駅で降りて、足で歩いて凡そ10分前後。
其処に、テニススクールがある。
幸村が通っていたテニススクールが。
因みに、今はもう通っていない。
年齢層として小学生までが対象なので、中学生になるともう通えなくなるのだ。
「・・・・・・」
「千百合、こっち・・・どうしたんだい?なんだかきょろきょろしちゃって。」
「いや、此処こんな所だっけって思って。何度か来た事あるのに。」
「あはは!なまじ、何度か来たことがあるから、記憶に振り回されるのかもしれないね。俺も、何だか随分懐かしい気がするよ。」
「こないだまで通ってたじゃん。」
「そうだよね、俺もそう思う。どうしてかな、まだ半年も経ってないのに。」
やっぱり、中学に入って色々ありすぎたからだろうか。
「あ。あの人っぽくない。」
「ん?ああ、そうだあの人だよ。コーチ!」
「ああ、幸村君!」
テニススクールの入口には、ウェアの大人が一人立っていた。
幸村は懐かしくて顔が綻んだ。
「しかし、変わったなあ幸村君。」
「ふふ。そうですか?まあ、そろそろ成長期ですから。コーチは、お変わりありませんね。」
「まあ、俺はもう大人だから。数か月程度じゃあな。いやしかし、逞しくなって。」
幸村は今日、テニススクールに呼ばれたのだった。
理由は、まあざっくりいうと、半分は広告で半分は手伝いである。
うちからこんな凄い実績の子が出たんですよ。という宣伝を打ちたいので、ちょっと話聞かせてというのと。
あと、今現在進行形で通っている子達に、ちょっと指導とか話とかお願いできないかな、というのと。
「ところで、そこの子は・・・」
「ああ、どうも。」
「いや、こちらこそどうもね。ええと、確か幸村君の彼女だったかな?」
千百合は少し目を見開いた。
何故だ。どうして知ってるんだ。今まで遠目で見ることはあっても、面と向かって話すのなんてこれが初めてなのに。
と思っていたのが顔に出ていたのだろうか。
幸村はおかしそうに小さく笑った。
「俺が教えたんだよ。ビードロズの皆の事も、コーチは知ってるよ。何回か見に来ただろう?」
「ああ・・・でも、それだけでよく覚えてられますね。」
「ははは!まあ、スクールのコーチとしてはね。人間を見るのも、コーチの業務の1つだから。」
それを聞いて、千百合は自分には一生出来なさそうだと思った。
「さて、此処だ。」
やがて3人が屋内練習場まで来ると、コーチが扉を開けてくれた。
ボールを打つ音が一気に近くなって、ああ、ここはテニスする場所なんだなあというのを千百合は強く感じる。
ついでに、千百合はこういう時、いつも自分に対して場違い感みたいなものを覚えたりもする。
「皆!一旦練習は止め!止めだ!」
ボールを打つ音が止んでいく。
代わりに始まるのはお喋りである。流石、小学生以下が多いだけはあって、実に無遠慮にあれ誰?とか指さしてくる者がちらほら。
「皆、彼は幸村精市君だ。このスクールの卒業生で、この間の全国大会団体戦で、見事優勝した子だよ。今日は皆に会わせたいと思って、無理を言って来てもらったんだ。」
「よろしくお願いします。」
えー!すごーい!とかいう賛辞が一気に沸き起こる。その中でちらほら、全国大会って何?とかちびっ子の質問も聞こえる。
「せんせー!」
「ん?」
「そっちの女の子は?そっちの子も卒業生?」
「ああいや、彼女は幸村君の付き添いだよ。」
「ふーん。」
あ。きそう。
千百合は思った。
何がきそうかというと。
「彼女ー?」
ほおら、きた。
絶対にくるのだ、この質問。
小学生くらいになると、もう年頃の男女が2人で並んでるだけで、恋人かとかそういう発想に結びつきがち。
まあ実際世の中、そうではない事だって多数あるのだが。
何分幸村は、こういう事に対して全く恥ずかしさを覚えないタイプなので。
「そうだよ。」
「え!じゃあコーチ、もしかしてデートの邪魔したの!?」
「邪魔じゃあないよ。彼女も良いって言ってくれたし。それはそれとして、デート中なのはその通りだけど。」
「邪魔じゃん!」
「駄目だよコーチ、デートの邪魔をしたらー!」
「そーだそーだ!知ってるよ、あれ!あのー・・・プライベート!プライベートの侵害だ!」
「いやあまあ、そう言われるとその通り過ぎて、ははは・・・ごめんね幸村君、1時間くらいで終わらせるから・・・彼女さんも、本当にごめんね。」
「ふふっ。大丈夫ですよ、まだ一日は始まったばかりですから。」
「別にこっちも、OK出したんでそれは良いんですけど・・・」
それよりも、生徒達が気遣ってくる方が気になる。
千百合はもうすっかり、「デートを大人に邪魔された可哀想な女の子」扱いだ。
「コーチがごめんね、おねーちゃん・・・」
「怒らないであげて、ごめんなさいしてるから!」
「いやもう良いから。良いから、怒ってないから。大丈夫だから。」
寧ろ今正に、OKした事を後悔し始めた。
頼むから、大人しく見てるからこっちの事気遣わないで良いから。
恥ずかしくてもう何も言いたくないモードに入る千百合に、幸村は可愛いなあなんて思ってしまって、また笑う。