「ええと、ええとっ。」
「あ!居た居た!可憐ー!」
「あっ、皆ー!」
何はともあれ、可憐の心情と関係なく、絆創膏を貼られたら足の痛みはなくなる。
靴擦れを気にしなくて良くなった可憐は再び二人と別れ、マネジ陣と合流しなおした。
「ごめんね、心配かけ・・・あれっ?何か、メンバー変わってるっ?」
「ナギサと桜子と真央が抜けた!」
「んで、ちょっと全体的に少なくなっちゃったから合流しよっかーって。ね?」
「そうだったんだ・・・あっ!ご、ごめんね静香ちゃんっ!サンダル借りちゃってっ!」
「良いの良いの。私何ともなかったし。よいしょ・・・はい。」
「・・・・・」
「・・・可憐ちゃん?」
友人が手渡してくれた下駄。
おろしたて、今日の浴衣に似合うようにと帯と揃えた赤い下駄。
「・・・・・」
「・・・えっ、やだ!もしかして私、どこか汚したかしら?ごめんね、気を付けて履いていたつもりだったんだけど、」
「ち、違うよ違うよっ!そういうんじゃないの、大丈夫っ!有難うっ!」
そろり・・・と履きなおしてみると。
「・・・痛くないっ。」
「ほんと?」
「良かったあ!じゃあお祭り続行しちゃおー!」
「「「「おー!」」」」
なんて言って、テンションを上げ直す中で、金町はふと可憐を見つめる。
「・・・・・」
「・・・な、なにあかりっ?」
「いや、今日さー。可憐何か大人しくない?って思ってたんだけど、今そんな事ないからさー。ひょっとして、最初の最初からずーーっと足痛かったのかなって思って。」
「ええっ!?」
「あ、わかるー!」
「浴衣を着てるからかな、って思ってたんだけどね。」
「いつも小動物みたいにぴょんぴょんしてるのに。」
「ねー。」
「し、してないよっ!」
「してるわよー。」
「あはは!まあ、元気になって良かった。」
「ほんと、歩きやすそう。さっきと全然違う。」
「そ、そこまでっ?」
「うん、金魚っぽい。」
「金魚っぽい!?」
「わかる、この帯がねー。」
「可愛いわよね、兵児帯。ひらひらしてて、金魚の尾びれみたいよ?」
「そうそう、揺れてるのが可愛いのに大人しいからもったいないなーとか思ってた!」
「・・・皆、褒めてるよねっ?」
「・・・・勿論。」
「どうして目を逸らすのっ!」
「あはは!嘘嘘!」
「ちゃんと褒めてるよ、そんな怒んないでさ!」
「むー・・・えへへっ!」
ああ、良いな。
内心で呟く自分が居た。
例え今、ここじゃないどこかで自分の失恋が進行していても。
でも、目の前を楽しめる事はとても有難いと思った。
一方忍足と網代は、公園に居た。
金魚を放すためだ。
案内されて向かった噴水は、確かに相当数の金魚が居た。
管理人らしき中年の男が、今まさに金魚を放している祭り客を見ながら佇んでいる。
「えらい数やな。」
「でしょ?でもまあ、噴水と言ってもあっちまで水路で繋がっているし、ね。あんまり狭そうには見えないのよ。」
言いながら、網代は袋の口を開ける。
「・・・今年も一匹だけだった、な。掬えたの。」
「毎年やってるん?」
「うん。でも駄目なのよね。さっきも言ったけど、向いてないのよ多分。センスの問題っていうか。」
センス。
と忍足は口の中で呟いた。
「茉奈花ちゃんて・・・あ。いや。」
「え、なあに?」
「ええわ、何でも。」
「言いかけておいて止めるのは、止めてくださいません?ほら、なあに?」
「・・・茉奈花ちゃんて、自分がセンスがあらへんと思う事にも挑戦するタイプなんやろかと思うて。」
網代はちょっと眉を上げた。
今忍足は、そういうタイプ「なんだろうか?」と言った。そういうタイプ「なんだね」ではなくて。
金魚を掬ったのを見ているのに、だ。
やはり忍足が自分の事をよく掴んでいると網代が思うのは、こういう時。
「・・・そう、ね。金魚はまあ、お遊びだから気軽に挑めるっていうのは、大きいわよね。出来ないからって、そんなに大した事じゃないし。」
「・・・・・・」
「侑士君はどう?」
「嫌いやないで。」
「あらそう?意外だわ。」
「まあ、俺の場合不向きそうやからて言うて挑戦せえへんかったら、それはそれで嫌な事があるさかい。」
「???」
だって、やってみて出来ませんでしたはともかく、そもそもやってみないという選択肢を取ると、もれなくあの従兄弟に煽られるのだ。
なんや?腰引けてんのんか侑士!と言われたら、それだけで引けてへんわやったるわ見といてみい、と言いたくなるのは、これは何なんだろうか。兄弟喧嘩に近い意地かもしれない。
そういえば、昔はそれこそこういう掬いもの系の露店でどっちが多く掬えたとか、そんな事で張り合っていたっけ。
「・・・しょ。」
忍足が袋の口を開けて金魚を逃がすと、中に入っていた数匹は直ぐに水に馴染んで向こうに泳いで行ってしまった。
「・・・やっぱり得意だったじゃない。」
「・・・なんて?」
「なんでも?あ、そうだ!私まだかき氷を食べてないわ、付き合ってくれる?」
「ええで。」
網代はさっきから、忍足に何か言いたいことがある。
それがなんなのかは知らないがしかし、それはそれとして網代の中で「言ってはいけない」と思っているのも伝わってくる。
言いたいけど言っちゃダメ。
だからさっきから、頑張って言わないようにしている。
今忍足に分かるのはそれだけだ。
だから乗っかる事にした。
「侑士君はかき氷の味はどれ派なの?」
「せやなあ・・・ぶどうとか。」
「ああ、何か似合うわ。」
「茉奈花ちゃん、苺選びそうやな。」
「あら。そう見える?」
「ブルーハワイが好きやけど苺選びそうなタイプやな、て思うて。」
「・・・・・」
「当たってるん?」
「つまんないわ~。」
「ブルーハワイ食べたらええやん。」
「嫌でーす!舌に色が着く方が気になるもの。」
手を繋いで、かき氷の話。
金魚の話はもうしない。
今はこれで良いだろう。