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紀伊梨と毛利が知り合いだった事について、新海は知らなかったので少々びっくりした。

ただまあ、補修においてそれとこれとは全く関係ない。
知り合いだろうがそうじゃなかろうが、補修を終えれば出て良いし、終わらないなら帰っちゃダメ。それだけ。

なので紀伊梨は特に何か言われるでもなく、毛利と補修部屋に入れられた。

「やほー!もーりのおにーちゃん!」
「おお、せんどぶりやな!ちゅうか、そのかっこは何なんなら?私服?」
「そーそー!これでがっこー来たら怒られたのー!」
「あっはっはっはっは!あっはっはっはっは!そらそうやろ、学校は普通制服や!」
「ちょっと寄るだけだったんだもーん!ロッカーに忘れ物したからさー・・・」
「へえ、忘れ物?そら難儀やったなあ。何忘れたん?」
「ドリル!」
「あっはっはっはっは!ドリル取りに来て補修渡されるて、ごっつう勉強好きな・・・あっはっはっはっは!」
「笑わないでよー!ってゆーか、紀伊梨ちゃん別に勉強なんか好きじゃないよっ!」

しかし毛利は笑い止まない。
よっぽどおかしいらしい。

確かに、そういう毛利はちゃんと制服だが。

「もーりのおにーちゃんは?どーして怒られてるの?」
「俺?俺はな、追試。」
「追試?追試を今してるの?」
「ちゃうちゃう。追試受けえ、言われてたんを忘れとったんや。」
「へー!んじゃあ、んじゃあ、追試はもう終わったにょ?」
「まあさっきな。どどこそ。」
「どど・・・?」
「なんとか、っちゅう意味や。」
「へー!もーりのおにーちゃんって、言葉面白いよねー!」
「まあなあ。関西弁は居るかも知らんけど、播州弁はなっかなか居らんやろなあ。」

思えば、遠くへ来たものである。
兵庫から神奈川までと言うと、なかなか遠い。しかもその間に、一回大阪まで挟んでいる。

このばたばたは、親の転勤とかいうよりも、もっとずっと深くて暗い事情があったりもするのだが。
でも、毛利は別に、それに触れて欲しいと思わない。
自分が嫌と言うより、これを言うと、相手が異様にこっちを気遣うようになるからだ。

正直、四天宝寺から離れられたときは大層ホッとしたものである。
あそこの学校は悪い人間が居るわけじゃないがーーー寧ろ良い人が多すぎて。
距離感が近くて近くて、近すぎるあまりすぐに自分の事情が知られてしまい、あっ・・・な顔を何度もされる。

何度気にしないでと言っても、誰も信じない。
別に気遣いとか良いからと言っても、誰もそうしてくれない。

まあ、わからんでもないけど。自分だって逆の立場なら、気遣いとか良いと言われたところで、おいそれとやめられないだろうから。

だから、紀伊梨があっさり話題を毛利の故郷から変えてくれた時、毛利はとてもホッとした。

「もーりのおにーちゃんってさー。追試って事は、おべんきょ苦手?」
「いや?まあまあ出来たもんやで。ただなあ、テストが邪魔くそうてもう・・・あ!先生に言わんといてや?」
「あー、紀伊梨ちゃんもテスト嫌いー。え?でももーりのおにーちゃんは出来るんっしょ?出来るんだったら楽しくなーい?紀伊梨ちゃんは出来ないから嫌いだけどー。」
「そういうもんやろか?俺はもう、テストていうだけで邪魔くさいいうか・・・何か、テストて独特の雰囲気あるやろ?こう、時間きっちり決められとって、やれ時間まで紙見るな、時間になったらシャーペン置けみたいな。俺、ああいうのんほんまに好かんねんなあ。合うとらへんのんやろな。性格的に。」

悪びれもせず笑ってそう言う毛利に、紀伊梨は自分に近いものを感じた。
単純にサボる頻度が多いという意味では仁王も一緒だが、紀伊梨は仁王と自分を似てるなどと思った事はない。
だが、毛利は似ていると思う。

「もーりのおにーちゃんはさー。」
「ん?今度は何なら?」
「ゆっきー達に怒られて、もうしません!って思ったりしないの?」

友達の身でこれを言うのもなんだが、幸村は怒ると相当怖いと思う。
真田と柳が加わると猶更だ。

普段良く怒られている紀伊梨だが、これでも怒られないようにしようと、それなりに心がけてはいるのである。
しかし毛利は違う。何か、全然直そうとも何ともしていないのをひしひしと感じるというか。

紀伊梨が尋ねると、毛利はやっぱり何の気負いもない顔で、んー?と言って笑う。

「まあ確かに怒っとるけど?ただ俺、どやされてもあんまり堪えへん性格やさけえ。わがで言うのんもあれやけどな。」
「こたえへん・・・・?」
「気にならへんて事や。」
「へー!気にならないんだー!すごーい、ん?凄い?」
「ははは!いやまあ、すごくはないやろなあ。」

毛利自身、あまり褒められた性格じゃないとは思っているのだ。ちょっとだけだけど。
怒られる事が響きすぎるのも問題だが、響かなさ過ぎるのもそれはそれで欠点と言えよう。
ただ、これはもう生来の性格なので、どうしようもないとも思っている。

「まあ、前も言うたけど、最近あの3人も、俺の事はどないしょうもあらへんて諦めたみたいやさけえ。」
「ふうん・・・」

「おーい。お前達、補修は進んでるのかー?」

いつの間にか、新海が様子を見に扉を開けて、そこに立っていた。

ほぼ何も書かれていない原稿用紙を見たら捗っていないのは明白で、新海は、はあと溜息を吐いた。