Rest 2 - 2/6


「はい・・・はい・・・はい・・・OK・・・」
「どないしたん、せんせー。」
「しょーちゃん疲れてるのー?」
「お前らが、なかなか補修持って来ないからだろうが!ったく、おしゃべりばっかりで本当にもう・・・!」

原稿用紙1枚に、決まった文を書き写す。
たったこれだけの事に、何故1時間もかかるのか。

「はい、おしまい!五十嵐は、真っすぐ帰る事!そのかっこで、学校ふらふらしない!」
「ほーい。」
「で・・・毛利はちょっと残ること。」
「へ?」

毛利が目を丸くすると、新海はちょっとだけ言いにくそうに頭をかいた。

「追試の件じゃないぞ?ちょっとまあ、生活というか・・・まあ、ちょっとな。」
「・・・はー。」
「別に、怒りたいわけじゃないから安心しろよ?生活指導の、根津先生が来てくれるからな。」
「え~・・・俺、新海せんせのがええんやけど。」
「・・・俺の方が脇が甘い、とか思ってるだろ。」
「あはは!」
「はああ・・・・・」
「根津せんせーって誰ー?」
「なんや、知らんのんけ?」
「まあ、根津先生はずっと、2年の担当してらっしゃるからな。」
「へー!2年のせんせーなんだー!もーりのおにーちゃん、嫌なの?」
「真田みたいやさけえ、苦手やねんな。」
「あー。」
「あー、じゃない!お前らはもうちょっと、ちゃんとしろ!ちゃんと!」
「むつかしーよー。」
「出来る限り努力してくれ!はー、もう・・・取り敢えず、五十嵐はもう帰りなさい。はい、ドリルな。」
「はいほー。」

ぐったり・・・と溜息を吐く新海と、手持無沙汰そうに伸びをしはじめる毛利に、紀伊梨は別れを告げて職員室を後にした。



まっすぐ帰れ、と言われたから、というのもないではなかったが。
そもそも紀伊梨は、今日学校に用事などない。
テニス部居ないのは知ってるし。今居る人たちは、大抵部活だし。

それもあって、紀伊梨にしては珍しく、本当に寄り道しないでまーっすぐ帰るつもりだったのだ。

それが、廊下を歩いていると。

「お?」

「だからそういった時は、原則学校の方に連絡をしてーーー」
「しかし、大会などの時に想定されるトラブルとしてはーーー」

「おーーい!真田っちー!」

廊下で、真田が先生と話していた。
勿論今日は部活がないので、真田は制服である。

先生は、知らない顔だ。

「む?五十嵐・・・おい!なんだその恰好は!」
「服の事は怒んないでよー!もー怒られたし、補修してきたよー!」
「む、そうか。以後気をつけるように。」
「真田っちさー・・・もー、せんせーじゃないのにせんせーみたいんでんすけどー・・・」
「ははははは!確かに、真田は先生みたいに見える事もあるな。」
「根津先生・・・」
「ほ?」

根津先生。
この人が根津先生か。

「根津せんせーって根津せんせー?」
「ん?」
「何だその質問は・・・」
「あのねー、さっき正ちゃんがーーー」
「「新海先生!」」
「ふおお!?」

紀伊梨はぴゃっ!と飛び上がった。

「たわけが・・・目上の人に向かって、なんだその呼び方は!ちゃんと呼ばんか!」
「えー・・・」
「お前は、B組の五十嵐紀伊梨だな?」
「お?」
「俺は基本的に2年生の担当だが、それでもお前の事は聞こえてくるぞ。制服崩し、宿題忘れ、落とし物と忘れ物の数と、もらった追加課題の数は普通の5倍。なかなかとんがった1年生が入ってきたぞ、ってな。」
「えー!何それ、紀伊梨ちゃんお尋ねものみたいじゃーん!」
「似たようなものだろう。もうすでに、生徒会のブラックリストに入っていると聞いた事があるぞ。」
「うそ!?」

なんでそんな目を付けられてるんだ、よりにもよって自分に・・・とか思う紀伊梨だが、話が逆である。
やらかす上に目を付けられてる、ではなく、やらかすからこそリスト入りしているのだ。

「真田、事情通だな。生徒会じゃないのに、生徒会の事を知ってるのか?」
「生徒会に友人が居まして。」
「そうか・・・というか、そうだ!思い出したぞ、真田。お前、忙しいか?」
「?今ですか?」
「ああ今じゃなくて。生活がっていう意味でだ。ほら、テニス部とかあるだろう。」
「ああ・・・・いえしかし、ミーティングの日などは早く帰れます。自主練の時間もありますし、そこは削る余地があるかと。」
「そうか。いや実は、柳生がお前を生徒会に推薦していてなあ。」
「ほう?」
「えー・・・」
「お前じゃないぞ、五十嵐。」
「そーじゃなくてー!真田っちが生徒会とかさー、怖いじゃーん!やだー!今でも怖いのにー!」
「たわけ!生徒会は、そもそも怖いものでも何でもないわ!怒られるのは、怒られるような事をしているからだろうが!」
「そーだけどさー!」
「・・・ふふっ。」
「何ですか?」
「いや。何だかお前らが話しているのは面白いなあ、と思ってな。」

根津は紀伊梨が有名だと聞いたが、真田だって十分有名である。
品行方正文武両道、曲がったことが大嫌いで、問題児に向かって説教にかかる1年生。
2年生や3年生が相手だろうと一切の容赦はなく、知識が深すぎるせいでしばしば教師を泣かせにかかる、まあこっちもくせのある男。

何をどうやってすれば友達になるんだ、と思われるくらい正反対の2人だが、見ていれば結構声がでかい辺りは似ているかもしれない。

「お前ら、あんまり新海先生を泣かせるなよ?あの先生は良い先生だが、いかんせん経験がまだ足りてないからなあ。」
「む・・・そういえば五十嵐。お前はさきほど、新海先生がどうのと言いかけてなかったか?」
「あ、そうそう!あのねー、しょ・・・新海せんせー!が、根津せんせーの事喋ってたのー。

もーりのおにーちゃんにお話があるとかって。」

ピン。
と真田が纏う空気が張り詰めた。

「・・・・・・」
「あり?」
「・・・真田。俺からも言っておくから。」
「構いません。」
「いやでも、」
「もはや、出ようと出るまいと、そういう問題でもありません。心根の話です。真摯に反省し、今度二度とやりませんと申し出てくるなら話は別ですが。そうでない限り、俺は取り合いたいと思えません。」
「・・・そうか。まあまあ、俺はおせっかいだからな。新海先生もそうだが。」
「・・・・・・」
「え?え?何?」
「良いから、五十嵐はもう帰りなさい。真田も、もう帰れ。」
「しかし、」
「一緒に帰りなさい。こういう時に友達と居られるのは幸運な事なんだ。余計なお世話かもしらんがな。」
「・・・・いえ。」
「・・・?」

紀伊梨は未だにぴんときていなかった。

もっともぴんときてないくらいの方が、今の真田には有難かったが。