生でさえも事実を察した。

「ま、それは五十嵐も同じだったきに、一応五十嵐が丸井に片思いしとるとかそういうのは無いか、調べたんじゃがの。」
「そーなの?」
「其処までする必要があるのか?」
「俺は「ライブを成功させるのに手を貸す」っちゅう約束をしたんじゃ。こんな所でいざこざして、演奏者の気を散らすのも本末転倒ぜよ。」

真田が言うように、其処までしなくても良くない?と思う者も何人かこの場に居たが、仁王からしてみたら考えが甘い。そういう所で手を抜くと、絶対に何処かで綻びが出てしまう。

柳生はふむ、と呟いて眼鏡を少し直した。

「しかし、演奏者の気が散ると言う意味では、メンバーである春日さんを囮役にするのもそうなのでは?」
「そうじゃ。だから他の奴に言うつもりは無かった。絶対文句が出るからの。」
「良く分かってるみたいね。」

千百合が何より気に入らなかったのはこれである。仁王に甘えてしまったのだから、文句を言うに言えない立場なのが悔しいが。

「でも紫希は良く引き受けたねw囮役は兎も角、セーフティネット役付けるとか嫌がったんじゃないw」
「「そりゃあもう。」」
「やっぱりw」

丸井と仁王がシンクロした。
棗は笑ったが、千百合と幸村は揃って溜息である。紀伊梨と真田はムッとした表情を隠そうともしない。

「吃驚するくらい強情だったぜよ。」
「ダメだよ、紫希ぴょーん!危ない事は、皆でやらないと!」
「春日、そういう我儘は良くないよ。分かるよね?」
「紫希はもう、お願いだからそういう所直してよ。心臓に悪いわ。」

一斉射撃である。
紫希だって、合理的に考えるなら皆の言う事の方が筋が通っていると分かっているけれど。

「でも、自分の代わりに誰かが怪我するかもなんて、そっちの方が心臓に悪いですよ!」
「春日。春日の言い分も分からなくはないが、この場合はやはり悪手だ。より事態が悪化する確率の方が高い。」
「実際、男子相手だと1人じゃ力で敵わないしな。」
「柳君、桑原君・・・」
「春日!お前の気遣いは美徳でもあるが、このような時は己の力量という奴をだな、」
「ご、ごめんなさいごめんなさい、でも・・・!」

真田に怒鳴られても、「でも」と口にする姿は筋金入りと言わざるを得ない。

「まあこんな塩梅じゃき、丸井がやってくれたのは結果的には最高の選択じゃった。」
「それはあれなの?お友達的な意味で?w」
「やる気という意味でも十分じゃが、説得力とテンポが良いぜよ。丸井と居ると春日も顔色が良くなるし、柳生の事も上手い事引き止めて、ステージを見せてくれたしのう。幾らフィジカルに自信ありと言っても、桑原や真田じゃこうはいかん。」

丸井に当てられた役には、お守役ともう1つ。止めに来た柳生を少々強引でも良いから引き止めて、ちゃんとライブを見せる事もあった。
だから、「まあまあ良いじゃん、気にしない気にしない」で人を流し切るスキルも、今回は同時に要求されていた。
丸井は正にドンピシャリな人選だったと言えよう。

「それなら確かに、ブン太は適役だが・・・」
「ブンブン偉いーーー!」
「どうよ?ザッとこんなもんだろい。・・・で?」

丸井は柳生に顔を向けた。

「で?とは?」
「どうだった?ライブの出来は?」
「・・・はあ。」

柳生は今日何度目かになる溜息を吐いた。このタイミングでそれを聞いてくるのはずるくないだろうか。

なんと言えと言うのか。
良くなかった?
良かったけどそれとこれとは別だから?
あんな勝手な事をして成功したライブなんて、そもそも無効だとか?

そんな事思ってもいないのに、この場で言えるわけがない。

「・・・あくまで、私個人としての意見ですが。」

柳生は軽く両手を上げた。


「何か悔しい気もしますが、降参です。次のライブも行えるよう、出来る限り協力致しますよ。」


「・・・・いよっっっっっしゃああああーーー!」

紀伊梨が拳を振り上げたのと同時に、ワアッと全員が歓声を上げた。

やった。
やった。

「へーい!!!へい、へい、へーい!!!やなぎー、へーい!真田っちも、へーい!」
「五十嵐、痛い、手加減してくれ、」
「おい!これはハイタッチではない!勢いで叩いてると言うのだ!聞いとるのか!」

「や、やった・・・!」
「嬉しそうだな。」
「はい!嬉しいです。桑原君も、何かと有難う御座います。」
「いや、俺は何もしてないさ。お前らの実力だ。おめでとう。」
「・・・はい!」

「っし!おし、おし、おっし!」
「やったな!」
「おう!・・・なあ、ブンブン君?」
「うん?」
「有難うね。ブンブン君みたいな、使命感の強い兄貴分が居てくれて良かったよ。」
「ん?んー・・・」

丸井はちょっと目を逸らす。

「あれ?俺なんか変な事言った?」
「いや、変じゃねえけどよ。ほら、仁王も言ってただろい?」

使命感とか。
義務感とか正義感とか、そういうのじゃなかった。

自分はただ。

「やりたかったから!そんだけの話だろい。」
「・・・!そっか。」

棗は微笑みを零したのだった。


「よっしゃ!」
「一安心だね。」

まだ決定ではないけれど、柳生という強力な味方も出来た。
きっとビードロズは次のライブが出来るだろう。お叱りは受けるだろうが、それで済むなら万々歳である。

「よしっ・・・よし!」

(可愛い。)

千百合が喜び故にハイテンションになるのは珍しい。
こうして小さくガッツポーズを取ったりとか、微笑むのではなくて目を輝かせて笑ったりとか。

ずっと見ていたいと思う。この笑顔が曇らなくて本当に良かった。

「・・・・・」

頭を撫でたいが、撫でても良いだろうか。

(いや・・・怒られる。これは絶対怒られる。)

だからやめとこう。
そう思うのに。

「~~~♪」

鼻歌迄歌うくらいはしゃぐ千百合が可愛くて。

(・・・ちょっとだけ、いや。駄目だね。・・・でもやっぱりちょっと、一瞬だけ、でもこんなに喜んでるのに水を差すのは・・・でも可愛い。)



「すれば良いのにw」
「何やっとるんじゃ、あれは?」
「あれは頭を撫でたいけれど、空気を読んで止めるべきか葛藤してる中1男子の図だよw」

「・・・・・・」
「真田君?どうなさいました?」
「春日、気にしなくて良い。カルチャーギャップ、という奴だ。」
「カルチャー・・・?」
「幸村はテニス部では、キリッとした振る舞いしかしないんだ。幼馴染のお前らや、同じクラスの柳と違って、テニスしていない幸村を俺達は見慣れてないしな。」
「ああ、そういう・・・」

とは言え、真田の気持ちは桑原や仁王にも分かる。柳や丸井は早くも慣れだしているようだが、部活の時の幸村しか知らないと、今の光景はなかなか違和感だ。

「ジャッカルとか仁王は兎も角、真田もああいう幸村君は知らねえのな。」
「うーん、ほら!小学校違ったからねっ!」
「ああ。」
「それに、私良く知んないけど、スクールってテニスする所っしょ?千百合っちの話とかにはあんまりならなかったんじゃないかなー!」
「確かにな。」

幸村と真田は付き合いこそ長いが、それは大部分があくまでテニスプレイヤーとしてのものである。同級生としての腰を据えた付き合いは、今始まったばかりなのだ。

「んで、お前は何やってんだよい?」

紀伊梨はクーラーボックスをゴソゴソやっていた。

「えーっとね、えー・・・あ!あったあ!紫希ぴょーん!」
「はい?」
「プリン食べて良ーい?」

クーラーボックスから顔を上げた紀伊梨の両手には、紫希が持参したプリン。

「あ!忘れてました、どうぞ!」
「やたーーー!」
「ほら貸せ、配るから。おーい!誰か食わない奴っつうか、俺に献上する奴は?」
「あ!ブンブンずるいー!余ったらじゃんけん!」

「よう作るのう。」
「まあ、春日は元々こういう事は好きだし、マメな性格をしているからね。」
「しかし、先日も貰って今も貰うとは、些か甘え過ぎではないか?」
「確かに。俺などは成り行きでパイも貰ってしまったし、此れで3度は貰った事になってしまうな。」
「何か、その内折を見て返さないとな・・・」

真田、柳、桑原などは真面目な性格故に、ついついそういう事を考えてしまうが、千百合はそれを横目で見た。

「・・・言っておくけど、無理してお礼してもあの子喜ばないわよ。」
「しかし、」
「言いたい事は分かるwでも萎縮しちゃうから、紫希はw」
「有難いと思うのなら、喜んで食べてあげた方が良いよ。」
「そういうもんかのう?」

「紫希は、皆笑ってワイワイ幸せそうなのが1番好きなのよ。だから作ってくるの。ちょっとでも皆が楽しい気分になりますように、ってね。」

勿論、作るのが単純に好きなのもある。
でも、皆が集まる時に必ず作るのは紫希にそういう考えがあるからだ。

「だから、正解の対応としては、あの胃袋ブラックホール組の態度が実は100点満点よ。」

「ブンブン、こないだもじゃんけん勝ったじゃんかー!譲ってよー!」
「おい、それじゃじゃんけんの意味ねえだろい?食いたいなら勝てば良いんじゃねえか、勝てば♪」
「むーー!自分が勝つからってーー!あ、やーぎゅ!これ、やーぎゅの分、はいっ!」

紀伊梨が柳生にプリンを差し出した。

「はい?ですが、私は飛び入りで・・・」
「予備で多めに作ってあるんです。お嫌いじゃなければ、どうぞ。」
「そうでしたか。ではお言葉に甘えて。・・・もう1つ聞きたいのですが、先程のあだ名は私の事ですか?」
「うん?うん!やーぎゅ!駄目?」
「嫌です。」
「えーなんでー!?可愛いのにー!」

「彼奴、駄目かどうか聞く癖に最終的にはお構いなく呼ぶからのう。」
「結局此方が折れざるを得ない。俺も普通に柳、と呼んで欲しいのだが。」
「幸村はブンブン君に勘違いされたし、ゆっきーはそろそろ止めて貰ったらw」
「言おうかとは思ったんだけどね・・・」
「結局、元の所に落ち着きそうな気がするわよね。」
「ふふ・・・でも、紀伊梨ちゃんならなんとなく、許してしまいますよね。」

後片付け迄残されている時間は、後20分程度。

一同は其れ迄、誰も訪れない社会科準備室で思い切りはしゃぐのだった。