しかし、そうは言われても具体的にどうしたら良いかはあまりよく分からず。
取り敢えず一緒に居てみる事かなと思った可憐は、祖父を探して家を歩き回っていたのだが。
「な、何か探すと居ないっ!お祖父ちゃんどこっ!?お祖父ちゃん・・・」
会津家は裕福ではないが、昔からずっと同じ土地に住んでいて家は大きいのである。部屋数もあるので、全部探すとなるとそこそこ時間がかかる。
入れ違い防止の為に、一部屋一部屋と覗いていき、その内書斎に差し掛かった。
此処は家の中でも、祖父が居る率がそれなりに高い所だが。
「お祖父ちゃん・・・あ!居た、お祖父ちゃん・・・・」
「zzzz・・・・・・」
「あれ?お祖父ちゃん?」
祖父はすやすやと眠っていた。
座椅子に座ったまま、机に何か広げたまま。
(寝てる・・・)
思えば祖父が眠っているのもまじまじ見るのは久しぶりかもしれない。
可憐がどうしようか悩んでいると、窓からふいた風が本のページをめくった。
「あ!ダメダメ、戻しておかないと・・・あれ?」
祖父が読んでいたのは。
なんと、月間プロテニスであった。
中学全国大会のまとめ。
氷帝学園もページの一角を飾っており、そこにピンクの蛍光ペンでマーカーがしてある。
「・・・・・・!」
これを祖父がやったのだろうか。
いや、祖母がやったのでも良い。見ていた事には変わりないのだから。
祖父母は、テニスになんて興味も縁もない事は可憐はよく知っている。
そんな祖父がテニスの雑誌を見ている理由なんて、ちょっと考えれば直ぐに分かる。
「お祖父ちゃん・・・・」
祖父は自分にーーー自分だけに限らず、家族にあまり関心がないのだと可憐はずっと思っていた。
だから、自分がテニス部に入った事は祖母伝いに知っていても、ああそうかくらいにしか思っていない。そう信じて疑っていなかった。
でも、違うんだろうか。
口に出して言わないだけで、本当は皆の事を気にしているんだろうか。
孫の事も。
子供の事も。
妻の事も。
「・・・・・・」
可憐はそろり、そろりと近くに置いてある祖父のペーパーウェイトで雑誌を固定した。
そしてそのままそろりそろりと退室して。
いや、しようとして、あっさり畳のへりに足を取られて尻もちをついた。
「いたあっ!いたたたた・・・・!」
「・・・・ん?」
「あああああっ!ご、ごめんねお祖父ちゃん起こしちゃってっ!」
「起こして・・・ああ、眠ってたのかわしは。」
「ご、ごめんね本当にごめんね!勝手に入ってっ!」
「それはまあ、別に何でも良いが。用事があったんじゃないのか?」
「あ、い、いいえっ!用事とかは、特に・・・」
「・・・・・・」
「ないん・・・・だけど・・・」
「そうか。」
それだけ言う祖父は、本当にそっけない。
さっき感じた暖かさはなんだったのだろうか。
嘘か。いや。
嘘とかじゃない。これが祖父なのかもしれない。
「・・・・ねえお祖父ちゃん。」
「何だ。」
「お祖父ちゃん、月間プロテニスなんか読むのっ?」
「お前が出とるからな。」
まあ、お前じゃなくてお前の部活だが。
そう付け加える祖父の声音は、本当に事もなげだった。
「・・・どうして言ってくれなかったのっ?」
「何故言わにゃならん?」
「何故ってーーー何故って・・・・」
「わしが応援しとる事と、お前がどうするかには関係ないじゃろう。」
「そ・・・・!」
そんな事ない。
応援してくれる人が居る、その事がどんなに力になるか。
と言いかけて可憐は辞めた。
そうか。祖父にはその発想がないのか。
(お祖父ちゃんって、人は人で自分は自分ってタイプなんだなあ・・・・)
可憐は絶対にそういう発想をしないので、祖父のこの思考回路は全然ピンと来ない。
でも。
祖父は祖父なりに自分の事を考えてくれていることを、可憐は初めて感じた。
「・・・・ねえお祖父ちゃんっ。」
「何だ。」
「お祖父ちゃんって・・・お祖母ちゃんの事好き?」
「おかしな事を聞く。好きでなければ連れ合いになんぞならんだろ。」
「で、でもっ!お見合いだって・・・・」
「ああ、まあ・・・確かに、見合いで会うたのは事実だな。」
「じゃあ・・・」
「まあ、ただ・・・何というかなあ・・・」
「・・・何というか?」
「・・・わしが言うのもなんだが、あれは変な女でなあ。初めて会った時から。」
「へ、変な女っ!?」
「まあ、好きかどうかは兎も角、会った時から印象深い女ではあったな。」
「変な女っていうのはないんじゃないですか、妻に向かって?」
振り向くと、祖母が後ろに立っていた。