「まあ、そういう事情なら仕方がないが・・・今度からは、遅刻しないように。」
「「はい、すみませんでした。」」
可憐と忍足は職員室で揃って頭を下げていた。
ようやっと止まってくれた電車を降りて折り返し、やっと辿り着いたぜ氷帝学園・・・と思ったら何処が職員室なのかも分からず、這々の体で職員室に着いた時にはもう昼過ぎ。
其処から2人ですっかり誰も居なくなった食堂で昼食を取り、説明や書類の受け取りや何やりかんやりをこなしていたら、あっというまに夕方になってしまった。
「うん、じゃあ今日はもう良いから。気をつけて帰りなさい。」
「「はい、失礼します。」」
再度揃って頭を下げて、職員室を一歩出た。
途端。
「「ふ~~~~・・・・」」
長~い溜息が思わず出た。
2人とも状況が許せばこの場にへたり込んだであろう。
「なんやドッと疲れたわ・・・」
「あ!でもあんまり怒られなかったよねっ!忍足君のおかげだよ、有難う!」
「ああ、あんなん構へんで。半分はほんまの事なんやし。」
遅刻というレベルを遥かに超えた遅刻をぶちかました2人は、あわやガチのお説教を食らうかという時に、忍足の「迷子になりました」という発言で難を逃れたのだった。
曰く、自分達はちょっと、あくまでちょーーーっと遅れただけ。
でも不運な事に、そのちょっとの所為で人は全員移動してしまっていて、誰にも道を聞けなかった。
自力で辿り着こうと頑張ったけど、こんなに学園が広くて複雑では初見の人間には辛かった。
だから悪いのはこっちじゃない、この、外国の大学かというほどクソ広い学校の所為。
俺達無罪。
という事を、忍足は言葉巧みに教師に訥々と説明して言い包め、お叱りを免れた。
「願書取りに来た時は普通やったんやけどなあ。」
「ね。何時からこうなんだろう?」
跡部財閥の御曹司が入学を決めた時からである事を、新入生代表挨拶を聞き逃した2人は知らない。
「忍足君は、これからテニス部?」
「ああ・・・どないしよかなあ。正直今日は疲れたし、もうええかなって気になってるんやけど。」
「そっか。でも、確かに疲れちゃったねーーー」
ピリリリリ。
ピリリリリ。
「ごめんな。」
「あ、ううん!全然どうぞ!」
「はい、忍足・・・ケンヤか。」
(けんや?)
お友達さんかな?と思いながら、可憐は電話する忍足の隣を歩く。
忍足の足は迷うことなく校舎を出たので、可憐もそれに倣った。
本当に今日は真っすぐ帰るつもりらしい。
「ああ・・・・おん・・・・。東京?せやなあ・・・正直色々思うてたんと違ういうか・・・ああ、でも可愛いお嬢さんとはお近づきになったわ。」
「え!?」
思わず忍足の方を見やると、サッとウインクを返されて可憐は思わず鞄を落とした。
「ククッ・・・あ、ちゃうちゃう。こっちの話や。」
(もう!忍足君はすぐこういう冗談言うんだもん!)
膨れた可憐が、ついっと忍足と逆方向を向いた時だった。
「え・・・」
(あ・・・あれ、何っ!?)
人が何人も続々と、同じ方向に走っている。
こっちに向かってくる。
そして通り過ぎる。
「ん?ああ、ちゃうねん。なんや今人の波が目の前を横切っとってな。」
(何かのイベントなの?)
しかしその可憐の推測は、漏れ聞こえた声によってあっさり否定された。
「本当なの!?跡部様が勝ってるって!?」
「そうよ!勝ったら1年生にして、いきなりテニス部部長よ!」
「えー!?それって3年生より強いって事!?」
(・・・えっ!?待って、待って!今のって、)
1年生にして
3年生より強い
勝ったら
跡部が
跡部
「テニス・・・部、」
そうだよね?
今テニス部って言ったよね?
忍足を振り返ると、忍足も又真剣な目で集団の向かった先を見ていた。
「・・・堪忍な、かけ直すわ。」
そう言って通話を切り、そちらへ足を向けてーーー
「桐生さん。」
忍足は振り向いた。
「・・・どないする?一緒に見に行くか?」
舞い散る桜吹雪の中。
「・・・はいっ!!」
風に背を押されるように、可憐は忍足の方へ。
まだ見ぬ未来へと一歩を踏み出したのだった。