Family moments 1:Repetition 2 - 4/4


紫希ちゃんが来てくれたおかげで、喧嘩が止まったわ。おおきに、有難う。

そう言って、年に一回しか来ない紫希の事を覚えていてくれるまめなマスターは、食器の弁償を断ったどころか珈琲の回数券までくれた。

そんな、自分はただ本当に迎えに来ただけで、と辞退すると、周りの客が皆口を揃えて「本当だから貰っておきなさい、気にしないで良いから」と言って、なんだか半分追い出されるように祖父と店を後にした。

「・・・・・」
「・・・・・」

2人。
無言で夕日の中を歩く。

紫希はちら、と視線を上げた。

「・・・お祖父ちゃん、あの・・・」
「・・・・・・・」
「・・・さっきのは、一体・・・」

祖父、圭太郎は口を言いにくそうにもごもご動かした。

「・・・・あの爺さんが悪いんだ。」
「と言うと・・・?」
「まあ、なんだ・・・・その・・・彼奴は昔からどうも馬が合わへん。偉そうで業突く張りで。自分だって都落ちのくせに、わしの事を都落ちの爺だと言いよる。はん!」

都落ち。
まあこの場合は、「洛中から洛外へと移った者」を差してのまあ悪口であろう。

京都という地には未だに一部身分の違いみたいな概念が残っていて、特に祖父、圭太郎が育った京都市内の更に中心。洛中と呼ばれる地域ではそれがかなり顕著である。

祖父は所謂「洛中のお嬢さん」ではない娘ーーー言うなれば身分違いとされる妻の美玲に冷たい目を向けるあの地に嫌気が差して、そこを出たのだ。というくらいの話しか、紫希は聞いたことがないが。

「・・・それが喧嘩の原因ですか?」
「いや、まあ・・・わしが言われるのはええんや。まあ。そんなもん、こっちに越した時からわかっとったこっちゃ。ただなあ、あの爺は美玲の事も馬鹿にしよる。そのくせ、美玲に色目を使って来よるんや。わしはそれが腹立たしゅうて敵わん。」
「え?・・・・え?え、お、お祖母ちゃんに?」
「そうや。勿論彼奴が勝手に懸想しとるだけやがーーーまあ面白いわけもないわ。」

それはそうだろう。どこの世界に、妻に色目を使われて面白い夫が居るというのか。

「まあそれもそれでいつもの事て言うたらいつもの事やけどーーー今日はまあ・・・まあ・・・その・・・」
「・・・?」
「・・・・・お前の話が出てもうてなあ。」
「え?」
「わしが悪かったんや。他の客と話しとる時に、ついつい孫が来てるて言うてもうて・・・彼奴、聞いとったんやな。したら、何て言うたと思う?同い年くらいの孫が居るさかい、見合いさせてやってもええやと抜かしおったんやぞ。」
「・・・・えええ!?」
「絶対させへんぞ!あんな奴の孫や、ろくでもないに決まっとるわ!挙句の果てにわしの事を、妻からも孫からも嫌われとる偏屈爺やと宣いおって!ほんまに彼奴だけは、いつか必ずーーーーあ・・・・」
「・・・・・・」

話の処理が追いつかなくて、ぽかん・・・な紫希に対して、圭太郎は孫娘がショックを受けていると思い口をつぐんだ。

「いやまあ、その・・・・心配せんでええて。見合い何ぞ絶対させん。」
「は・・・はあ・・・」
「まあ彼奴の孫っちゅうだけで気に入らんちゅうのもそうやが・・・まあ、ほれその・・・」
「・・・お祖父ちゃん?」
「・・・まあ、なんちゅうか。お前がいつか結婚する時には、その相手はお前が選ぶのんが一番ええねんや。お前が一番笑顔で居られる相手をな・・・」

それがどこの誰なのかは神のみぞ知る。という奴だけど。
でも。ああでも。今日、ちょっと思ってしまったのだ。

「・・・紫希は、雪乃にほんまに似とるなあ。」
「?そう・・・ですか?」
「そうや。笑い方なんかそっくりや。彼奴もよう紫希に似た顔で笑っとったわ。」

そしてそれは、決まって夏であった。
一年に一度、真と会える夏。

もう今は、愛しい娘は、毎日あの笑顔を浮かべて居るのだろう。
それだけで圭太郎は、親としてもう幸せで仕方がないのだ。

「紫希。」
「はい。」
「中学校、楽しいか。」
「はい・・・とっても楽しいです。」
「そうか。」

そうだろうな。
そう思った、夏の日の夕暮れ。