「それにしても吃驚したよ。」
「何がー?」
「曲がね。3曲全部新曲だとは、まさか思わなくて。」
千百合と柳と、くっついてきた紀伊梨とゴミの分別をしながら幸村は言う。
入学してから1月足らず。
1曲は入学前から出来ていたから実質2曲とはいえ、それでもハイペースすぎる程ハイペースだ。
千百合は口元に笑みを浮かべた。
「言ってなかったけどね。」
「ん?」
「2曲目は、紀伊梨と紫希があんたの為に作ったんだからね。」
「え・・・」
聞いてない。
驚く幸村の傍らで、柳はほう、と興味深げな声を出した。
「成程。そう言われてみれば、納得のいく曲だな。」
「あんたもしかして、歌詞覚えてんの?」
「覚えるだけなら、一度聞けばな。五十嵐と違って、アウトプットは出来ないが。」
「やなぎーすごーい!で、あうとぷっとってなーに?」
(・・・俺の、曲?)
びっくりするあまり、分別している手が完全に止まっている幸村。
珍しい姿に、千百合も思わず微笑んでしまう。
「・・・紀伊梨、これ捨てといて。」
「およ?」
「序にあの曲の説明もしといてよ。」
ゴミの入っているゴミ袋を紀伊梨にサッと渡すと、千百合は柳の肩を叩いた。
「柳、行こ。後はやってくれるって。」
「良いのか?」
「良いの良いの。」
「千百合、」
柳を促す千百合は、幸村の呼びかけに一瞬だけ振り返ると、べ、と舌を出して笑ってみせた。
それに幸村が呆気に取られている間に、千百合は柳と一緒に、ゴミ捨て場から去ってしまった。
「・・・・・」
「変なのー。千百合っちが話してくれても良いのになー!」
「・・・それは、俺の曲の話かい?」
「そー!あ、そうそう!ゆっきー、2曲目どうだったー?ゆっきーの曲だから、やっぱりゆっきーには気に入ってて欲しいんですが!」
「ああ、それは凄く気に入ったよ。とっても良い曲だった。あれを俺の為に、って思うと、本当に嬉しい。」
そう、嬉しい。
それは本当だけど、それはそれとして。
「・・・でも、分からないんだけれど、どうして急に?」
「んー?」
「俺、何か曲を作って貰うような事したかな?」
「えー!だってゆっきー、テニス部に入ったじゃん!」
さっぱり話が見えない。
「ゆっきーはさー、テニス上手っしょー?」
「まあ・・・うん。」
「だからこれからいっぱい練習して、大会とか出て、表彰されたり頼りにされたり、女の子にきゃーきゃー言われたりするんですよ!」
「・・・ふふ。そうだね、そうなれるように頑張るよ。最後のは別に、言われなくても良いけど。」
言われなくて良いけど、言われるようになるのであろう事は、多分皆知っている。
「ね!きっとそうなるって私思ってるけどー。でも・・・」
「でも?」
「・・・でもね!私や千百合っちだけじゃなくて、紫希ぴょんもなっちんも、みーんなゆっきーが居ないの寂しいな、って思ってるよ。」
入学式の日。
幸村は皆と離れる事を寂しく思って、千百合だけがそれに気づいた。
でも、幸村だけじゃない。
4人だって、幸村が離れる日々が寂しいのだ。
今迄、ビードロズというグループとしては厳密には4人だったけれど、其処から幸村が外れてるなんてあまり気にした事はなかった。
そんな事考えなくたって、幸村はずっと自分達と一緒に居てくれたから。
でも、中学に上がって間もなく、もう小学校とは違うのだという事が分かった。
登下校は一緒じゃない。
休日も一緒じゃない。
掲げる目標も共に努力する仲間も、全部全部、「ビードロズ」たる自分達4人と、「テニス部」である幸村は違う。
「・・・・・」
「良いんだよ。この寂しいは、悪い「寂しい」じゃないんだって、私が分かるくらいだから皆分かってるよ!でも、寂しい。今迄ずーっとゆっきーと一緒だったもん!一緒じゃなかった事なんかなかったもん!」
ずっとずっと、それこそ紀伊梨にとっては人生の最初から一緒に居た人。
そして千百合にとっては、これからをずっとずっと一緒に居たいと思っている人。
そんな貴方は、これから自分達と違うステージへ進んでいく。
分かってる。その為に自分達は此処をーーー立海を選んだのだから。
寂しい。
でも、この寂しさは解決してはならないものだ。
だから。
「だからね!ビードロズなりのやり方でゆっきーと一緒に居られないかなーって思って、曲を作ってみたんだよん!会う時間が減っちゃっても、どんな事が会っても、私達ゆっきーと親友で居たいかんね!」
(・・・ああ。)
幸村は千百合が去り際に舌を出した理由が分かった。
あれは、「ばーか。」と言いたかったのだ。
入学式の時の自分の事を思い出して。
自分一人が寂しいと思ってるような事を考えて。
寂しくなったら何時でも寄り添いに行けばいいのに、自分で別の道を選んでおいて、それなのに寂しいとか思うのってどうなの、とかどうでも良い事ばっかり気にして。
そんな事全然、悩まなくて良かったのに。
千百合は言ってくれた。
呼んだら直ぐ駆けつけるから、と。
その事に、ビードロズだとかテニス部だとか関係ない。
誰が誰を呼んだって、呼ばれたなら傍に行く。助けてあげるし、寄り添ってあげたい。
自分達皆、ずっとそうやって、やってきたじゃないか。
「・・・有難う、紀伊梨。」
「うん!へへへー、ゆっきーが紀伊梨って呼んでくれるの、久しぶりだね!」
「そうだね。もう随分呼んでなかったよ。」
最後に呼んだのは何時だったろうか。
もう数年単位で前の事だ。
「・・・良し、これで最後だ。行こうか五十嵐。」
「うん!んふふふーん♪」
「やけに機嫌が良いね?」
「いやー、ほら!紀伊梨って言われると、ゆっきーが近くなった感じがして嬉しくてですね?」
「ふふ。そうかい?」
「うん!でも、五十嵐って呼ばれると、千百合っちの特別感マシマシって感じで、もっと嬉しいなーって!」
「・・・そっか。」
そんな風に喜んでくれる紀伊梨が親友で、幸村は本当に良かったと思う。
何時になく晴れ晴れとした気持ちになりながら、紀伊梨と幸村は皆の居る講堂を目指すのだった。