せっかくだから、ここで読んでいったら。
という忍足の申し出を、可憐は受けてお邪魔させてもらう事にした。
ああ、甘えが出ちゃうなあ。
と思って、最初は結構忍足をちらちら伺いながら読んでいたのだが。
「・・・・・・」
読んでいくと、これがなかなかどうして面白く、可憐は段々のめりこんでしまった。
『親愛なる貴方へ』は、確かに可憐が希望した通りの本だった。
基本魔法とかがあるファンタジックな世界観なのだが、そこまでしょっちゅう戦いだとかなんだかがあるわけではなく、基本的に日常が過ぎていくのでとっつきやすい。
それでいてシリアスシーンや戦闘シーンが偶に挟まるのが、内容を締まったものにしている。
一人の主人公が居るわけではなく群像劇っぽいが、出てくるのは少女と少年達なので、感情移入しやすい。
「・・・・・・」
忍足は微笑んだ。
最初は同じように本を読んでいる自分を伺っていたのがわかるくらいだったのだが、ものの10分もすると、可憐は忍足の事を完全に頭から消して、のめりこんで読んでいる。
「可憐ちゃん。」
「・・・・・・・」
「可憐ちゃんて。」
「えっ!?あ、え、何々っ!?ごめん、聞いてなかったっ!」
「いや、ちょっと休憩せえへん?1時間くらい、ずっと同じ姿勢やで。」
「え、もうそんなにっ!?あ、でもっ!た、確かにちょっと、背中が痛い、かも・・・!」
思えば最近、こんな根を詰めて本読んだことなんてなかった。
久しぶりである、この肩が凝る感覚。
「どないや?面白い?」
「うんっ!好きな感じだよっ!」
「ほんなら良かった。」
忍足は立ち上がった。紅茶でも入れよう。
「何人もいっぺんに出てくるけど、分かりにくうない?」
「全然大丈夫だよっ!皆個性的で、誰が誰がわかりやすいしっ!私、特にクルミちゃんが親近感沸いちゃうなあ・・・」
作中に出てくる少女の一人、クルミ。クルミは魔法が使えたりとか、高校生であったりとか、可憐と大きく違う所も多いのだが。だが。
「ドジやから?」
「うんそう・・・えへへっ。」
そう。クルミはドジっ子属性なのである。
「まあドジは置いといて、俺もクルミは可憐ちゃんに似てるて思うで。頑張り屋さんなとことか。」
「・・・そ、そう、かな・・・ありがとう・・・」
「・・・可憐ちゃん?」
急にトーンダウンした声に、忍足が振り向くと、可憐は膝の辺りを見つめてじっとしていた。
(・・・・やだなあ、あんまり嬉しくないよ・・・)
いや、嬉しい気持ちもある。それは本当だ。
でもそれ以上に、褒められたところでどうせ・・・みたいなちょっと拗ねたような気持ちがある。
だって。忍足が好きな女の子は、ドジでもなければ努力しないと何もできないような女の子でもないんだもの。
「可憐ちゃん、」
「あっ!ねえねえ、忍足君はこの中だと誰が好きっ?」
忍足は数秒迷った。
可憐の質問の内容にじゃない。
可憐の質問に完全に話題をシフトして良いのかを悩んだのだ。
わずか数秒ではあるが、忍足にしては数秒の悩みは結構長い。
「・・・俺はレイやろか。」
「えっ、そうなのっ?私、忍足君はタウラスかと思ったんだけど・・・」
「そうなん?どっちかいうたら、タウラスは苦手な方やねんけど。」
「ふうん・・・何か、ミステリアスな感じが好きかなあって思ってっ。」
「タウラスはミステリアスていうより、性格悪いだけのような気がすんねんな。」
「そうかなあっ?でもレイも良いよねっ!いつも優しくって。」
笑って話す可憐は明らかにいつもの笑顔ではない。嘘が下手な証拠。
ただ、そうかと言ってそこに突っ込むような性格を忍足はしていなかった。
突っ込んだところで責任なんて取れないし。
責任取れないのにずけずけ聞くだけ聞くなんて、そんなの自己満足だと思う。
それは思う。
思うけど。