可憐は無言で歩いていた。
隣には忍足が居るが、正直あまり話す気になれない。
良くないなという自覚はある。
でも、さっきの会話は可憐には堪えた。
好きとか付き合うとか、それ以前の話で。
忍足は、網代の事をすごくよく分かっているのだと言うことがわかったから。
それがそのまま、忍足の愛情の深さを示している気がして、すごくやりきれなかった。
駄目押しとばかりに、由水は別れ際、忍足に向かって「あんた彼奴と相性良いと思うわよ」と言った。
ああ。やっぱり、会ったばっかりでもお似合いだって思うんだ。
そう思うともうだめ。
由水はもっと軽い気持ちで言ってるのであろうことは分かっていても、なんだか世間が忍足と網代の仲に太鼓判を押しているような気がして。
いちいちうじうじしてるなよ。
そう冷静に囁く自分も、確かに可憐の中に居ることは居るのだが、それはあくまで理性の話。
感情は、そう思い通りにはなってくれない。
「・・・・・」
「・・・可憐ちゃん。」
「・・・なあにっ?」
「どないしたん?疲れてる?」
「・・・ううんっ。ただ、その・・・ちょっとその・・・寂しくなっちゃって。私ほら、茉奈花ちゃんの友達なのに、茉奈花ちゃんのこと何にもわかってないんだなあなんて・・・あはは・・・」
これは割とはっきり、嘘に近い返事であった。
嘘というか、9割方違うことを考えているのに、1割の部分の理由を持ち出して本当の事を言ってるとは言い難い。
それを見抜いてか見抜かずかは知らないが、忍足はそうなん、と軽く言った。
「まあ、俺は知ってるていうより分かるていう感じやけど。」
「分かる・・・?」
「そもそも俺と茉奈花ちゃんて、部分的に性格被ってるさかい。大体考えそうなこととか、想像がつくねん。」
「そうなのっ?」
「せやで。やから、仲の良さとかとはあんまり関係あらへんていうか・・・一緒に居る時間は岳人の方が長いけど、岳人の考えてる事の方が、俺には未だに掴めへんわ。」
「そうなんだ・・・」
確かに、忍足も忍足でやや秘密主義的な面がある気がする。
主義、というほど徹底してるわけじゃないけど、あんまり正直に自分の感情をオープンにしてないあたりが。
「可憐ちゃんは、どっちか言うたら茉奈花ちゃんと反対方向の性格やさかい。分かりづらいんやと思うで。」
「そっか・・・そうなのかなっ。でも確かに、私茉奈花ちゃんと全然違うもんねっ。色々と・・・」
それはもう本当に。
ありとあらゆる所が違うと思う。
だから今こんなことになってるんだ、とも思う。
それこそ僅かでも被ってる部分があったなら、今よりもう少しは希望があったのだろうか。
いや、一緒か。
ほんのちょっぴりの希望があったとて、それで結果が変わるようなことでもあるまい。
「・・・可憐ちゃん。」
「・・・なあにっ?」
「可憐ちゃんは、茉奈花ちゃんと違うタイプなんが嫌なん?」
これは、忍足にしては珍しい失敗であった。
可憐が、茉奈花と自分が色々な面で違う事を気にしているのは、忍足はもうずっと前からなんとなく薄々気づいていた。
ただ。
何故それがそんなに気になるのか、忍足はそこがわからなかった。
気にしている事は分かっても、気にしている理由に思い至らない。
だから聞いてみた。
答えが出てこようと出てこなかろうと、聞いてみて分かる事はきっとあるだろうと忍足は踏んだ。だから聞いたのだ。
「忍足から」そう聞かれることが、可憐にとってどんなにえげつない事態か、忍足は想像もつかなかった。
他の誰に聞かれようと、可憐は下手くそながらも流せただろう。
でも、忍足にこれを聞かれたら、可憐は返事なんかとてもできない。
なんて返せと言うのだろうか。
はいって言ったって惨めになるし、いいえって言ったって嘘になる。
結局、可憐は黙って俯くしかなかった。
何か言わないと。そう焦っても、返事が思いつかなかった。
忍足も促さなかった。思いのほか可憐が返事に窮していることに、内心驚いていた。
可憐にとって、自分が親しい友達なら、本当のことを言うだろう。
そうでもない友達なら、嘘かもしれない。
どちらにしろどちらかは返ってくると思っていたのに、何も返ってはこなかった。
しくじったと思った。
どんな理由で黙っているにせよ、地雷を踏むつもりは全くなかったのに、踏んでしまったことを忍足は肌で感じた。
それなら、今からできることはもう僅かしかない。
「・・・次の部活、明後日やけど。」
「・・・え?」
「別に、急いで読んだりせえへんでええで。」
「・・・あっ、うんっ。なら、お言葉に甘えて・・・でも、なるべく早く返すねっ。紹介してくれた、スピンオフも面白そうだったから、早く読みたいし・・・」
やや強引にでも話題を逸らしてくれたことに、可憐は感謝した。
忍足が何を思ったかは知らないが、最早甘える以外方法はなかった。
気を使わせてしまったけど、これでもう二度とあの質問はされないだろう。
そう思うだけでちょっと気分は楽になり。
楽になったことが情けなくて、目に夕日が沁みた。