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一方、仁王は柳生と共に教室と全然違う方へ歩いていた。

当てがあったわけじゃない。
ただ、人の居ない所へ行きたかった。


ここから先は、舞台裏。だから。


「仁王君?一体何の御用事で・・・」
「柳生。」

仁王は廊下の途中でピタリと足を止めて、後ろを振り向いた。

「お前さん、俺の事をどう思っとる?」
「・・・と、言いますと?」
「腹が立つか?この嘘つきめ、とかそういう風に感じとったりするんかのう。」

柳生から、種明かしかビードロズのこれからか、どちらか選べと言われた時、紫希は先ず、いの一番に仁王に連絡を入れた。今回の作戦のシナリオライターは仁王なのであるからして、自分が勝手に「はい、教えます」と返事するわけにはいかなかったからだ。

だから、仁王は柳生が自分の描いた筋書きを知りたがっていた事を知っている。
今、どういう心境で居るのかも想像がついているけれど、でも。

でも、聞いてみたかった。柳生の口から。

「おや、予想外ですね。てっきりご存知かと思っていましたが。」
「人の心なんぞ、誰にも分からんもんじゃ。本人でもよう分かっとらん事もあるしの。」
「ふむ、それは確かに。そうですね、質問の答えとしましては・・・」

さっきまでは癪だった。
すごく正直になり辛かった。

でも、今。
皆とひと時を過ごした、今は。

「・・・まあ、正直悔しいと思う気持ちが失せたわけではありませんよ。」
「そうか。」
「ええ。ただ、これは仁王君がどうのというよりも、どちらかというと出し抜かれた事実に対する悔しさ、と言いますか。小説のミスリードに引っかかった時のようなものです。」
「ほう。」
「まあ、それも微かに感じている程度です。今は・・・」
「・・・今は?」

「・・・とても楽しかったですよ。こんな鮮やかなイリュージョンは、早々お目にかかれるものではありません。貴重な体験をさせて頂いて、感謝しています。」

本当だった。
見事だと思った。

単なる悪戯とか、ライブの為の手段と断じるにはあまりに美しいと思った。

計算された視線の誘導。めくるめく場の状況。
目で見た物を疑わせられる、あのやり方は正しく。

(イリュージョン、か・・・)

「仁王君?どうか致しましたか?」
「・・・いや。」

仁王は思わず俯いた。

ああいけない。
顔がにやける。


イリュージョン、だって。


(手品じゃない。ショーでも、ペテンでも。)

此奴はあれを、イリュージョンと呼んでくれる。

「・・・柳生。」

仁王はパッと顔を上げた。

「お前さんは頭が良い。」
「はい?」
「察しも良い。ポーカーフェイスも得意のようじゃし、人に溶け込むのもなんなく出来る。」
「まあ、ええ。人並みかそれ以上か、とは我ながら思っていますが。」
「反面、プライドがないわけでもない。出し抜かれたり、騙されたりすると癪だと思う。相手が嘘をついてるのなら見抜きたいし、自分が騙す方に回るのは嫌いじゃない。」
「・・・何が言いたいんです?」
「お前さんは理想的じゃ。」

仁王は歓喜を精一杯抑えて微笑んだ。


「どうじゃ、柳生。テニス部に入って、俺とダブルスを組まんか。」


此奴となら、きっと出来る。

自分の求めていた、テニスが。