「す・・・すごいっ・・・!」
可憐は思わずそう漏らした。
夕日に染まるテニスコートの中、一人の少年は、
2人の少年を相手に渡り合うどころか勝っていた。
目を見開いて固まる可憐の隣で、忍足は冷静そのものの目で試合を見ていた。
(あの2人も動きは悪うない。)
悪くないどころか、かなり優秀な方である。
相手の方ーーー跡部景吾が異常なのだ。
「Game and match! Won by 跡部!」
わあっと上がる歓声。
「えっ、えっ!?お、終わったんだよね?あっちの子が、勝ったんだよね?」
「せや。」
「すごいんだね・・・」
すごいとかそういうレベルじゃない。
あれは頭がおかしいと言うのだ。
ざわめく観客たちの中、跡部は高らかに右手を掲げた。
「ーーーー他に!俺様と勝負する気のある奴は居るか?」
俄かに静まり返る観客席。
誰も一言も発そうとしない。
「・・・ふん。居ねえなら、俺が今日から・・・」
「俺や。」
(えっーーーー)
呆気に取られる可憐の目の前で、忍足は立ち上がってジャケットを脱ぎ、眼鏡を外した。
「ごめん桐生さん、これ眼鏡ケースに入れといてんか?鞄の中開けてええから。」
「え!?あ、うん!」
慣れた手つきでラケットを取り出し、ネクタイを緩めながらコートに向かう忍足。
一歩。
また一歩。
夕日の中、忍足が跡部に近づいて行かんと足を踏み出す度、分けも分からず高鳴っていく可憐の鼓動。
(試合・・・勝負・・・)
テニス。
可憐にとって未知なる世界の話。
「ほう?今の試合を見て、1人で来るとはな。誰か仲間は呼ばなくていいのか?其処のそいつらみたいに。」
跡部にラケットで指される、向日岳人と宍戸亮を忍足は見やったが、すぐに視線を跡部に戻した。
「言うとくけど、今見せてもろた位の力量で俺に勝てると思たら大きな間違いやで。」
「あーん?上等じゃねえの。」
大丈夫なんだろうか、あんな煽るような事を言って。
正直、可憐には跡部の力量も忍足の力量も、察するどころか見てもよく分からないのだが。
よく分からないのだが。
よく、分からないけど。
「おっ・・・忍足君!頑張れーーー!」
その声に、忍足は可憐を振り返って。
任しとき。
と唇を象った。