「・・・ねえ、恵里奈。」
「ん?」
「さっきの可憐ちゃんって子居たじゃん?」
「うん。それが?」
「恵里奈ってあの子の事嫌いなの?」
「ええ?そんなんあらへんよ、可愛らしいええ子やないの。まあ言うて、直接会うたんはさっきが初めてやけど。」
「それなら、なんであんな事言ったの?」
「あんなって?別に嘘とか言うてへんよ?」
「そういう事じゃなくて、苦手って言われて愉快な人間は居ないでしょって話よ。」
本当に苦手だったとしても、そこは伏せるのが人間関係のマナーというやつではないのだろうか。
恵里奈は別にそういう気遣いが出来ないタイプでも無いのに、何故・・・と友人が思っていると、恵里奈は曖昧に笑った。
「確かに、苦手ていう言葉はちょっとあかんかったかなあと思うねんけど、でも、あれより他に言いようがなかったいうか・・・ああ言うとかんと、侑ちゃんの邪魔になってまうさかい。」
「邪魔?」
「やって、他に好きな女の子居んのにから、他の子に向かって姉の私が可愛い可愛い相性ぴったりやとか言うわけにもいかへんやん?」
「ああ・・・ああ、そうなんだ、ああー・・・」
友人の彼女は頭を抱えた。それなら確かに、ああ言っておいた方が良いのかもしれない。
「まあ、相性ぴったりやて言うんやったら、多分好きな子の方が相性は遥かにええんやけど。」
「あ、そうなの?」
「せやで。まあでも、恋愛の成就するせえへんって、相性で決まるもんでもあらへんしなあ。」
「まあね、本人の気持ちだよね・・・」
「そう。で、私は本人・・・この場合、侑ちゃんの気持ちに寄り添うてあげた、っちゅう話や。」
「そっか、あの可憐ちゃんって子には、極端な事を言ったらどう思われても別に良い的な話になるわけね。ふむふむ。」
恵里奈はんん、と小さく呟いて曖昧に笑った。
弟がどう思われても良い。というわけではないのだが。
寧ろそうでないからこそ、大分言葉を選んだのだ。
(その侑ちゃんは、今頃どこで何してんねんやろなあ。)
デートをしつつ自分を最大限警戒されていることを恵里奈は知らない。
「あっ、」
パシャン。
と小さく軽い水音と共に、網代の持っていたポイから赤い和金が逃げた。
「あーあ、今年も駄目かあ。」
「意外やな。」
「何が?」
「如何にもこういうのん、得意そうやなて思うててんけど。」
「金魚すくい駄目なのよ、ね。露店で一番苦手だわ。」
スーパーボールは掬えるのに、金魚は何故・・・と毎年網代は我が事ながら不思議でならない。
「侑士君はやらないの?」
「あんまり掬いたいていう感覚あらへんねん。」
「あら。金魚は嫌い?」
「金魚は好きやで。見てて可愛いやん。」
どっちかというと目で愛でていたい。
見ていたい願望があるのであって、それは掬いたい願望とまた違う。
「茉奈花ちゃんはあれなんやな。」
「なあに?」
「不規則に勝手に動くのんを捕まえるのが苦手なんとちゃう?」
「・・・どうしてそう思うの?」
「いや、なんとなくやで。手つきとか見ててそう思っただけで。」
「・・・侑士君は得意?」
「そないには。」
「やって。」
「・・・今?」
「そう。本当に出来ないかやってみせて。」
出来ないところがみたいんだろうか。
まあ網代はそういう所があるし・・・と思ったが、忍足はすぐその考えを引っ込めた。
「・・・・?」
網代はとても出来ない人間を面白がりたいような顔をしていない。
真剣に・・・本当に出来ないかどうか確かめたいような顔をしていた。
「・・・おっちゃん、300円。」
「はいよ。」
忍足はそんなに得意じゃない。
それは本当である。
ただ、最後にやったのは随分前の事だしまだ小さかったし。
多少大人になった今なら、あの時よりは得意かもしれない。
「・・・・よい、しょ。」
ポチャン。
「ん。」
ポチャン。
「ん。」
ポチャン。
案外破れないもんだなと忍足は思い始めた。
記憶の中のポイよりはるかに丈夫。
「ん・・・あ。」
5匹目を掬おうとしたところでポイが破れた。
「はいよ、4匹ね。」
「おおきに・・・茉奈花ちゃん?」
「上手ね。」
忍足は数秒間考えた。
普通に見えるかもしれないが、今の上手ね、には間違いなく責めるような響きが入っている。
しかし、金魚掬いが上手だからと言って何故責められなければいかないのか。
まさか網代に限って、自分より上手な事に本気で腹を立てているわけでもあるまい。
分からない。
分からないが、機嫌が悪いのは間違いなく確実。
思考は僅かに数秒であった。
しかし、その数秒の間に、網代が先に持ち直した。
「ね!帰り、あっちの方にある公園に行かない?」
「公園?」
「噴水に放すの。元々金魚が沢山居て、この時期子供達があっちにこぞって放すのよ。綺麗よ?管理人さんも許してくれてるし。」
「へえ。」
「それとも侑士君、飼いたい?」
「いや。居るなら居るで面倒は見るけど、そこまで飼育がしたいいうわけでもあらへんから。ええで、行こか。」
「うん!」
若干まだ不機嫌の気配が見え隠れしているが。
いやまあ、この場合忽ちの対処は済んだから、それはまあ良いとしよう。
この場合、気になるのは原因の方。
(・・・金魚掬い、なあ。)
金魚掬いの何がそこまで引っかかったのだろうか。
わからないながらも忍足は考え続ける。