帰宅すると、まだ17時だというのに、もうすでに宴会まっさかりみたいな煩さだった。
ああ、これはあの叔父が起きている。そして出来上がっている。間違いなく。
取り立てて静かにしなくても足音がかき消えるような煩さの廊下を進み、スラっと広間の障子を開けると、ほれやっぱり。
「あ。お帰り。」
「ん。」
「あ!千百合、おか「あーーー!千百合じゃーーん、ひっさしぶり~~!」
酒の入った赤い顔で、実に無遠慮に指を指してくるこの叔父が、黒崎米助である。
本当に煩い。これで40代も半ばなのだから、恐れ入る。
「なんだなんだ、でかくなっちゃって~~!こ~~んなちみっこかったのにさーあ?」
「そこまで小さくない。」
「うるせえんだよ、お前は!ごめんね千百合ちゃん、あの馬鹿弟は気にしなくて良いからさあ。」
「ああ、広叔父さん。どうも。」
「千百合ちゃん、こっちおいで?あんなお酒くさい人の所に居たら、お酌させられちゃうよ?」
「どうも。」
まともな親戚に誘導されて適当な席に着くと、兄が涙目になって自分を見ている。
「千百合、助けてくれ・・・金貸してくれ、頼む・・・!」
「知らね。史郎おじさんと花札なんかするからそういう目に遭うんじゃ・・・ぐえ。」
「千百合ちゃーん、あそぼー!」
「こら、駄目でしょ!って、きゃあ!こらスカートめくるんじゃない!」
「へへへー!」
叔父がこの場に居るだけで3人。
叔母が2人。
従兄弟が5人居て、その内一人はふみゃあふみゃあ泣いてる新生児。
此処に自分と兄と両親と、祖父母と飼っている猫のタマまで居合わせると、もうカオス。
総勢で16人の大所帯である。
もっと多い時は、此処に更に叔父が1人と叔母が2人、従兄弟が2人加わってもう誰が誰やらわからない有様。
ああ疲れる・・・と思いきや、千百合は結構この空間が嫌いではなかった。
これだけ人数が居ると、自己主張しない限り原則放っておかれるので、あまり構われたくない千百合としては逆にラッキーであった。逆に、偶に妙に集まりが悪く人数が少ない時の方が、皆何くれとなく構ってくるのでちょっと面倒。
「千百合~~~!」
前言撤回。
人数の多寡に関わらず、この叔父は面倒。
「何。」
「ま~ま~、そう言うなよ~。な?哀れな迷える子羊叔父さんに、何卒お慈悲を!」
「何が。」
「いやな?ほら、恋愛マスターのお前にさ~、恋人を作るコツなんか聞けないかな~、なんて・・・」
「誰がマスターか。」
それから、今の千百合が恋人と上手く長く付き合えているように見えるのなら、千百合側に聞くのはそれこそお門違いだと千百合は自分で思う。主に幸村側の功績が大きいだろう。
と、父の雄一も思ったらしい。
「そんなの、幸村君に聞けば良いだろう?千百合は女の子だぞ、男の兄貴がコツを聞いて参考になるか?」
「だあああまらっしゃい!あのな、俺一回しか会った事ないけど、あんなの真似が出来るかよ!スーパーマンだぞ!小学生なのに!成績優秀!スポーツ万能!容姿端麗で家は金持ち!」
「もう中学生だよ。」
「あんただって年収はあるんでしょう?年収だけは。」
「ああ、年収だけはな。」
「だけは余計だよ!あ、千百合まだ話は終わってないぞ!飯を食うな!いや、食べてて良いから話聞いて下さい!」
「面倒くせ。」
この寿司美味いなあ、なんて思いながら次のトロに箸を伸ばす千百合は、叔父の話なんか全然聞いてない。
「ね~、お願い!ちょっとだけ!ね~ってばー!」
「貴音姉ちゃん、わさび取って。」
「あ、はいどうぞ!」
「ありがと。」
「無視ぃ!?ねえ~何かさ~、俺に合ってるのはどんな女の子か、とかだけでも良いから~!」
「私が知るかよ・・・あ。」
「え?何?」
「占って貰ったら?」