「お疲れ様。改めて。」
「ふふっ。大丈夫だよ、そんなに苦労はしなかったから。」
「そう?慣れない手加減して、しんどかったんじゃない。」
千百合と幸村は、スクールを後にしていた。
勿論、あの高校生をコテンパンにした後で、である。
結局幸村は実力の半分も出すことなく、相手を打ち負かした。
ここだけの話、全力を出すよりかえって難しいかも、と思ったくらいだ。
彼女に向かってああ疲れた疲れた、なんていう趣味はないから、言わないけど。
「俺は平気だよ。それよりごめんね。思いがけず、遅くなっちゃって。」
「それは別に。オーバーしたのも20分かそこらくらいでしょ。すごいサクサク終わったじゃん。」
「そう?そう言ってくれるとありがたいよ。でも、埋め合わせはするから。」
「20分の埋め合わせって、この場合何?」
本当は、単純な20分の埋め合わせじゃない。
どこの誰とも知らない男に、ちんちくりんなどと言わせてしまった事に対してもだ。
幸村のせいじゃないというのは幸村自身分かっているけど、それはそれとして千百合に不愉快な思いをさせたのは事実だし。
(どんな目をしてるんだろう、本当に)
幸村は真剣に、大真面目に、どこをどうとったら千百合がちんちくりんに見えるのか、不思議で仕方がない。
こんなに可愛くてこんなに綺麗なのに。
中学に上がって幼さが抜けてきて、ますます日ごとに綺麗になっていくのに。
とは言いつつ、言い寄られてもそれはそれで困るからなあ・・・というのが、複雑な男心。
「あ。ねえ、ちょっと。」
「うん?」
「ちょっと寄って良い?」
「ああ、見たい店があるの?良いよ。」
「ありがと。」
千百合が指したのは、お洒落な家具屋さんであった。
雑貨というよりは、インテリアの店舗。しかも大きい。
「珍しいね。何か、欲しいものでもあるの?」
「まあ。」
とはいっても、家具が欲しいわけじゃない。
こういう所には大抵・・・
「ああ、あったあった。」
千百合が見たかったのは、観葉植物のコーナーであった。
大きいものじゃなく、机に乗るようなサイズのもの。
実は、花屋よりこういう所の方が、観葉植物は沢山売ってる場合がある。あくまで、花じゃないからという括りなのだろう。
「千百合、育てるのかい?」
「うん。何かそういう気分になったから。」
「そうなんだ。ふふっ、何だか嬉しいな。どういうのが良いの?」
「育てるの楽なやつ。簡単に枯れないやつで、花は別に咲かなくて良いけど、」
条件を1つ1つ上げていく千百合に、幸村は笑みがこぼれっぱなしである。
千百合が基本無趣味なのを、幸村は良く知っている。
それこそ会ったばっかりの時なんて、千百合は本当に、何に対してもうんともすんとも反応しなくて。
虫が死ぬほど嫌いなのは間もなくわかったが、好きなものは知らない・・・というか、好きなものなんてほぼ無いに等しかった。
千百合自身もそう言っていたし、傍から見ていてもその通りだったから、それは当時真実だったのだろう。
そんな昔の千百合も幸村は好きだったが、こうして興味の対象が増えている千百合はより好きだ。
「・・・・・」
「何か、サボテンも楽だって勧められたんだけど、私的にはかえって難しそうでさ。サボテンってこう、他の植物と似てないじゃん。サボテンはあくまでサボテンっていうか。だから何かあっても人に聞きづらい気がし・・・何?」
「千百合は、どんどん綺麗になるなあと思って。」
千百合的には、何がどうなって今そんな話になるのか、さっぱりわからない。
「・・・それはあれなの?さっきのフォロー?」
「うん?」
「ほらあの、私がちんちくりんとかって言われたから的な話?私、別に気にしてないけど。」
「ううん、全然関係ないよ。本当に、ただそう思ったんだ。小学生の時の千百合も可愛かったけどーーーだから好きになったんだけど、今はもっと綺麗になったと思って。」
「・・・・・・・」
「あはは。信じてない顔になってるよ、千百合。」
「ちんちくりん呼ばわりの方が、まだ信憑性は高いわ。」
千百合は別に卑屈な方ではない。
いたって普通だ。ただ、幸村が褒めすぎるだけ。
大げさなんだよと思いつつ、どういうわけか幸村は本心からそう思っているのも知っている。
ああ、顔が熱い。
「そういえば。」
「・・・・何。」
「サボテンは簡単って勧められたって、誰に?お店の人かい?いつ?」
「あ。」
千百合ははた、と口に手を当てた。
しまった。口が滑った。
マジで正に文字通り、口が滑ったという他ない。うっかり。
しかし、下手にこれ以上隠すと余計怪しい。
不愉快に思うかもなと知りつつも、白状するしかない。
「・・・あの、結構前に東京行った時、可憐繋がりでちらっと顔と名前見た男子が居て。」
「うん。」
「こないだ実家帰った時に、たまたま花屋で会って。で、何かサボテン詳しいらしくて勧められた。」
「へえ、そうだったんだ。」
(あれ。)
結構普通だ。
千百合はちょっと拍子抜けした。いや、助かるけど。
「勧められたとおりにはしなかったのかい?」
「いやまあ、ほんとにちょっとだけ見てただけだし。やっぱ何かあったら精市に聞いちゃうと思うから、買うのは精市の意見聞いてからかな、っていうのは決めてたから。」
「そうなの?ふふ、責任重大だなあ。どれにしようかな?」
ふう、と千百合は内心で溜息を吐いた。
良かった。セフセフ。
と、思っているのは千百合の方だけであることを千百合は知らない。