Heart&sweets - 6/7


「や、焼けた・・・・!師匠!シューが!シューが焼けました師匠!」
「おー!すごいすごい、売ってるやつみたーい!ってゆーか、皆めっちゃ上手じゃーん!美味しそー!」
「はい、凄いですよ皆!とっても綺麗にできてますよ!」

「できるもんね。」
「いや、これ1人で挑戦したら死んでたよ・・・」
「分かる・・・私説明聞いてて、何回も「そうなの!?」って思っちゃったしっ。」
「やってやれないことはないのね・・・自分でこれをできたなんて、信じられないわ。」

一同の前には、各々が焼いた綺麗なシュー皮が勢ぞろいしている。

ぶっちゃけ、シュー皮ができれば、シュークリームなんてもう完成したようなものである。
カスタードは若干失敗の気配がすることもあるが、そういう時はカスタードを止めてホイップを入れれば良いだけの話。

そのカスタードも今回は紫希が監督したので、ちゃんと完成した。

「で、次はどうすれば良いんですか師匠?」
「ふふふ。次はもう、お好きにクリームを入れてください。カスタードでも良いですしホイップも良いですし、両方入れてダブルクリームにしたり、フルーツを挟んだり。それに粉砂糖じゃなくてチョコをかけて、エクレアにしても、」
「おーーー!すごいすごい、美味しそー!」
「うわー、夢膨らむー!え、どうしよどうしよ、全部作ってみたいんだけど!」

純粋にテンション上げている紀伊梨と金町と違い、他の4人・・・まあぶっちゃけて言うと、あげるあてがある人組は、割と真剣に悩んでいる。

「・・・まあ、普通でいっか。」
「私、ツインシューにしようかしら♪」
「・・・師匠、シューを切るやり方って、難しいですか?」
「いいえ。そっちの方が、見た目が華やかで良いかもしれませんね。ただ、中に入れるのもそれはそれで食べやすくて良いですよ。お好みです。」
「お好み・・・」

「・・・・・」

可憐は完全に手が止まっていた。

ここに来て、「誰が食べるのか決めないといけない」という問題が頭をもたげてきたのだ。
別に、誰が食べても良いのかもしれない。でもそれには、「誰が食べても良いものとする」と決めて、「特定の誰かの好みに合わせる」ことを辞めなければいけないわけで。

一番最初にお菓子を教えてもらう話が出た時。
あげたい人は誰という話を忍足としたっけ。

あの時はお世話になってるからと思って、なんとなく目が行ったけど。

(今はもう、そんな気になれないな・・・)

まだ付き合ってないんだし良いんじゃない、という気もするけど。
良いとか悪いとかというより、網代と比べて劣ってると思われるのが嫌すぎて嫌すぎて堪らない。

「可憐たん!」
「わっ!び、びっくりした・・・紀伊梨ちゃん、なあにっ?」
「可憐たん、どーするのー?誰にあげるのー?あのさー、もし良かったら、紀伊梨ちゃんに一個くれにゃい?実はさー、紀伊梨ちゃん皆のお手伝いしてて、自分はやってなかったから紀伊梨ちゃんの分ないんだよねー。」
「手伝いもしてないじゃん、たかるなよ。」
「したよー!ちゃんとオーブンのボタン押したよー!」
「まあまあまあ、紀伊梨ちゃん、私の分をあげますから、」
「紫希、甘やかすなって。」
「で、でも・・・」

わあわあ騒ぐビードロズ3人に、可憐は小さく笑いがこみあげてきた。
ああ、こういう時、分かってくれてる人が傍に居ると安らぐ。

「良いよっ。私のあげるっ。」
「本当!?」
「で、でも可憐ちゃん、」
「良いのっ。私も、作っちゃったけど誰にあげようか迷ってたしっ。美味しく出来てるか、自信はないけどっ。」
「え?可憐、氷帝の皆とかにあげないの?」
「ええと、ううん・・・皆こう、舌が肥えてる気がしてっ!もうちょっと修行してからにしようかなあ、なんて・・・あ!紀伊梨ちゃんも美味しくなかったら残してねっ!」
「やあだ、そんなの誰も気にしないわよ?」
「そうだよ、喜ぶと思うのに。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

ちらり、と紫希と千百合は顔を見合わせた。

これはあれだ。
この場で口に出して言えるわけもないが、先日のあれに違いない。

(確かに、茉奈花ちゃんが全く同じものを作ってるわけですから・・・)
(被るのやだよね。私でも嫌だわそんなん。)

可憐の心理としては、全部紀伊梨に食べてもらえる方がいっそ楽、という気持ちはとてもわかる。

わかるけど、でも。
食べてやってくれないかなあ、一個で良いから、という気持ちもある。
友達だから。

とはいっても、忍足は網代が好きなわけだし・・・という思いで、2人が黙っていると、紀伊梨はんー・・・と少しうなり始めた。

「・・・・あ!」
「え?」
「じゃあじゃあ、可憐たんのが美味しい!ってわかったら良いわけですな!」
「え?え?」
「ちょっと待って、それって他の誰かに食わそうって言ってるの。」
「うん!

あのさー、紀伊梨ちゃん思いついちゃったんだー!ブンブンに食べてもらお!」

千百合は危うくカスタードのボウルを落とすかと思った。

「ブン・・・?」
「誰?」
「ブンブ・・・え、えええええ、もしかして丸井君のことっ!?」
「そう!」
「えええええええ!?」
「わーお、その発想私にはできなかったわ。」
「私もできんわこんな発想。」

嘘じゃん。と思いながら痛み出した頭を抱えたい千百合だが、紫希は顔が明るくなっている。何故か。

「確かに、良いかもしれません!」
「嘘!?」
「丸井君なら、たくさん褒めてくれますから。太鼓判になりますし、きっと自信がつきますよ。」
「ねー!だよねだよねー!決まり決まり!可憐たん、終わったらブンブンにあげにいこ!そんで褒めてもらお!」
「い、いや良いよ良いよっ!色々と良いよ!」
「なんで?」
「なんでってあかりまで、」
「だって、よくわかんないけど、褒め上手な人に食べてもらって褒めてもらう的なことでしょ?良いじゃん、何も悪い事なくない?」
「う、ううん・・・」
「まあ・・・そうよね、悪いことは何もないのよ、確かに・・・」

強いて言うなら、一番悪い目にあうのは紫希であろう。
でもその紫希が何故かとても乗り気そうなので、可憐も網代もあまり強く言えない。

「い、良いのかな千百合ちゃんっ・・・」
「・・・まあ、良いんじゃない。異論ある人居ないみたいだし。食い意地張ってるから、喜ぶは喜ぶと思うし。」

マジかよ、とも思うけど。
いやもう良いけど。ここであまり反対しても、どうせ説得力のある理由は出てこないし。

「・・・なら、私も試食してもらおうかしら。」
「「「え?」」」
「どうせなら、私も褒めてもらって勢いをつけたいもの♪私この間可憐ちゃんとお茶した時、鉢合わせしたから知ってるの。彼なら2つくらい食べれるわよ、お茶の子さいさいだわ♡」
「ああうん、それは保証する。」
「そうなの?」
「なんなら、今ここにあるシュークリーム全部食えるよ。彼奴なら。」
「ここにあるシュークリーム・・・」
「全部・・・」
「あ、あはは・・・」

金町と新城の脳裏には、すごい巨体の、お菓子を貪り食う熊みたいな少年の想像図が脳裏を過った。

「・・・私も食べてみてもらおっかなあ。」
「おー、あかりんも褒めてもらう?」
「うん。やっぱり、この場に居ない人から褒めてもらうって、自信になると思うし。って、私はまあ適当に配るだけだけど。」
「・・・真理恵はどうするのっ?」
「それなのよね・・・私どうしよっかなあ・・・」

でも。これはあくまで、黒羽のために作ったものだから。

「・・・私は良いや。うん。自分で味見はしたし、これでいく。うん。」
「おー・・・頑張れまりりん!ファイトー!」
「美味しくできてますから、自信を持ってくださいね。」
「落としたりしないようにね。」
「そうだね、頑張って真理恵っ!」
「・・・うん!ありがとう!」

こうして、新城以外の全員がひとまず丸井をたずねることになった。