Rest 3 - 3/6


パートから帰宅し、母の直美はぎょっとした。

明らかに女の子の靴が玄関にあり。
それだけなら別に気にならないのだが、人が遊びに来ている割に、家がやたらひっそりとしている。

ないと思うけど、いかがわしいこととかしてたらどうしよう・・・とか思いつつ。
でも事故の可能性とかもあるし、長男だけなら兎も角ちびっ子2人も他の部屋に見当たらないので、とうとう安否確認に長男の部屋を開けざるを得なくなり。

そろり・・・と扉を開けて、直美ははあああ・・・・と呆れの溜息を吐いた。

寝てる。
お客さんの膝の上に弟を乗せて、本読ませて寝てる。

可哀想に連れてこられたお嬢さんは、赤い顔をして寄りかかられて、さりとて起こしちゃいけないから身動きも取れないでわたわたしている。


「~~~~起きなさい息子共!」


母の怒鳴り声に二番目と三番目は覚醒したのに、一番上の兄だけは起きなかったので、直美はもう一回雷を落とす羽目になった。



「本っ当にごめんね!ごめんなさいね本当に!何から謝れば良いものやら!」
「良いんです良いんです、大丈夫ですから!」

「おかーさん怒てるー?」
「そうだな。あーあ・・・」

やっちまったなあ、と丸井は思う。

これは素直にそう思う。
寝るつもりはなかったのだ、一応。つもりとして。
せっかくなんだから起きていたかったのに。

「ごめんね、本当にもうなんというか・・・友達甲斐のない子というかなんというか、本当にいつもいつも迷惑かけっぱなしで・・・」
「あ。」
「兄ちゃん?」

いけない。
紫希相手にそれを言うのは、とてもいけないぞ母よ。

いかん、と思って抱っこしていた末っ子を降ろしたが、時既に遅し。

「そ、そんなことないです!本当です!」
「どこが!?」
「だっていつもは、私の方がお世話になって、優しくしてもらってーーー私、丸井君とお友達になれて本当に毎日楽しくて、明るく気さくに話しかけてくれて、お話しするのが楽しくt「わかった!わかったわかった、もう良い!もう良いから!俺が悪いって事にーーーー違うもとい、俺が悪くないって事にしとくから!」
「でも、」
「にーちゃん抱っこー!」
「後にしろい!」

頼むから、そうやって身内の前で持ち上げるのは止めてくれないだろうか。
母親の前で同級生の女の子から褒めそやされるって、どんな羞恥プレイ。

「母さんもさ、説教は聞くから後にしてくんねえ?今言うとさ、春日が一晩中みたいな勢いで俺の事ヨイショしちまうから、」
「やあね、そんないうほど良い所あんたにないでしょ?」
「そんな事ーーー」
「止めろってもう!」

自分が悪かったのは認めるから、こんなテーマで言い争うの止めて欲しい。

息子を叱り足りない母親と、友達を庇おうと必死な客人と、ひたすらに抱っこをせがみ続けるちびっ子と、3人に囲まれてもうてんやわんやの長男とを見て、次男の準太はやや遠巻きにしていた。

「ふああ・・・ああ、良く寝た。」
「あ、お祖母ちゃん。」
「おはよう、準ちゃん。おやまあ、これは・・・」
「丁度よかった、祖母ちゃん止めてよ・・・俺が行くと怒られちゃうし。」
「ううん、でもねえ。嫁姑の喧嘩に大姑が首を突っ込むのもねえ。」
「お義母さん!」

直美の大声がこっちに飛んできた。

「誰が嫁と喧嘩をしてるんですか!私はこの不詳の息子に怒ってるんです、息子に!」
「でも、ブンちゃんが良い子か悪い子かで意見が分かれてるんだろう?」
「それはそうですけど!」
「なら嫁姑の喧嘩じゃないかい?まあ、大抵の場合は姑の方が息子の味方に着くもんだけどーーー」
「そういう問題じゃないんです!というか、別に私は打ち負かしたいわけじゃなくて、」

(・・・・うん?)

急に直美が祖母の方に引っ張られたので、紫希は会話を黙って聞いていたが。

もしかして、嫁姑の喧嘩って、自分と丸井の母の話だろうか。
いや。そうだろうな多分。文脈的に。

(よ、嫁・・・い、いえ、言葉のあやです、ものの例えであって、別に本当に嫁と思われてるわけでは・・・うん・・・)

きっと、ここに訪れた女の子は皆嫁に見られるのだろう。
そうだということにしておこう。うん。

と、自分に言い聞かせる作業に執心していたから、急に手を握られて紫希は飛び上がった。

「おい、行くぞ!」
「あ、ちょっとブン太!」
「送ってく!」
「兄ちゃんだっこー!」
「お前はちょっと大人しくしてろってば!」
「やだーーー!」

さっきから祖母は、母と会話しながら、丸井に見える様に後ろ手で玄関を指さしていた。
離脱しろ、ということだ。非常に有難い。
一番下のちびっ子も、二番目が空気を読んで捕まえてくれているようだし。

「ええと、靴、靴、」
「あの、一人で帰れますから、」
「やだ。」
「やだ・・・・!?」
「春日の靴ってこれ?」
「そうですけど、」
「靴ある、鞄ある、スマホ持ったな?おし、OK!」

ガチャ、と玄関を開けると、夕日が眩しくて外が暑くて、一気に逃げおおせた感が強くなる。
流石に母も、この場ではもう追ってくるまい。

はあやれやれ、なんて一息吐いた時だった。

家の奥の方から、祖母の声が。

「ブンちゃーーん。」
「何!?」
「お外行くんなら、暑中見舞い出しておくんだよーーー。」

年寄りって怖い。
丸井がそう思うのは、今みたいな時である。