Rest 3 - 6/6


「・・・・・・・」
「・・・・・・・」

紫希と丸井は、無言で2人、通りを歩いていた。
今まで何度も2人になったことはあるけど、双方黙り込んでしまうのは実は初めて。

とは言いつつ、黙ってる理由は全然違ったりするのだが。

(お邪魔してしまったのに、あんなドタバタお暇してしまって良かったんでしょうか・・・うう、やっぱり無礼な子だって思われましたよね、どうしましょう、うちの子に近づかないでとか思われていたら・・・!)

もっとちゃんと、丁重に挨拶したかったのに、とかそればっかり気になってしまう紫希だが、丸井は全然違うことを考えている。

暑中見舞いのことだ。

(暑中見舞いって、どう思われてんのか知らねえけど、良いことは思われてねえよな絶対・・・出してねえし、もう残暑見舞いになっちまったし?)

紫希が黙っているのが、また拍車をかける。
多分怒ってる・・・わけではなくても、何か深く考え込んでるんだとつい思ってしまう。

「・・・なあ。」
「は、はい!な、なんでしょうか・・・」
「・・・悪い、怒ってるよな?」
「え?私が怒られてるん、です、よね?」
「え?」
「え?」

お互いに顔を見合わせる。

「あ、あの、私その、おばさまや皆さんにちゃんとご挨拶もできないで、出てきてしまったので・・・」
「いや、あれは良いって。」
「でも、」
「良いの良いの、マジで!祖母ちゃんが逃がしてくれたみてーなもんだし、ちびにしろ母さんにしろ、お前には怒ったりしてねえよ。」
「そう、でしょうか・・・」
「そうそう。むしろ失礼したから、もう二度と来てくれないかもくらいまで思ってるぜ?」
「わ、私そんな!失礼されたなんて、思ってませんから!本当に、」
「分かってるって、気にすんなってことだよ。」
「そう・・・ですか・・・?」
「それより、あっちの話。」
「あっち?」
「・・・暑中見舞い。」
「暑中見舞い?」

暑中見舞いに関して、丸井に謝られることなんて無いと紫希は思っている。
返事が遅れてごめん、と言われても、そもそも「返事貰える」と思う方が勝手だと思っているし。

なんなら、自分じゃない誰かには暑中見舞い出すけど、自分には出さないからごめんな、と言われるまであると本気で思っている。紫希はこの時口には出さなかったが、多分口に出していたら溜息を吐かれただろう。

「出そうと思ったんだけどさ。」
「い、いえ!良いですよそんなの、お忙しいんですから、気を使わないで、」
「別に大した手間でもねえよ?幸村君にも返事したし、手紙とかそこまで苦手でもねえし。けど・・・」

そう。
そうなのだ。
本来丸井は、男子にしては珍しくというべきか、手紙とかそういうのにあんまり抵抗がない。

だから普段は、実にさっさっと書ける。今回もそうしようとした。

・・・したんだけど。

「・・・何か書こうと思ったら、違うな、って思っちまって。」
「違う・・・?」
「フェス絶対楽しみにしてるとか、全国絶対見に来いよとかさ。別にそれも嘘ついてるわけじゃねえけど、そうじゃなくて。」
「・・・?」


「会いたかったんだ、本当は。春日と。」


見に行くとか。見に来いとか。
そりゃあそうしたいけど、それは一番の望みというわけじゃない。

フェスの日だって全国の日だって、顔を見て話したかった。
書こうと思ったらその望みが浮き彫りになってきて、しかしそうすると、急に書く気がなくなってくるのだ。


会いたい、だって。
そんなこと、紙に書いて気を済ますようなことじゃないだろ。


丸井の手紙の書き方は基本、思った事をそのまま書く、なのだ。
しかしこの場合、書いてどうするつもりなんだ感が強すぎて書けなかった。

でも、思ったことってそれだし。一度思ってしまうともう、それはそれとして割り切ろうとしても、何か嘘ついてるみたいなすっきりしなさが出てきてしまって、駄目だった。

「一回だけ『会いたい』って書くだけ書いてみたんだけど、すげえバカみたいに見えちまって、消しちまってさ。」
「・・・あ、あの、」
「書いてねえで連絡取ったら良いじゃんって思うだろい、ん?何?」
「・・・頂けませんか?」
「何を?」
「暑中見舞いを・・・」
「え?だから何も書いてねえんだって、」
「良いんです、書いてなくて良いんです。書いてないのが、丸井君のお気持ちなら、私はそれが嬉しいから・・・だから、頂きたいんです。駄目、ですか・・・?」

あのはがきいっぱいにメッセージを書かれるより、今の紫希には無地の暑中見舞いの方が嬉しい。
きっと見る度に思い出すに違いない。今丸井が伝えてくれた気持ち。
とても大切な1枚になるだろうから、だから。

「・・・・どーしよっかなー?」
「え、」
「だって、消した跡あるし?ボツってことで捨てる気満々だったんだよなー。」
「え、や、止めて下さい!捨てるくらいなら下さい、お願いですから、」
「はははは!わかったって、やるよ。冗談冗談!」
「・・・・・・・」
「お、疑ってる。」
「ご、ごめんなさい、だって・・・」
「ははは!」

紫希を笑う丸井だが、内心では割と恥ずかしくてならないのを誤魔化せてホッとしていた。

嬉しかったから返事は良いよ、くらいは言ってくれるかなと思ったけど。
でもまさか、無地のままくれと言われるとは思ってなかった。

今実際に、あれ渡すのかと思うとなんだかすごく気恥ずかしかった。
いや、何も書いてないんだけど。書いてないんだけど。

でもあの無地のはがきは、丸井自身の「会いたい」という気持ちがそのまま形になったものみたいな気がして。

でもきっと、紫希は受け取ったら大切に扱ってくれるだろう。
それは悪い気はしなかった。
なんだか、自分の心が紫希に丁寧に仕舞い込まれるようで。

帰ってお説教が終わったら、ポストに投函しに行こう。きっとそうしようと思った。