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結局千百合はシンゴニウムなる植物の鉢をお買い上げした。

比較的丈夫らしい。
ちょっと「成長が早すぎる」と思うかもしれないと言われたが、その時は頼ってと幸村に言われたので、千百合は甘えることにした。

「窓際に置いて平気かな。落ちるかな。」
「今は平気だと思うよ。ただ、ずっとこのサイズって言うわけじゃないから。そのうち、置き場所を変えないといけないね。」
「マジで?」
「あはは。まあ、それはその時に考えれば良いよ。鉢のサイズが変わる様になるのは、もっと先だし。」
「そう?」

会話しながら町を歩いていると、反対側から人が来た。
幸村は車道側から位置取りを変え、千百合の後ろに回った。

「・・・・・・」
「それで・・・精市?」
「うん?」

幸村は、見た事のないカフェをじっと見ていた。
ガラス越しに、ナチュラルな雰囲気の客席が見える。

「・・・そこ入る?」
「ああ・・・どうしようかな。千百合、疲れてるかい?」
「喉は乾いた。」
「あはは、そうだね。お茶どころじゃなくなっちゃったからね、さっきは。じゃあ行こうか。」
「ん。」

なんてことない会話のようだが、千百合にはなんとなくわかる。

幸村は今、何かを考えている。
何かは知らないが。

それはそれとして、言わないという判断を幸村がしているのなら千百合は聞かない。
彼氏だからとか言うより、そういう性格だから。

店内に入ると、いらっしゃいませー、という明るい店員さんの声が聞こえた。

幸運なことに比較的空いているらしく、すぐに通されて、2人は難なく座ることができた。
紅茶とコーヒーを注文して、甘いものは要らない。
幸村と千百合は、いつもそう。

「ごめん、先に手洗い行ってくる。」
「うん。行ってらっしゃい。」

千百合が席を外して、幸村が一人になる。
こういう状況になると、高い確率で発生することがある。

「・・・・・」

つい、と首を横に向けると、視線の先に座っていた女子高生2人がきゃあ、こっち向いた、なんて小声で騒いでいる。

「・・・・はあ。」

別に、注目を浴びるだけなら我慢できないこともない。
というか、さほど気にならない。愉快ではないけど、不愉快と言うほどでもない。

ただ、言われる内容によっては不愉快になる。
例えば、今聞こえてきたそういうの。

(やっぱほら・・・ねー。)
(すっごーい、目がおっきい・・・あれ女装とかさせたら、すごい事になるんじゃない?)
(わかるー!)

これだ。
そう、自覚してる。
自分は女顔なのだということくらい。

(まあ確かに、男らしい顔だって思ったこともないけど。)

整った顔だとは良く言われるが、そこそこの確率で「綺麗」という扱いを受けているのは知っている。
周りを見ていると、そこそこどころか、そんなこと言われないのが普通なのも知っている。

顔の善し悪しなんて、昔は割とどうでもよかったのだが。

「ただいま・・・え、どうしたの。」
「え?」
「いや、コーヒー見つめてたから。」

正確に言うと、コーヒーを見ていたわけじゃない。
コーヒーに映った自分を見ていたのだ・・・とかいうと、何かナルシストみたいだが。

「ちょっとね。顔が。」
「顔?」
「何というか・・・俺、真田みたいな顔に生まれたかったなあ、と思って。」
「え、私絶対嫌そんなん。」
「あはは。そうかな?今はもう真田の顔っていうイメージが先行しているだけで、元々俺がああいう顔だったら、話は違うんじゃない?」
「いやいやいや。ちょっと無理があるというか、嫌だ私。嫌。真田のイメージでしかない。」
「そうかなあ?」
「そうだよ。ぞっとするようなこと言わないで、何急に。」

そこまで言わなくても。
幸村は苦笑した。

まあ確かに、自分も千百合からどこぞの誰それさんみたいな顔に生まれたかったとか言われたら、頼むから止めてくれと言うだろうけど。

「さっきの話。」
「さっき?」
「千百合はほら、綺麗になったから。でも、それに引き換え俺ってどうなんだろうって思って。」
「・・・・えええ、ここにきて顔面レベルの心配?」
「レベルじゃなくて、傾向の心配かな。なんというか、もう少し男らしい顔に成長したいんだけど、できるかなと思って。」
「・・・・ああ、はああ。」
「わかってくれた?」
「まあ・・・確かに、線が太いとは言いづらいけど。」

千百合も、幸村が綺麗と言われる傾向にあるのは知っている。
小さい時から言われまくっていた。

「・・・いやでも、年と共に大丈夫になるでしょ。」
「そう?どうして?」
「だって実際、女の子みたいって言われる事は減ってるじゃん。まあ顔だけじゃなくて、体全体見た結果かもしれないけど。」

なんて答えて居るが、ぶっちゃけ千百合はあまりまともに取り合う気がない。

なんという愚問、としか思えない。
何の心配してるのかと思ったら、そんな心配してたのか。

(男らしい顔、ねえ・・・・)

繰り返すが、千百合も線が細いのは事実だと思う。
綺麗系統で、服とかを整えれば、女子でも通る顔なのも認めよう。

ただ。
ただ、だな。

(女子はあんな顔しないと思う・・・)

「え?ごめんね、今何か言った?」
「いや、何も。」

千百合は紅茶を一口飲んだ。

良い感じに熱かった。