カフェを後にして、幸村と千百合は2人で歩いて帰路についていた。
別に歩きたいわけじゃない。
踏切のトラブルで電車が止まったのだ。
一駅くらいなら歩くか、なんて思って歩き出したのだが。
「何だか、暗くなるのが早くなったね。」
「ああ、まあね。もう夏も、終わり近いっちゃあ近いし。」
まだ気温は下がらないけれど、でも確実に空が黒に移り変わるタイミングは早くなった。
今だって夕暮れで明るくはあるけど、もうあっちはオレンジが消えている。
「秋になると、過ごしやすくなるよね。テニスも快適だし。」
「分かる。私も秋の方が良いや。虫減ってくるし。」
「あはは!そうだね、涼しくなると虫は見なくなるね。外出もしやすいし。少なくとも、熱中症の心配はしなくてよくなるから。」
「今年は何か、何人も倒れたね。あのバカ含めて。」
「暑かったからね。自分で気を付けると言っても、正直俺達はあまり強くは言えないんだ。自分から暑い環境に身を置いてるんだし。」
「まあね。」
せめて日が差してなければなあ、なんて思いつつ、まあ中学生の大会で日中じゃないなんてあり得ない話。
「大会とかって秋にできないもんかな。」
「ううん、難しいかなあ。やっぱり、受験のこととか、そのあたりの兼ね合いが無視できないから。」
「受験・・・」
受験。
その響きは、千百合には近いようであり、遠いようでもあり。
そもそも、立海は大学までエスカレーターなので、基本受験など関係ない筈なのだが。
「・・・皆さあ。」
「うん?」
「基本、ずっと一緒なんだよね。これから。」
「これから?」
「進路的な話。」
「ああ!ううん・・・」
「え。誰か立海出るかな。」
「そうだなあ。わからないけど、柳生あたりは医大に行ってもおかしくないんじゃないかな?」
「あー・・・そっか。」
「仁王も・・・ふふ。仁王は、そもそも大学に行くのかな?」
「あー、確かに。義務教育終わったら消えそう。」
とかいう幸村だって。
「・・・・・」
「千百合?」
「・・・なんでもない。」
幸村も。
それから紀伊梨も。
立海からは出ないだろうと思う。
でも、それは在籍しているという意味であって。
在籍しているのと、その場に居るのとは意味が違うのであって。
紀伊梨がいずれアイドルになるように、幸村はおそらくプロになるだろう。
そしたら、湘南に居ないのが当たり前になるんじゃないだろうか。
たとえ、形だけは大学生であっても。
(私は違うもんな)
千百合は、普通の大学生になるであろう自覚がある。
普通に高校生になって、大学生になって。
そうなった時、果たして幸村の隣に居られるのだろうか。
中学生になったばっかりなのに、もう高校や大学の心配してんのかよ、と自嘲する気持ちもちょっとあるけど。
夕日に照らされた幸村の横顔が、やっぱり何回見ても中学1年生の横顔だったから。
「・・・・精市の顔さあ。」
「うん?」
「やっぱ、今のままでも気にしないで良いと思う。」
幸村は、容姿に対して年相応の成長ができているのか気にしていたけど、千百合的には何を今更そんな、としか言えない。
置いて行かれるかもと、日々戦々恐々としているのはこっちなのに。
こっちが1歩進む間に、2歩も3歩も進んでるみたいなスピードで進んでいるくせに。
(そもそもカフェでの話にしたってさ、)
女子ならしない顔。
を、幸村はするようになったことを、千百合は知っている。
中学生に上がってからだ。
もっと言うと、最近になってから。
元々意志が強い性格はしていた幸村だったけど、それは主にテニスとか己に対してのことだった。
あんな、人を縫い留めるような視線をいつからするようになったんだろうか。
目を通して、心の奥の奥の方まで見据えて、わずかでも幸村に注意が向いてなければ、すぐ勘づかれてしまうようなーーー
「千百合?」
「・・・何でもない。」
「そう?」
幸村は笑っている。
何でもなくないことはわかっているのだろう。
でも流石に、千百合が何を考えているのかはっきりわかっては居ないはずだ。
キスをする時、幸村は男子の顔になる。
そんなこと教えたらどうなるかわからないので、もちろん千百合は教えない。