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全国大会が終わると、一に部活二に部活、三も四も五もぜーんぶ部活!な空気は流石に少し弛緩し始める。
適度に休息日を挟みつつ、段々と冬に向けて試合形式の練習から筋トレメニューへと緩やかに変わっていくタイミングである。

それは立海だろうと氷帝だろうとあまり変わらない。
多くの学校が同じ大会に向けて備える以上、メニューも概ねどこもこれに倣う。

「本当に良かったのかい?」
「何が。」
「折角一日空いてるのに、と思って。」
「でも今日じゃないと駄目なんでしょ。」
「まあ、それは。」
「じゃあ良いよ別に。」

幸村と千百合は電車に揺られていた。

今日は元々、幸村は千百合をデートに誘おうと思っていたのだ。
思っていたのだが、誘う前に違う人間からお誘いを受けてしまった。

その日はちょっとと言いかけると、じゃあいつなら良いんだと言われ。
知らない人でもない・・・というか、率直に言うと結構お世話になった相手なので、無理なもんは無理と無下にも出来ず。

そうして結局、千百合もそれに付き合うという形で決着した。

幸村は結構居気にしているが、ぶっちゃけ千百合はさほどデートがこういう成り行きになったことを気にしていない。元々一緒に居られれば、何処へ行って何するとかどうでも良いし、大体いつも幸村任せにしているくらいだし。

「逆に精市はそれで良いわけ。折角休みなんだし、何かもっと人の予定に合わせるんじゃなくて好きな事をしたら。」
「うん?うん、してるよデート。」
「・・・・・・」
「ぷっ、あははっ!本当だよ、だから俺の方から誘ったのに。信用がないなあ。」
「そうじゃないけどさ・・・」

やっぱりこう、多忙さが段違いな為に、どうしても千百合は幸村が無理してるような気がしてしまうのだ。
正確に言うと無理と言うほどの無理ではないけど、義務感というか。

「それに全国が終わって、今は結構休みが多めの時期に差し掛かるしね。一時期に比べたら、随分ゆっくり過ごしてるんだよ。」
「いや、それは全国直前が多忙過ぎるんだってーーーーあ。君島育斗。」
「え?」

電車の中にあるデジタルサイネージ広告に映ったそれに、ふと千百合の視線が奪われる。
広告の中の君島は爽やかな笑顔で、ミントフレーバーのタブレットを片手にポーズを取っていた。

今まで興味もなかったし今も別に興味があるというほどでもないが、なるほどこうして意識してみると、結構そこかしこのCMに出ているらしい。

「珍しいね、千百合がタレントさんに興味を持つなんて。」
「いやまあ、こないだ偶々存在を知って。っていうか、テニスプレイヤーなんだって。精市知ってた?」
「うん。俺はどっちかというと、テニスプレイヤーとして知ったのが先かな。CMスターだっていうのは、それこそこの前初めて松から聞いたよ。」
「へえ。松ちゃん流石。世の中のトレンド抑えてるな。」
「千百合は、五十嵐辺りから聞いたのかい?」
「いや。っていうか、実を言うと中華街でロケしてた所に居合わせちゃって。」
「え?」
「まあ、居合わせたって言っても取り囲まれてたのを遠目に見ただけだけど。」
「いや、それでも十分居合わせたに入るんじゃないかな。凄いね、そんな偶然があるなんて。」
「私はそれこそ人だかり見ただけだったけど、紫希と紀伊梨とか会ってアイス奢って貰ってたよ。」
「えっ?どうしてまたそんな事に?」
「何かホテルに居たんだって。本人は流石にもっと良い所泊まってるだろうけど、スタッフがイルピネットホテルの方に居たらしくて。そのスタッフに会いに来て、部屋から出た所で紀伊梨が鉢合わせーーーあれ?いや、何か軽くぶつかったんだっけかな。何か、そんな感じ。アイスはお詫びって感じで。」
「へえ・・・千百合はその場に居なかったのかい?」
「私部屋でごろごろしてた。まあ、別にさして会いたいとかもなかったし、勿体ないとも思ってないけど。」
「ふふっ。それは別に思ってても良いんじゃないかい?結構な有名人だよ。」
「割かし興味ない。」

それこそ電車の中なんて、どこの誰が聞いてるか分からないから言わないが、アイスの包み紙に書いてもらっていたサインを千百合は事も無げに普通に捨ててしまった。
紫希や紀伊梨は洗って大切に取っておいてあったが、千百合は本当に興味がない。
本当に。心の底から。

興味がある有名人なんて、千百合にはそれこそ片手で数えるくらいしか居ない。

そして、その内の一人が今タイムリーにも広告に映った。

「あっ。」
「え?・・・・わあ。」

広告は移り変わって、君島育斗が消えた入れ替わりに月刊プロテニスの広告に変わる。

プロテニスの世界大会は冬。なので夏である今はその点はフォーカスを当てられることが少ない。逆に今は、学生テニスが大きく取り上げられるターンである。

表紙を飾るのは、なんと幸村。それに真田に柳。
中学1年生にして、立海を全国優勝まで導いた強いーーー強すぎるルーキートリオである。

「ねえ、帰り本屋寄って良い?」
「・・・・念のために聞くけれど、何を目的に?」
「え、あれ今日発売でしょ。」
「俺が持ってるのをあげようか。サンプルを持ってるから。」
「いや。こういうのは自分で買う。」
「・・・有難う。」
「何。嫌なの。」
「嫌っていうと、語弊があるけれど・・・うん、確かに抵抗は少しあるかもしれない、かな。」

幸村はスクールの時から目覚ましい活躍をしてきたが、それでもあくまでスクール生としての成績でしかなかった。
だからそれに伴って、露出するといっても今まではそれなりでしかなかったが、中学の全国大会という公式の場で表彰台に立った事で、幸村は今初めて雑誌の表紙を飾ったり、こうして広告に出てきたりみたいな事になっているわけだ。

流石にちょっと気恥ずかしい。
自分になんら恥じるところがなくても、ここまで目立った経験は今までにない。
別に堂々としてれば良いと、頭では分かっているけれど。

やや俯き加減になる幸村に、千百合はちょっと目を見開く。

「え、何。もしかして恥ずかしいの。」
「うん、まあ・・・正直、ちょっと。」
「今までそんな事なかったじゃん。」
「今まではここまで大きくは取り上げられなかったしね。サンプルも貰ったけど、いざこうして広告とかに出されると。」
「へえー・・・・」
「・・・千百合、何だか楽しそうじゃないかい?」
「正直楽しい。滅多に見られないし。」

普段はどっちかというと千百合の側が恥ずかしがり、幸村はそれを見て可愛いとか言って追い打ちをかける図になるので、これはちょっと形勢逆転的な優越感がある。
人の恥ずかしがる様の何が可愛いんだよとか思っていたけど、成程。これは確かに。

「今の精市、結構可愛いよ。」
「嬉しくないよ・・・」
「私の気持ちわかった?」
「千百合は女の子じゃないか。」
「そこに差ある?」
「あるよ。千百合は俺に可愛いって言われて嬉しくない?」
「・・・・いやまあ、嬉しくないって言うと語弊がないでも、ないけど・・・」
「そうだろう?俺は嬉しくない。というかはっきり言うと、結構嫌だよ。」
「そこまで?」
「俺は男だから。」
「そこに差があるわけ?」

「そりゃあそうだよ。俺は男だから、好きな女の子からはかっこいいって思われたいよ。いつも、どんな時でもね。」

大人が聞いたら、多分この発言はにやりと笑われる。
青い、青いね。若いねえと言って。その内可愛いって言われる事の嬉しさが分かるよ、と言って。

その辺りなんだかんだ言っても、幸村はまだ13才の男の子である。
大人っぽいけど、まだ大人じゃない。だからまだそこまで悟れない。

(こういう態度になってしまう時点で、既に子供っぽくてかっこよさからは遠いのかもしれないけど・・・)

まさか勝つ事によってこういう弊害が出るなんて。
それとも数を熟せば慣れてくるんだろうか。

いや、出来る出来ないじゃないやらないと、自分の矜持の為に・・・とか幸村はつらつらと考えだし。
千百合は、それ以上かっこよくなって一体どうする気なんだろうかと結構真面目に考えた。