Bipolar - 1/5



基準服。
鞄。

いつもの学校の時の装いで、可憐は今、氷帝学園に出向いていた。

今日は部活はない。
イベントもないし、教師に呼ばれてるわけでもない。

では何故来ているのかと言うと。

「こんにちは~・・・」

(良かった、開いてるっ!)

ここはサロン付きの、氷帝学園ご自慢の図書室である。
可憐は、此処に本を探しに来たのだ。

(ええと、新書新書、新書のコーナーは・・・あ、あった・・・けどないっ!コーナーはあるけど、本がもうないっ!)

可憐は、持ち前の真面目さでもう一通り宿題を片づけていた。
後はもう、さっさっとできないとか、じっくり取り組まなければいけないものが残っている。

その一つが、読書感想文である。

別に可憐は、本が嫌いとかいうわけじゃない。
ただシンプルに部活が忙しすぎて、嫌いじゃないけど本を読む習慣があるとまではいかない可憐は、ふと気づいたら最近全然本を読んでなかったことに気づいた。

だから、どうせなら学校の図書室なら、至れり尽くせりでじっくり読めるんじゃないかと思ったのだが。

「う、ううん・・・・」

同じような考えの生徒は多いのだろう。とっつきやすい本は大体もう借りられてしまっていて、これで読書感想文書くのきつくない・・・?な本ばかり残っている。
そこの帝王学の本とか、絶対跡部あたりのおすすめだろう。

(何か・・・何かないかな、この際読破がさっとできれば良いから、何か・・・あっ。)

丁度良いや、これとか読みやすそう。
そう思った可憐は、比較的新しい本が集められている棚の中の『ハニーギルティー』というハードカバーの本に手を伸ばした。

「待った。」

聞き馴染んだ声と共に、自分より大きな手が本を取るのを制止した。

「え?あっ、忍足君っ!」
「お疲れさん。それ読むん?」
「えっ?ああ、うんっ!そのつもりだったんだけど・・・」
「中身知ってる?」
「えっ?いや・・・でも・・・」

ハードカバーには写真が印刷されている。
ソファとクッションとローテーブル。
テーブルの上には、可愛らしいピアスとハーブティーが置いてある。

「・・・わかんないんだけど、何か日常っ?的な話かなって・・・」
「W不倫ものやで。」
「え・・・・・えっ?」
「俺もそんなようなやつかと思うて、夏休み前に読んでみてんけど。登場人物が、皆倫理観壊れとるような話やったわ。」
「そ、そんな・・・・!」
「それでも読みたいん?」
「良いですっ!読みたくないよそんなの、読んだって感想文なんか書けないよ・・・!」

可憐は手を引っ込めた。
止めよう。どう考えても、自分の肌に合わない本だ。少なくとも課題向きとはお世辞にも言い難い。

「感想文?」
「私、読書感想文がまだなんだよねっ!だから、何か体の良い本はないかなあと思ってっ。」
「本なあ。」
「うんっ。でも、新書がもう殆ど借りられちゃってて・・・新書にこだわらないんだけど、探す足がかりも特にないしっ。この際適当でも良いかなあとか思ったら、さっきみたいなことになっちゃうし・・・」

どうしてこう運が悪いんだろうか。
いや、止めて貰えたという意味では運が良いのか?
しかし、読む本が無いという意味では結局不運なのか。

「感想文ていう意味やったら、シリアスで重い話の方が、書きやすいことは書きやすそうやけど。」
「う・・・で、でも私ちょっと、そういうのは苦手かなあっ。こう、楽しいお話とか面白いお話とか・・・せ、せめて最後は皆笑って、大団円で居て欲しいというかっ。」
「・・・・・・」
「あ、後は欲を言うと、主人公の年が近くって女の子で、ちょっと恋愛要素があると有難いかなっ?感情移入しやすいからっ。」
「・・・・『親愛なる貴方に』」
「えっ?」
「ていう本があるねんけど、割と条件に合うと思うで。」
「そうなのっ?ここにある・・・あ、でももう借りられちゃってるかなっ。」
「俺が持ってるさかい、貸そか?」
「あ、良いのっ?じゃあ、」
「ほんなら行こか。」
「・・・え、どこへ?」

「俺の家やろ?」