Rest 3 - 2/6


結局電車でずーっと毛利のことについて話してしまった紀伊梨と真田。
そのせいで、せっかく根津が、真田が落ち着くようにと一緒の下校を促してくれたのに、真田は全然怒りがおさまっていなかった。

寧ろ悪化しているかもしれないレベル。

「へー!もーりのおにーちゃんって、顔知らない人も居るんだねー!」
「それがそもそもおかしいのだ!一日か二日のことならともかく、入部してもう数か月になるぞ!だというのにーーー」
「あ!」
「む?柳!」

柳は、どこかに出かけていた帰りらしかった。
丁度目の前に止まって客を下ろしたバスから、軽い足取りで降りてきた所に、紀伊梨と真田が鉢合わせた。

「ん?・・・真田と五十嵐か。珍しい組み合わせだな。」
「ああ。たまたま学校で一緒になってな。」
「学校で?」

3人で歩き出しながらも、柳は一瞬、目を紀伊梨に走らせた。

明らかに私服。
多分その恰好で学校へ行って、補修でも食らったんだろうなと考える柳は、さすがに悟りと言われるだけのことはあるというか。

「そーだそーだ!ねー、やなぎーってもーりのおにーちゃんのこと嫌い?」
「ん?」

嫌い。
か、どうかと言われると。

「あくまで俺の考えだが、俺は嫌いだなどとは思っていない。かといって、好きなわけでもないが。」
「そなの?」
「・・・よくその程度で済むものだな。」
「以前にも言ったがああいった手合いは、相手にするだけ無駄だ。こちらの話を聞いていないし、聞こうとする意志もない。」
「む・・・・」
「真田が腹立たしく思う気持ちも分かるが、あまり気にしないことだ。意味がないからな。」
「おおー・・・・」

要は、相手にするなと柳は言いたいのだ。
紀伊梨もそれは感じる。

徹底して相手を居ないもの扱いするその姿勢は、真田みたいに怒っているよりも怖い感じがする。

紀伊梨的には、実に複雑な心境である。

基本的に紀伊梨も我慢するとか厳しいのが苦手だから、気ままにやりたいという毛利の気持ちはとてもよくわかる。
ただこうまで言われるくらいだったら、辞めるか出るか、どっちかやった方が良いのではとも思う。

「せっかく強いのに、もったいないよねー。」
「む?」
「ん?」
「もーりのおにーちゃんって、強いんでしょ?こないだ大会で会ったとき言ってたお!多分ゆっきーにも勝てるっt「そんなわけがなかろうが!このたわけが!」ひいいいい!なんで!?なんでなんで!?」

真田は、こういう時切り替えが非常に苦手である。
それはそれ、これはこれ的な考えが不得手なのだ。

だから、あんな態度なのに強いなんて信じたくない。
まして、幸村より強いなんて。

「お前は幸村の強さを疑うのか!」
「そんなこと言ってないじゃーん!ゆっきーは強いけどさ、でももーりのおにーちゃんはもっと強いかもしれなくて、」
「それがそもそもーーー」
「落ち着け2人とも、往来だぞ。」
「オーライ?」
「違う。」

言いながら柳は苦笑した。
紀伊梨にじゃない、真田にだ。

「真田、お前の気持ちはとてもよくわかる。だが、この場合五十嵐の方が妥当だ。」
「何!?」
「現実の話として、毛利先輩は幸村の試合くらいは見た事があるだろう。だが、その逆はない。俺達は毛利先輩の実力を知らないが、毛利先輩は2人分の力量を知っているわけだ。その上で勝てそうという結論を出したのだったら、毛利先輩の推測の方が合っている可能性が高いわけだ。考えるデータが揃っているからな。」
「しかし・・・!」
「それに、U-17にもスカウトされているだけの実力は、少なくともある。毛利先輩は信用出来ないとお前は言うが、U-17の運営も信用出来ないか?」
「ぐ・・・・」

そうなんだけど。
そうなんだけど、その通りなだけに悔しい。

「・・・やなぎーは、もーりのおにーちゃんにあんまし怒ってないんだねー。」
「怒ってはいないな。邪魔だというほど、部に居るわけでもない。」
「ふうん・・・きっちりしろー!みたいなこと思わないんだー。」

「どうでも良いからな。」

柳は極めてさらりと言った。

「あの手の人間を幽霊部員というが、俺にとっては正に幽霊みたいなものだ。居ようが居まいが、別にどちらでも構わない。妨害さえしなければだが。」
「ぼーがい?」
「邪魔という意味だ。」
「ふーん。そっかー・・・んでも確かに、もーりのおにーちゃんを無理して引っ張って来なくても、大会とか勝てちゃうもんねー!」
「む!」

紀伊梨の言葉に、真田はちょっと眉間の皺が増えた。

「そういう問題ではない!例えレギュラーの座を得られなくとも、常に向上心をもって練習する態度が周りの部員を鼓舞し、結果的に部の実力の底上げに繋がるのであって、」
「真田。」
「何だ?」
「やめてやれ、オーバーフローだ。」
「こう・・・こうじょ・・・こ・・・こぶ、し、こぶし・・・?そこあげ・・・・?」

はああああ・・・・と、真田は息を吐いた。

溜息ではない。
怒りに震えているのだ。

「・・・・・たるんどる!」