その頃、紀伊梨と真田は2人並び、黙って電車に揺られていた。
紀伊梨は道中何度か話しかけたが、真田はどうもお喋りに興じる気分じゃないですオーラがありありと出ていて、しまいに紀伊梨も話さなくなった。
確かに真田はべらべら喋るタイプじゃないけど、付き合いが悪いわけじゃないのに。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ねー、真田っちー。」
「・・・何だ。」
「そんないうほど、もーりのお兄ちゃん嫌いなの?」
ちょっとこれ、聞いて良いものか迷った。
だが紀伊梨は聞いた。
こういう所、真田と紀伊梨は結構相性がよかった。下手に探りを入れられるより、ズバッと切り込んで聞いてこられた方が、真田は寧ろ楽に感じる方だった。
「ああ、嫌いだ。」
「へー・・・それってやっぱサボるからー?」
「あれはサボりとは言わん。」
「およ?」
「サボりというのは、居なければならん状況で抜けて、居なくなることだ。」
「おうおう。ニオニオもそうですなあ。」
「そうだ。彼奴もよくサボる。しかし毛利先輩は、サボるなどという言葉では到底片付かん。あれはもはや、居ないのと同じだ。退部にした所で、誰もそのことに気づかんだろう。」
サボりが抜けることを示すなら、毛利はもう抜けるとかそういう表現では追いつかない。
正直、在籍していないのとほぼ同じ。
「無理やり退部にしたりとかはしにゃいの?あ!しろって言ってるわけじゃないよ!違うよ違うよ!そーじゃないけどさ、真田っちとかゆっきーなら、そうしたいんじゃないかと思って、」
「そうしたいのは山々だ。だが、校則上強制退部は生徒の権限ではできん事になっている。教師の同意が必要だが・・・賛同してくれる教師が見つからないのだ。今はな。」
教師の賛同者が居ないのは、毛利家の事情を知っているからである。
毛利自身は、別にそんな気を使ってくれなくてもとか思っているのだが、やはり教師としてはそうもいかない。
真田達がイラついているのもわかるが、居ないだけで、別に部を荒らしまわったりしてるわけじゃないというのも理由の1つ。
正直、毛利は無視しようと思えば簡単に出来る。だって居ないんだもん、部活中。
「んー・・・でもさ、別にもーりのお兄ちゃんはさ、邪魔してるわけじゃなくない?」
「いいや、邪魔だ。部活に出たくないのなら、潔く退部すれば良いものを、それもしようとせん。そういう半端な態度が、部に悪影響だ。」
「そおかなあ・・・」
ただまあ、紀伊梨とても流石に、サボるのを良い事だとは言いづらい。
良くないことは分かる。
「全く、あのような男を・・・あちらは何を考えているのか、見当もつかん。」
「あちら?」
「簡単に言うと、今あの男はテニスに関してスカウトのようなものを受けていてな。」
「へー!もーりのおにーちゃん強いんだー!」
「知らん!試合を見た事はない。」
「おおう・・・マジかー。そんなことあるんだー。」
テニス部なのに、という紀伊梨の呟きが、また真田の神経を逆なでする。
そうだ、そうなんだよ。テニス部なのに、だ。まさにそれ。
「U-17という。」
「あんだー、せぶんてぃーん・・・?」
「高校生の有能なプレイヤーを集めて、世界大会に出る。そのための団体がある。・・・彼奴は、そこから声がかかっているのだ。」
「え!嘘、すごいじゃーん!もーりのおにーちゃん強ーーー」
「けしからん!」
電車内だということも忘れて、真田は叫んでしまった。
「仮に実力が十分だとしても、あのような男がーーー推薦されても、練習しない試合もしないで、そのような誉ある所に所属してどうしようというのだ!何もしないくせに・・・!」
「あー・・・そっかー。確かに何にもしないんだったら、呼ばれてもあんまし意味にゃいよねー。」
それとも、そこに呼ばれたら真面目にやるんだろうか。
それはそれで嫌だな、と紀伊梨は思った。なにか、あからさまに部活が下に見られてるようで。
「・・・もーりのおにーちゃん、どーしてちゃんとやらないんだろー。」
「知らん。真剣に考えていないからだろう。今思い出しても不愉快だが、昔一度、テニスは趣味だからなどとーーー」
「えー、趣味だったらちゃんとやるよー!だって楽しいじゃん!暇があったらやりたいじゃん!」
ん、と真田は口の中で呟いた。
「・・・それもそうか。」
「テニスのことどう思ってるのかなー?」
真田はぷりぷり怒っているが、紀伊梨はどうしても、怒りより疑問が先行してしまう。
今度会ったら聞いてみよう。
流れていく景色を見て、そう思った。