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紫希は図書館の常連である。

休日になって暇があれば、取り敢えず図書館へ行くのが習慣になっている程度には図書館へ行く。

其の為、図書館で起こる事になかなか詳しい。
何曜日にどんな事をやっているかとか、何日の何時からどんなイベントがあるかとか、よく見る顔とか逆に見ない顔とか、そういう事に敏感なのだ。

だから知っていた。
今日は夏休み限定、サイエンスマジックイベントをやる日である。
小学生以下のちびっ子たちが沢山来る日だ。

「わー!すごーい!」

「ねーねー、どーやってやるのー?」

「僕もやる、僕もー!!」

「こら、順番よ順番!」

わあわあ、きゃあきゃあ。
はしゃぐちびっ子に悪戯するちびっ子、それらを止める保護者の声で、図書館とは思えないほどの賑やかさ。

でも、紫希は結構こういうのが好きだったりする。
静かな図書館も良いけれど、こんな風に笑顔が沢山で賑やかな図書館も偶には良いものだ。

それに、子供が図書館に来るのは単純に良い事じゃないかとも思う。
最初から本に興味がなくても良い。こういう事がきっかけで本を好きになってくれれば、それは嬉しい事だ。

ほら、あんな所にも絵本を読んでいる小さい子が・・・なんて思って見ていると。

「にーちゃん!」
「んー。」
「にーちゃん!読んで!」
「あーとーでー。」
「やーだ!」
「やだじゃない!今これ読んでるの!」
「やーーーだーーーー!くだもの読むーーー!」

ちびっ子が、更に小さいちびっ子から本を読めと迫られている。
とはいっても、自分も読んでいるから邪魔されたくないらしい。
さりとて相手も、そんな事情が通じるような年のちびっ子じゃないし。

「ばーちゃんに読んで貰えよ!ねー、ばーちゃ・・・あ、そっか今トイレか。」
「読んでー!読んでーーー!」
「あーもー煩いな!あっち行け!」
「やーだ!」
「あ!」

とうとう小さい方のちびっ子が癇癪を起こし、持っていた「くだもの」というタイトルの絵本を床に叩きつけた。

「こら!」
「あ”ーーーーー!」
「~~~~~~!」

年の差があるとはいえ、そもそもちびっ子とちびっ子の言い争いである。
双方こらえ性も何もあったもんじゃないし、基本的にこの年の子供は我儘がデフォルト。
祖母っぽい人物も居るらしいが、どうやら今は手洗いらしいし。

紫希は自分の足元までやってきた、「くだもの」を拾い上げた。

「・・・・あ、あの・・・」
「!ごめんなさい、」
「そ、そうじゃなくて・・・良ければ、私が読みましょうか?」
「え?」
「も、勿論、嫌なら良いんですけど・・・」

年上の方のちびっ子は、迷ったような表情をみせた。
近頃のお子様は基本教育が行き届いているので、「知らない人」という奴には敏感である。

が、小さい方のちびっ子はそんなもの意に介さない。

「読む?」
「え?」
「読む?」
「・・・読みましょうか?」
「読む!」

そう言うとちびっ子は泣き止み、近くの椅子をぺしぺし叩いた。
此処に座れという事らしい。

「失礼します・・・・」
「お膝で読む!」
「ああ、お膝。はい、」
「こら!駄目だろ!」
「やーーーだーーー!」
「だ、大丈夫です、大丈夫ですから!お膝で読みましょう、そうしましょう!」
「うん!」
「あのなあ!」
「あ、あはは・・・」

子供って凄いなあ、と紫希は純粋に感心してしまう。
こんなにきゃっきゃしてるのに、一瞬であの癇癪丸出しのきいいいいい!な声が出せるのだ。自分にはとても出来ない。やれって言われても無理。

「ええと、・・・いちごさんいちごさん。赤くてすっぱいいちごさん。」
「いちごしゃん!」
「そうですね、いちごさんですね。ぶどうさんぶどうさん、綺麗な紫、ぶどうさん。」
「ぶどうしゃん!」
「そうですね、ぶどうさんですね。」

「・・・・・」

年上の方のちびっ子は、状況を持て余していた。
弟は煩いし、でも此処に2人揃ってないと怒られるし。
だから静かに此処に居続けるには、今の状況が最善なのはわかってはいる。

だが、いかんせん知らない人なのが警戒心を高める。
おまけに、弟は図々しい。甘えまくり。この人その内怒り出したらどうしよう・・・とか考えてしまう。

「美味しいね・・・おしまい。」
「もっかい!」
「はい、じゃあもう一回。」
「おい!」
「やーだ!」
「大丈夫ですよ・・・あ、読みますか?」
「え?」
「今度はそっちを読みましょうか?」
「もっかい!くだものもっかい!」
「待ってくださいね、次はお兄ちゃんの番でーーー」
「やーーだーー!」
「煩い!」
「あ”~~~~~!」
「ええと、ええと、」

どうしよう。
この場合どうするべきなんだ。

ちびっ子は嫌いじゃないが、ちびっ子に慣れているわけじゃない紫希は、咄嗟にどっちを優先するべきか迷った。

そして、迷っている間に。

「ごめんねえ、おトイレ混んでて・・・おや。」
「あ、祖母ちゃん!」

杖はつきつつも、とても矍鑠とした顔つきの白髪の女性が、図書室に帰ってきた。