Bipolar - 2/5


ただの本の貸し借りならともかく、今回目的が読書感想文。
なのだからして、早く読むに越したことはない。となると自然、貸すのも早いに越したことないんだから。

と言われると、可憐としてはぐうの音も出ないのだが。

「お、お邪魔・・・します・・・」
「別に気使わへんでええで。今、誰も居らへんし。」

忍足の家は、可憐は二度目である。
一度桃崎の介抱を目的に訪れたことがあるが、その時とは状況が違いすぎた。

あの時は桃崎のことで頭がパンパンで、わー忍足君の家だーみたいなことをしみじみ考える暇もなかったし。
バタバタしてたからゆっくりお邪魔するという感じでもなかったし。
夜遅かったから父親が帰宅していたし。

何より、あの時は忍足が好きだなんてこと思ってなかった。

(・・・・ううん。)

もしかしたら、あの時からもう好きは好きだったのかもしれない。
気が付かなかっただけで。

そう考えると、一体いつからということすら自分で判然としないのに、可憐は初めて気づいた。
なんだかもうずっと前からのような気もするし。そうでない気もするし。

「可憐ちゃん?」
「あ、ああはいっ!あ、上がらせてもらいますっ!お邪魔します・・・」

二度目のお邪魔しますを口にして、玄関から先へ。

以前は慌ただしくて、まともに家の中なんて見てなかったけど。

「わああ・・・・」
「うん?」
「な、何か・・・うちと違うっていうか、そこはかとないお金持ちオーラがっていうかっ。」

でかい。広い。
いちいち空間にゆとりがあるのを感じる。
置いてあるものも、なんとなくお高そうだし。

「金のかけ具合ていう意味やったら、俺の家より学校の方が断然金かかってるで?」
「そうだけどっ!学校は特別だよ、跡部君が建てちゃったんだもん、うちの学校っ。」
「まあ、せやな。たまに気になる時もあんねん、うちの学校の坪単価・・・適当に座っといてくれへん?お茶入れるさかい。」
「あっ、ありがとうっ!」

リビングもまた、ひろびろとしていた。
適当にと言われてもどうしたら良いかわからず、取り敢えず近くのソファに可憐は腰を落ち着けた。

(・・・な、なんだか、失礼だってわかってても色々見ちゃうなあっ。)

いけないと理性ではわかっているのだが、非日常的な雰囲気に、可憐はついつい視線が動いてしまう。
だってどこ見てれば良いのかもわかんないし。

(・・・あ。)

「待たせて堪忍な。お茶・・・どないしたん?」
「ううんっ、全然待ってないよっ!ありがとうっ!ちょっと、あれが・・・」
「あれ?・・・ああ。」

可憐の目にふと止まったのは、食器棚の中にあるマグカップだった。
基本忍足家の食器はどれもシンプルなのが見ていてわかるのに、1個だけとても浮いている。赤と紫の結構派手な星柄。

「あれって、忍足君の趣味じゃないよねっ?」
「あれ、岳人用やねん。」
「えっ!?」
「あいつ、遊びにくるどころか、家出した言うてしょっちゅう泊りに来よるさかいになあ。母さんが、個人用のん買ってもうてん。茶碗とか箸とかもあるで。」
「そうなのっ!?だからあれだけ系統が全然違うんだっ。」

確かに忍足家には浮いてるなと思ったが、向日が持ってると思えばとてもしっくりくる柄。

「へえー、ちょっと面白い・・・あっ!忍足く・・・忍足謙也君っ!のもあるのっ?」
「あいつのんは、そこの赤と白のストライプのんやで。」
「そうなのっ?意外にシンプルだねっ。」
「こういう趣味は結構大人しめやで、あいつ。」

本人がやかましくて忘れられがちだが、謙也も忍足家の人間である。
幼少の頃からシンプルで品の良い食器に囲まれて育ってきたので、食器はそういうものと思っている節があったりする。

「へえ・・・でも何か良いねっ!そうやって、人の家に自分用の食器があるって、何か仲間に入れて貰ってる感じが・・・するって、いうか・・・」
「・・・可憐ちゃん?」
「・・・・・あの、忍足君・・・・」
「どないしたん。」

「・・・茉奈花ちゃんのもあるの?」

一瞬、聞こうかどうしようか可憐は迷った。
聞かない方が良いかもしれないとも思った。
でも、聞かなかったら多分、それが気になって気になって仕方がなくなってしまうだろうことも想像できた。から、聞いた。

自分でさえ、2回訪れている。

まして網代ならなおさらだろう。
性格的に、人の家に臆するタイプでもないと思うし。

もはやわかっているような答えを聞くために、可憐はぐっとお腹に力をこめた。

・・・のだが。

「あらへん。」
「えっ?」
「食器があらへんていうより、そもそも家に上げたためしがあらへん。」
「ええっ!?」

それはそれで結構な衝撃である。
そしてそれが顔に出ていたらしい。忍足は苦笑した。

「来たいとは、何回も言われてんねんけど。」
「あ、そうなんだ・・・どうして上げないのっ?」
「・・・・まあ、はっきり言うてまうと怖いさかいに。」
「・・・・へ?」
「何目的なんか、判然とせえへんねんな。」
「ええっ!?あ、遊びに来るんじゃ・・・」
「いや、それはそうやねんけど。こう・・・まあ、上手い事言われへんねんけど、何やおいそれと上げられへん気がすんねん。」
「そ、そうなんだっ・・・?」

これは忍足の見解だが、網代は多分、家に上がって具体的にどうのこうのというよりもその前段階。
上げるという判断を忍足がした、ということに対して色々と物思うタイプである、と思う。

忍足自身は別に上げたって構わないのだが、上げることによって確実に網代の中の何かは変わるだろう。
その変化が嫌だから、忍足は上げない。

まあ、こんなこと可憐には分かって貰えそうもないからわざわざ説明しないが。

(可憐ちゃんて、人の裏読むのんとかできへんタイプやさかいなあ。)

「なあにっ?」
「なんでも。それより、ちょっと待っとってな。本持ってくるわ。」
「あっ、ありがとうっ!」