飛び切り美味しい、おやつのお手製フルーツタルトを頂き終わり。
皆でご馳走様をすると、昼寝もまだだと言うのに健太は言った。
「はらぺこあおむし読む!」
どうやら健太的には、読む!というのは読んで的な意味合いらしい。
次男の準太など、あからさまにげえ、な顔をするが、紫希はもちろん穏やかに笑った。
「良いですよ。」
「はーい!」
「こら、健ちゃん。お礼にあがってもらったのに、また読んでもらっちゃったら同じじゃないの。」
「良いんです、大丈夫です。ええと、ご本の方は・・・」
「兄ちゃんのお部屋!」
それを聞いて、丸井はそうだ、と小さく言った。
「それなら、俺の部屋上がったら?」
「え?」
もし父母がこの場に居たら、多分お茶を吹き出すか、喉に引っかかってむせるかしていた。
祖母は安穏とお茶を飲んでいるが。
「俺の部屋、お菓子もあるしクッションとかもあるし。椅子にずっと座ってるのも辛いだろい?好きな姿勢取れた方が楽じゃねえ?」
「で、でも。お邪魔でh「はーやーくーー!」は、はいはい!ごめんなさい、今行きます!」
「こら、お姉ちゃんを急かすんじゃねえよ。悪い、皿洗い終わったら行くから。」
「はい、大丈夫です、ゆっくりやって下さって「はーやーくー!」はい!」
健太に手を引かれて、紫希は2階へと向かう。
後ろから準太も、良いのかなあ・・・な顔でついてくる。
(丸井君の、部屋・・・)
人の家は緊張する。
丸井は友達になったばっかりなので、なおさら緊張する。
入って良いと言われても、本当に良いんだろうか、とか思ってしまう。
なるべく大人しくしていよう。
「あ、おねーちゃんそこ。ブン兄ちゃんのお部屋。」
「はい、ありがとう御座います・・・・わあ。」
丸井の部屋は、まあ有体にいうなら年相応な部屋である。
ベッド。ちょっと散らかった机。
テレビとゲーム機。
その中で異彩を放つそこのスペース。
「お菓子・・・」
「おねーちゃん、どうぞ!」
「え、いえ良いです良いです!今いただきましたし、それに勝手に取ったら、」
「ブン兄ちゃん、いつも勝手に取って良いって言うよ?」
部屋の隅には、お菓子コーナーがあった。
お菓子の袋が固めて置いてあるとか、そういうのじゃない。
駄菓子屋みたいに透明なボトルに入れて、並べて置いてある。
(量り売りみたいです、可愛い・・・)
「おねーちゃん、はらぺこあおむし!」
「は、はい!ごめんなさい!」
「おい、健太!わがまま言うな!」
「やだ!」
「大丈夫です、大丈夫ですから喧嘩はやめて下さい。準太君も有難うございます、気遣ってくれて。でも、私気にしてませんから。」
「えー・・・」
「本当です。私、本読んでって言われると、嬉しいんです。私も本が好きだから・・・さあ、読みましょうね。」
「うん!」
「はらぺこあおむし・・・おや、はっぱの上にちっちゃなたまご。お月様がーーー」
紫希が階上に行ってすぐは、丸井は結構急いでいた。
ただ、思いのほか早く騒ぐ声が聞こえなくなり。弟が機嫌よくしている事が伺え。
母も父もおらず、祖母はいつの間にか船を漕いでいて、一人でずっと後始末をしていて。
なんだか急に静かになってしまった家の中、丸井は片づけをとうとう終えて、自分の部屋へ向かった。
(こんだけ静かってことは、夢中になってるか・・・それか昼寝してねえから、うとうとしてるかだな。)
一番下の健太は、普段だったらそろそろ昼寝するころである。
それが来客にテンション上がってずっと起きていたので、寝落ちてる可能性は高い。
起こすとまずいと思い、丸井はそうっと静かに、扉を開けた。
「・・・・・・・」
「水曜日、すももを3つ食べました。」
弟2人は、まだ起きていた。
そして黙って、紫希の膝の上と横から本を見ていた。
えらく大人しいと思ったが、紫希の声が丸井より小さいのが功を奏しているらしい。
騒ぐと声がかき消えるから、静かにしているのだろう。
丸井は迷わず紫希の隣に行き、真ん中の弟を抱き上げて膝に乗せた。
「チョコレートケーキと、アイスクリームと、チーズと、サラミと、」
紫希は読みながら丸井にお辞儀をする。
それでも本は読み続ける。
人に読み聞かせされるのって久しいな、と丸井は思った。
いつぶりだろう。いつも読み聞かせる立場になってばっかりだから、すごく新鮮だ。
「もうあおむしははらぺこじゃなくなりました。小さかったあおむしは、ほら、こ、んな、に・・・」
丸井にもたれかかられて、紫希は一瞬本読みを忘れた。
重いわけじゃない。そこまで体重はかけられていない。
ただ、近い。
(もしかして眠いんでしょうか・・・)
読みながらちら、と視線を上げると、丸井はん?と小さく言って目を合わせてくる。
うん。眠くなさそう。
(丸井君、この前私が言った事、もう覚えてらっしゃらないんでしょうか・・・)
近いとドキドキするから止めてと言ったはずなんだけど、と紫希は思う。
だが悲しいかな。
丸井は覚えている。
こうされると紫希が困るのを丸井は知っている。
ただ、それはそれとして、自分はこうしたいという気持ちがあるので、そっちを優先してるだけ。
後、ちょっと。
ほんのちょっとだが、もっと困れば良いのにと思う気持ちもある。
「あっ、ちょうちょ、あおむしはきれいなちょうに・・・」
(困ってる困ってる。)
朗読は淀みないが、なんとなく落ち着かないのが仕草でわかる。
でも、こうやって困ってる紫希は嫌いじゃない。
いたずら心が擽られる。
くく、と小さく笑うと、膝の上の弟が「?」な顔で丸井を見上げた。