「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、」
少女は走っていた。
朝頑張ってセットした髪は早くも乱れかかっていて、駅のコンビニで買おうと思っていた朝食のパンも買えず終いだ。
なんという事だろう、真逆朝から転んだ挙句、カバンの中身をぶちまけてしまうとは。
おかげで余裕を持って出てきた筈なのに、すっかり電車ギリギリの時間だ。
「はあ、はあ、ええと、電車、電車・・・!」
ホームに着いた時、片側に丁度電車が滑り込んで来た所だった。
ドッと流れて来る人の波は、ただでさえ慌てている少女から尚冷静な判断力を奪ってしまう。
(ど、どうしよう、どうしよう、どっちに乗るんだっけ!?今来てる電車かな!?それとも違うかな・・・)
おろおろ、おろおろ。
周りの人が、何も知らなくても「もしかしてこの子迷子なのでは?」と察するレベルでおたついている彼女の視界を、1人の少年が横切った。
基準服だ。
自分と同じ。
(こ、こっちだ!この電車なんだ!)
慌てて後を追い、彼女が車体に乗り込んだ直後、電車は扉を閉めるアナウンスを始めた。
(ま・・・間に合っ・・・、)
「お嬢さん、もっとこっち来んと。」
「え?」
声が聞こえたと思ったら、肩を抱かれる感触がして誰かに引き寄せられた。
(あ・・・)
見上げると、さっきの少年だった。
「え、ええ!?あ、あの、」
混乱していると、扉がプシューと音を立てて閉まった。
「そない扉の近くに居ったらスカート挟まれてまう、と思ったんやけど・・・いきなりやったらびっくりしてまうな。堪忍な。」
「う、ううん、そんなの!私が悪いの、私ドジだから!本当に有難う!」
にこっと笑う彼女に、少年も思わず笑みを誘われてしまうが。
「・・・あ。」
「え?」
「ヤバイわ、電車間違えた。」
「え、ええ!?」
少年が扉の向こうに目を向けている。
嫌な予感がして少女も目を向けると、向側の反対方向に向かう電車に、ぞろぞろと同じ基準服の集団。
「逆側やったか・・・」
「ええええ!?そ、そんなあ!」
「まあしゃーないな。」
「つ、次の電車は!?」
「これ快速やさかいなあ。次止まってくれる所から折り返しても、まあ遅刻やろうな。」
「そっ・・・・!」
なんてこったい、である。
顔面蒼白になる彼女に、少年は不謹慎ながらも微笑ましさを覚えて少し笑ってしまった。
「ふっ・・・慌て過ぎやろ。」
「だ、だって遅刻だよっ!?今日入学なのに、入学式もクラス発表も色々あるのに、こんな最初からなんて!」
「別に死ぬわけやあらへんよ。それに・・・」
「・・・?」
「なんやそない悪い気はせえへんねん。お嬢さんが一緒やさかいな。」
そう言って彼が微笑むから、少女の慌てていた心は漸く凪始めた。
そうだ。
悪い事ばかりじゃない。
1人じゃないから、きっと。
「お嬢さんも1年生やろ?俺は忍足侑士や。よろしゅうな。」
「桐生、可憐です!よろしくね、忍足君!」
順調とは言いがたくても、この日。
確かに桐生可憐は、スタートを切った。