「はい、閉めるよー。忘れもんある人、居ないねー?」
棗が、片付けの終わった準備室を最後に見回しながら言った。
歓迎会ももう終わり。
これからHRの為に教室に帰らねばならないが。
「では棗君、申し訳ないですけれど、私達先に・・・」
「ああ、行ってら行ってらwすまんね、ブンブン君もw」
「おう、任せろい。」
紫希と丸井は、クーラーボックスと変装グッズの場所を、本来の拠点である音楽室に移す。真っ直ぐ教室には帰れない為、一足先に鍵のやり取りをしに、職員室に向かう。
真田と桑原、それに棗は食器類の返却。
千百合と幸村と柳はゴミの処分である。
紀伊梨は何もしない。させると事態の悪化を招くからだ。
「・・・あり?ニオニオは?」
「む、彼奴なら先に行った。柳生とやらと、何か話したい事があるなどと言っていたが・・・」
「あー!良いなー!私もやーぎゅともっとお喋りしてみたかったのにー!」
「・・・・」
「精市?どうかした?」
「あ、いや。なんでもないんだ。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・もしかしたら、五十嵐の願いは、割と直ぐに叶うかもしれない。と思ってね。」
音楽準備室に向かって、紫希は変装グッズを。丸井はクーラーボックスを持って、歩く。
皆歓迎会に参加中だから、廊下はだーれも居ない。
「ごめんなさい丸井君、何から何まで付き合わせてしまって・・・」
「良いって、良いって。そんな大した事でもねえだろい。」
空っぽのクーラーボックスなんて、運動部所属の中1男子にとっては軽い物である。
「・・・あの。」
「ん?」
「あの、あの・・・」
「?あ、もしかして今持ってんの重いのか?なんなら、蓋の上に乗せちまって良いぜ?」
「あ、いえ!これは持ちます、じゃなくて。その・・・」
「?」
「有難う御座いました。守ってくれて・・・」
なんだかんだバタバタしてしまって、そのお礼をちゃんと言えてなかった。
さっきビードロズとしてはお礼を言ったけど、今回の作戦でコンビとして付いてくれたのはやはり丸井だ。
「どう致しまして?ま、結果的には柳生は手出したりするような奴じゃなかったし、さして役には立ってなかったけどな。」
「そんな事ありません。私・・・正直、怖かったです。大丈夫、大丈夫って思っていても、実際に誰かが自分を捕まえる為に向かって来てる時は・・・」
結果的にはと丸井は言ったが、今回の事は正に結果論なのである。
柳生が荒っぽかったり、カッとなりやすかったりする性格かどうかは、蓋を開けてみるまで分からなかった。
痛い思いをしたらどうしよう。
怖い人だったらどうしよう。
そう思って、どんなに心構えしていても、来ると分かっていても、紫希はあの一瞬身が竦んだ。
そして次の瞬間には、丸井が間に出てくれていた。
「ご迷惑かけてしまいましたけど、私丸井君が居てくれて、とっても安心しました。心強くって、頼りになって。」
「そう?テニレッドみたいだった?」
「ふふふ。はい!テニレッドみたいにかっこいい、ヒーローでしたよ。」
「そっか!」
丸井は満足そうに笑った。
良かった。
大事な友達を守る事が出来て。
安心を湛えた紫希の笑顔が、尚更「良かった」と思わせてくれる。これを機に、もう少し素直に頼る事を覚えて欲しいのだが。
「・・・あ。」
「?」
そうだ。
思い出した。
「・・・なあ、春日?」
「はい?」
「さっきのプリンって、春日の手作りだろい?」
「はい。」
「アレって、作戦のお礼って事で良いのか?」
「え?ええ・・・そう、ですね・・・」
普段は、打ち上げのエッセンスとして作る。其処にお礼の意味合いなど含まれないから、答えはノー。
但し、今回は事情がちょっと違う。
作っている途中に思った。果たして、打ち上げが出来る心境で終われるだろうかと。
途中で止められるかもしれない。
次のライブは出来なくなるかもしれない。
だから、もし駄目でも持って行こうと思って作った。
ビードロズの皆、お疲れ様。
協力してくれた皆、有難うの意を込めて。
だから。
「・・・はい。一応、お礼としての意味合いはあります。」
「ふうん?」
(・・・あれ?)
なんだろうか、この悪戯っぽい笑顔は。
もしかして、今自分は何か誘導尋問的な物にかかったのではないだろうか。
「成る程、俺は今回のお礼をちゃんと貰ったわけだな?じゃんけん勝ったし。」
「良く勝ちますね・・・」
「まあな。・・・で。」
「はい・・・」
「今回のお礼は貰ったって事は。」
「・・・?」
「抹茶の時の約束は、まだ生きてるって事だろい?」
丸井は笑顔で、片目を瞑ってみせた。
抹茶の時の約束。
約束。
『なんか困った事あったら言えよ!』
「・・・あああ!」
「思い出した?ま、なんかあったら・・・」
「良いです、良いですから!今回お世話になりましたから!」
「ざーん、ねん。もうお礼は貰っちまったから、今回はこれでチャラだろい?」
「そんな・・・!」
「♪」
しまった。
やられた。
そう顔に書いてある紫希の様子に、丸井は至極ご機嫌である。
次も、貴方を守れる。
それが嬉しい理由は、まだ紫希が友達だからと思えるくらい、ぼんやりしたものに過ぎない。
今はまだ。