次の日の朝。
別に泊りに来たからと言って夜更かしとかしない紫希は、いつもと同じく早朝に目が覚めた。
「ふあ・・・・」
母も父もまだ眠っている。
昨日は大人だけで遅くまでお喋りに明け暮れていたようだし、そっとしておこう。
でも祖母は多分もう起きている。
何か手伝おうか、と思ったところで。
「あ・・・・」
紫希はある事を思い出した。
廊下を通り、和室へ。
まだ皆眠っていて、家全体が静かな中で、すらっと障子を開けると、祖母が座っていた。
「お祖母ちゃん・・・」
「ん?あら、紫希ちゃん!おはよう。」
「おはようございます。」
「ごめんね、お腹が空いたわねえ。朝ごはん・・・」
「い、いえ!そうじゃないんです、そうじゃなくて・・・」
此処は和室で。
そして、そこに神棚がある。
祖母が毎日毎朝拝んでいる、お狐様の為の神棚が。
紫希は今まであまり取り立ててこれを気にしたことはなかった。
祖母が熱心に拝んでいることは知っていたが、母の雪乃は節目に手を合わせるくらいだし、仏壇は訪れる度に拝んでも神棚はそうではない。
なかったのだが。
「・・・私も、良いですか?」
「え?ええ、勿論よ。」
正座になって両手を合わせる紫希。
お狐様。
祖母が昔から祈る狐。
「・・・・少し前に、林間合宿があって。」
「あら、そうだったの?」
「はい。それで・・・学習の為に、神社に行ったんです。そしたら、そこの神主さんから言われて・・・」
「何を?」
「私には、狐様のご加護がある、って・・・」
紫希は、初めてこの神棚をちゃんと見た気がする。
「・・・・・・」
「お祖母ちゃん、私あんまり今までちゃんとお話を聞いたことがなかったですけど・・・このお狐様は一体、」
「私はねえ。あんまり、そう仰々しく崇めてるわけじゃないのよ。」
「え?」
「罰当たりかもしれないけどね。」
祖母はもう一度居住まいを正して神棚を見上げた。
「私にとって、彼女は友達。」
「と、友達・・・・」
「何も知らないで、仲の良い友達のつもりで居たのよ。今でもそう思っているけれど・・・もう彼女は、前のように私と関わってくれなくなってしまったから。きっと、もう自分が居なくても大丈夫と思ったのね。」
「・・・・・」
「こうして手を合わせるのはね?他に関わる方法が無くなってしまったからなのよ。本当は、前みたいにお喋りしたいけど・・・きっともう、私には出来ないわ。」
(お祖母ちゃん・・・・)
祖母は寂しそうな顔をした。
一瞬。
一瞬、だけ。
「・・・でも、嬉しいわ。」
「え?」
「本当はね?ちょっと思っていたのよ。私はこうして、今でも友達のつもりで振る舞っているけれど・・・彼女はもう、私の事なんて気にも止めてないかもしれない、って。でも、そうじゃないのね。大事な孫を見守ってくれているのなら・・・自分が見守られているよりもよっぽど嬉しいわねえ。」
「そんな・・・・」
「良いのよ、良いの。本当よ。こういう事は、年の順なのよ紫希ちゃん。そう決まっているの。」
「・・・・・・」
「・・・・さて。それじゃあ改めて、朝ごはんにしようかねえ。」
「あ、手伝いますーーー」
「止めて頂戴、娘は甘えてるって言うのに孫に働かれちゃあ、お祖母ちゃん恥ずかしくって仕方がないわ。ゆっくりしていて頂戴。」
「でも・・・・はい。」
紫希は祖母が出ていくのを見送ると、もう一度座って神棚を見上げた。
「・・・・ご加護、か・・・」
自分はまともに祈ったことなどなかったのに。
祖母の孫だからという理由で、こうしている間にも見守られ続けているのだろうか。
そんな存在に向かって、友達と言って憚らない祖母もよく考えたらわけがわからないけど。
(・・・私は良いですから、偶には、お祖母ちゃんに会ってあげて下さいね。)
用事があるからとか、もう大丈夫とか大丈夫じゃないとか。
友達って、きっとそういうものじゃ無い筈だから。
用事なんてなくたって。
理由なんてなくたってきっと。