居間の一角で、奇しくも偶々家に全員揃っていたので、皆でお茶でもという事になった。
ちゃぶ台を車座で囲み、その真ん中に可憐が仏間に隠したあの絵葉書。
「・・・それで、可憐はこれを見つけて、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの一大事だと思ったんだな?」
「うん・・・」
「見て良ーい?気さくで笑顔の素敵な貴方が好きです・・・理恵より。」
「あはは・・・なんだか恥ずかしいねえ、自分の書いた手紙を読まれるって言うのは。」
「それで?」
母、遥が祖母の顔を覗き込むようにして聞いた。
「はっきり聞いちゃうけど、これは誰当てなの?」
「わしに決まってるだろう。」
祖父はこともなげに言った。
「そもそも、それはわしの引き出しから落ちたもんだ。」
「でも、お祖父ちゃんって気さくで笑顔が素敵なの?」
「そうだ、そこだ。わしはもう結婚して何年にもなるが、未だに自分の事をそんな男だと思った事がない。ないが・・・」
「えへ♪」
祖母は悪戯っぽい顔で笑った。
「どの辺がそうなの?」
「えー、だって・・・私、お祖父ちゃんとお話してる時が一番楽しいんだもん。どんな事でも聞いてくれるし、覚えててくれるのよ?どんな小さな話だって、忙しいとかくだらないとか言わないで、必ず聞いて覚えててくれるの。初めて会った時からそうだったわ。」
祖母の理恵は元々お喋りな方であった。
だからそれまで色んな人と語らってきたが、夫程自分の話をちゃんと聞いてくれる人は居なかった。
「私、この人にならどんな事でも話せるわ、って思ったの。それって、気さくな人でしょう?何の気兼ねも要らないのよ?」
「うーん・・・」
「まあ確かに、それは気さくな人と言えるかもしれませんね。」
「でしょう?」
「んー、でもやっぱり美梨的にはちょっと納得いかないかなあ?お祖父ちゃんって気さくなタイプには見えないもん。」
「美梨ちゃん、気さくな「タイプ」と気さくな「人」とは違うのよ?世間様にとってこの人が気難しい人でも、私にとっては気さくで笑顔が素敵な男性なの。今も昔もね。」
祖父の朝雄は、照れているというよりも、解せない・・・な顔で話を聞いている。
違和感の方が先に立ちすぎて、喜べないらしい。
「どうも自分の事を言われてる気がせんというか・・・」
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃんの話本当にそんな覚えてるのっ?」
「そりゃあまあ、理恵の話は面白いからな。誰だって覚えるだろう。わしでも覚えられるぞ。」
「お祖父ちゃん・・・」
「お父さん、それって惚気って言うの!もー、昔から妙な所で天然っていうか・・・」
「・・・でも、なんだか分かる気がしますよお義母さん。」
「お父さんっ?」
「俺もさ。遥から何度か言われたことがあるんだ。健二さんって、凛としててきりっとしててかっこいい、って。」
「凛としてて・・・」
「きりっと・・・」
「ははは・・・わからないだろ?俺も分からないんだよ。自分がそんな人間だなんて思った事もないからな。」
「えー!そんな事ないってば、絶対!」
「まあまあ。わかったでしょ?そういうものなのよ。自分が見てる相手の一面が、世間様から見たその人の一面と同じだって限ってるわけじゃないんだから。」
「ふうん・・・」
「逆に、」
理恵は湯呑を置いた。
「もしも可憐ちゃんや美梨ちゃんにそういう人が現れたら。」
「そう言う人っ?ってどういう人っ?」
「つまりね?自分の思うその人と他人様が思うその人像が違う人が現れたら、その人はきっと貴方達にとって大切な人なのよ。誰も見られない一面が見られる人なの。別に男性じゃなくても、友達でも良いわ。きっとそうよ。」
ふうん?と呟く妹の隣で、可憐はそっと視線を伏せた。
思い当たる節がある。
そういう人。
そういう大切な人。
でも、きっと。
彼女は自分よりもっと知っている。