「ちょっとづつ混ぜる・・・ちょっとづつ・・・」
「焦らないでくださいね。そうです、そう・・・」
新城は、まさに必死と言う他ない形相でシューの皮作りを進めている。
「・・・ふううー!で、できました師匠・・・・」
「ふふふ、お疲れ様です。じゃあ次に、このペーパーの上に生地をおいていってください。私、1つだけやりますね。こうして、スプーンで、こう・・・」
「わ、わかりました師匠!」
お菓子に限らないが、手慣れた者には簡単でも、慣れない者はさっさっとできない。
もた・・・もた・・・とクッキングシートの上に生地を乗せていく新城は、もうすっかり目の前に集中しきっている。
「まーりりん!」
「うひゃあっ!?何!?何!?」
「ねー、何か手伝うことあるー?」
「ああ、びっくりした・・・驚かさないで!」
「およ?」
「あと、悪いけど私なるべく一人でやりたいっていうか・・・あんまり他の人に手伝って貰うと、私の作ったお菓子って感じしないから、好きな人に渡すのにちょっとやりにくいし・・・」
「・・・・ふーん。」
そう言うと紀伊梨は、生地を置いていく新城の傍らに膝立ちになった。
目はひたすらに新城の作業を追う。
「・・・何?」
「え?見てちゃだめ?」
「駄目っていうか・・・私遅いし、恥ずかしいし・・・」
「えー、なんでー?紀伊梨ちゃんがやるより早いよー?」
「・・・ぷっ!あははは!あー、ずれた!あ、危ない危ない・・・」
何だか小さい子供みたい。
思わず笑ってしまった新城は、何だか肩の力が抜けた。
「・・・良いなあ、紀伊梨ちゃん。」
「お?何が?」
「紀伊梨ちゃんくらい可愛かったら、どんな男の子でも振り向いてくれるんだろうなあ、と思って。」
今回集まるにあたって、新城も金町も、立海組がどんな感じの少女達なのか事前にさらっと聞いていた。
中でも紀伊梨は美少女美少女と言われていたが、実際見てみて、本当に美少女過ぎて、新城はなんだかちょっとやるせなくなった。
自分も紀伊梨くらい可愛い女の子だったら。
そしたら、黒羽は振り向いてくれるんだろうか。
いや。もしかしたら、お菓子とか作らなくても、黒羽の方から来てくれるかもしれない。
「えー、そんなことないよ?」
「えー、嘘。だってーーー」
「だってさー、紀伊梨ちゃんよく皆から意地悪な扱いされるもーん!バカとか言われるしー!確かにちょっと成績悪いけどさー!」
そこに不満はないから紀伊梨も文句は言わないけど、周りが紀伊梨の事をやや女子扱いしていないのはなんとなくわかる。
だから男なら誰でも振り向くよねみたいなこと言われても、紀伊梨は全然ぴんとこない。
「まりりんさー、氷帝でしょー?紀伊梨ちゃん、氷帝の皆からもあんまし女の子扱いされてないよ?」
「ああ、そっか!そういえばそうだっけ、うち来た事あるんだよね皆・・・確かにそうか・・・」
「べ様なんかさー、ヘリ乗ってる時に『お前だけパラシュートでダイブしろ』とか言うんだよー!?酷くない!?」
「いやまあ、跡部君はほら・・・跡部君、誰に対しても割とはっきり言うタイプだから、まあ・・・よし!師匠、できましたー!」
「あ、できましたか?じゃあ次は霧吹きで、」
移動する新城を見送って、紀伊梨はちょっとだけ胸が痛んだ。
やっぱり羨ましい。
好きな人が居るって。
アイドルの件もあるけど、それを差し引いても紀伊梨はずっと恋なるものがしてみたかった。
楽しいばかりじゃないよとも言われるけど、それでも。
あまりずっと悩むのは柄じゃないから、もう立ち直りつつある。けど今みたいなときは、ふいと「良いなあ」という思いが胸をよぎるのだ。