今日は立海は自主練の日らしい。
部活じゃないけど、部は開けてあるから、好きに練習しなよみたいな日だ。
千百合が幸村に連絡してみた所、やはりというか、大体皆居て普通にテニスしているらしいので、新城を除いた6人で連れだって行くことになった。
以前可憐を連れて行った際は可憐に制服を貸したが、今回は可憐、網代、金町と3人も居るので、流石にこの人数分の制服は貸せない。
そのため、入口で待つかという事になったのだが。
「おおおおー!すごーい!」
「ほ、本当にすごいですね・・・」
「はああ・・・・・」
頭が痛くなってくるくらいの人数が、校門にたむろしていた。
大体女子。手には各々沢山のお菓子だのなんだのを持っている。
「え、これ皆立海テニス部目当てなのっ?」
「だと思うわ。さっきからちらほら聞こえるのよねー、幸村君とか真田君、とかって。」
「わああ・・・!そりゃそうか、全国優勝校だもんなあ。おまけにあの見た目だし・・・うわ緊張してきたー!やばー!」
「楽しそうだね、あかり・・・で、でもどうするのっ?このまま待って、合流できるかなっ?」
「平気平気。拡声器居るし。」
「えっへん!ブイ!」
「あはは・・・それに、もう伺うと言ってありますから。」
先日紀伊梨が来た時は、テニス部は全面的に休みだったためこんな風ではなかった。
それが、自主練日というだけでこの有様。
全国優勝の効果ってすごい。
「あっ、来た!」
「終わったみたい!」
誰かが、テニス部の数人が出てきたのを見て声をあげた。
いよいよ終了時間になったらしい。ここから皆出てくるはず・・・と思ったが、間もなくだった。
誰かが幸村君!と言ったのを皮切りに、わああっ!と皆が校門に群がり始め、しまいに埋まってしまった。
あれはもう、出てきても見えないだろう。
「・・・すごいねっ。なんていうか・・・」
「うちの部長様は、本人の周りに群がられるタイプじゃないから、ね。」
「どけ雌猫とか、幸村君言わなさそうだもんなあ。」
「彼奴そんなこと言ってんの?マジで?」
「雌猫?メスの?猫?べ様にゃんにゃんが嫌いなのー?」
「そ、そうではなくて、ううん・・・」
「それより紀伊梨、スピーカーしてよ。」
「あ、ほいほい!
おおおおーーーい!皆ーーーーー!」
その場に居る全員の耳に、間違いなく届いたであろうような大声。
鼓膜が破れる・・・と言いたい気持ちもあるが、まあこのくらいじゃないと多分声は通らないであろう。
「す、凄い声っ・・・!」
「流石にバンドのボーカルなだけあるわねえ。」
「か、金町さん大丈夫ですか・・・」
「きーんってしてる、きーんって・・・」
「まだ来にゃいねー。もっかいやっとく?」
「良い。良いからもう。」
あれだけ自己主張してればすぐ来てくれるだろう、という一同の予想は当たり、程なくして無理やり人の群れからいつものメンバーが出てきた。
心なしかよれっとしている気もするが、まあ無理もない。
「やあ皆、お疲れ様。」
「お疲れ。」
「お疲れ皆ー!」
「相変わらずの大声じゃの。」
「まあ、お元気な証左・・・証拠ですよ。」
「久しいな。」
「そうだな、元気にしていたか。」
「うんっ、おかげさまでっ。」
「お久しぶりね♪ごめんなさいね、いきなり。」
「お疲れ。何か、幸村から軽く聞いたんだが・・・シュークリームが、何て?」
「食わせてくれるんだろい?な?」
「はい。ちょっと食べてみて欲しくて・・・金町さん?」
「あ、いえ、えと、はじめまして・・・」
やばい。思っていたよりイケメンばっかりで引いちゃう。と金町は思っていた。
幸村とかその辺の有名組は、散々雑誌や何かで特集組まれて顔が売れてるので、美形なのはわかっていたが。それ以外に4人も居るのに、その4人も大概イケメン。
(イケメンとかなんとかいう話だと、うちってぶっちぎりでレベル高いと思ってたけど・・・立海も相当のレベルだよこれ、こんなことならもっとちゃんと化粧してくれば良かった・・・!)
金町が別の意味で若干引いてることにも気づかないまま、一同は本題に入った。
すなわち、可憐のシュークリームを食してもらう、という話だが。
「はい、ブンブンどーぞ!」
「よっしゃ、やりい!・・・って、俺だけ?」
「予定としては、氷帝の皆さんに配るので・・・なので、配る前に褒めて頂いて、自信を付けたいんです。」
「よ、よろしくお願いします・・・?」
良いのかマジで、本当に良いのか、と可憐は目でちらちらと千百合に訴えてくる。
可憐だけじゃない。テニス部も何人か、おい止めるなら今だぞみたいな目でこっちを見ている。
まあ千百合的には知るかと思っている。何せ、本人たちが一番気にしてなさそうなので。
「OK、褒めたら良いんだろい?じゃ、いっただきまーす。」
はぐ。
と一口。
齧った瞬間、ん、と漏らされた声に可憐はびくついた。
「あ、あの・・・何か変だったっ?」
「・・・・・いや、何か。」
「なーにー?」
「美味いんだけど、明らかに自分用じゃねえ味すんなと思って。」
「えっ?」
「そんなことわかるものなの?」
「んー、ブラックに合う味してるって感じ。でもお前ってブラック好きなタイプ?」
「あ、ううんっ。自分では苦手です・・・」
「だろい?まあだから、普通に美味いけど。でもコーヒーに合わせてるって言っておいたら、もっと喜ばれるんじゃねえ?」
「はー・・・よく分かるね。何か私も食べてもらうつもりだったけど、何か緊張してきた・・・」
「で、でもっ。私そんなこと意識して作ってないっていうか、」
「ま、無意識ってそんなもんだろい。同じレシピ使ってても、ちょっとづつ微妙に違ってきちまうもんなんだよ。」
「そんな微妙な違い、あんたくらいしかわからないと思う。」
まあとにかく、普通に美味しいの太鼓判は貰えた。可憐はほっと安堵の息を吐いた。
「ありがとう丸井君っ。なんだかちょっと気が楽になったよっ。次、あかりどうぞっ。」
「あ!ああえっと、金町あかりです!は、判定をお願いします・・・」
「オッケー。」
「・・・何かの審査員のようだな。」
「あははっ。まあ、やってることは同じだよね。」
「何食べても美味いって言うのって、審査員としてどうなの。」
「しかし、批評としては非常に丁寧ですから。食べて貰う方も、助かるのでは?」
「確かにねー。丸井君って、グルメ評論家とかに向いてそう、ね。」
「あー、良いなー!ブンブンのガイドブックとか、絶対おいしーとこばっかりだよー!」
「ああ、向いてるかもな。俺も、外食の時とかに困ったら、よくブン太におすすめ聞いちまうし。」
「ほう。なるほど、今度から俺もそうさせてもらうぜよ。」
「そ、そんな食べログの代わりみたいな・・・」
会話してる間に、丸井はもう金町のを食べて、「美味しいけど、ちょっとだけ火を通しすぎるきらいがある気がする」という評価をしていた。自分の料理の傾向をそのものぴしゃりで言い当てられた金町は、無いと思いつつ若干エスパーを疑った。
「ごちそうさま。で?次は?」
「あ、ありがとうございました!じゃあ次は茉奈花の、」
「いえ、やっぱり遠慮するわ。」
網代は、持っていたシューの箱を後ろ手に隠した。
「えっ?」
「えー?まーちゃん良いのー?」
「ふふ。ごめんなさいね?でもなんだか食べられると、自分で気にしてた欠点をそのものずばりで言い当てられちゃう気がして、ね。また今度、修行を積んでからにしておくわ。」
そう言われると、もう成り行き上、他の者はこれ以上勧められない。元々丸井にあてたものでもないわけだし。
会話する一同の横で、可憐は思わず黙ってしまう。いけないと思っているのに、目が網代を追ってしまう。
(茉奈花ちゃん、食べてもらわないんだ・・・)
本当に自信がないんだろうか。網代に限って、そんなことあるだろうか。いやしかし、お菓子は苦手と言っていたから、この件に関しては本当にそうなのかも。
「ふうん?んじゃ、楽しみにしてるか。」
「あはは!いやあね、私のよりあからさまに今楽しみなのがあるじゃない。ねえ?」
「え?」
急に視線を寄越されて、紫希は目を丸くした。
ここで目を丸くする辺りが、わかってないというかなんというか。
「お、わかる?美味いんだよな。」
「知ってるわあ♪もう頂いたもん。」
「お、美味しいかどうかは・・・」
「えー、美味しいよー!むしろ美味しくないって人は!紀伊梨ちゃんにください!」
「何言ってんだよ、じゃんけんだろいそこは。」
「えー、やだよー!紀伊梨ちゃんまた負けるもーん!」
「ま、まあまあ・・・量はあるので、大丈夫ですから、」
元々幸村には持っていくことがほぼ確定していたので、絶対テニス部の面々に会うだろうと思い、紫希は全員分カバーできる個数を作っていた。余るとか考えないで良い。丸井か紀伊梨か、どっちかが絶対平らげてくれるから。
「待ってくださいね、開けますから・・・どうぞ。欲しい方は。」
「作ってもらっておいて、要らないなどというのは礼儀知らずというものだろう。・・・・うむ、美味いな。」
「いえしかし、実際問題として、貰ったからと言って「全て食べろ」と言われても困るものですよ。」
柳生の言葉に、可憐はちょっとぎく、とした。
「春日さんは大切な友人ですし信頼もおけますが、どこの誰とも知らない方が、いつ作ったともしれない食べ物を机の中に置かれましても。正直、二の足を踏んでしまうというか。」
「ああ、たまにあるな、そういうこと。せめて、誰からか?っていうのはわかるようにしといて欲しいんだけどな・・・」
「常に正面切って渡しに来い、といっても難しいだろう。その気持ちはわかるが、出所のわからない食べ物には注意すべきというのも、また事実だ。」
「そういえば、氷帝は?似たような困りごととか、あるんじゃないか?」
「ううん?うちはね、とにかく食堂が充実してるから。デザートも出るから、実は食事系の差し入れってハードル高いのよ、ね。逆に、お菓子の差し入れとか目立つわねえ。」
(そうなんだ・・・そっか、そうだよねっ。こっそり置いといてっていっても、怪しいよね・・・)
いや。忍足なんて、友達の中でも仲の良い部類に入るのだから、別に正面から渡せないわけじゃないのだが。
ただ。可憐の中で、網代とタイミングが被るという展開をどうしても避けたいという心理があり。そのためには、下足にぽんと置いておくのもありだなとか思っていたのだが、確かに怪しまれて捨てられるリスクはある。可憐よりとか書いておいたらおいたで、何故直接来ないと聞かれるのは必至だし。
「まあ、単純に胃のキャパシティの問題もあるぜよ。特に夏は食が進まんダニ。」
「とか言って食ってんじゃん?」
「美味いもの以外胃に入らんっちゅう話じゃ。」
「お前って結構贅沢だよなあ。出されたらなんでも有難く食えよ・・・ん~!まいうー、流石だろい!」
「お褒めに預かりまして。」
紫希はなんだかんだ、丸井に食べられるのには慣れてきた気がする。大分あげても緊張しなくなってきた。丸井が褒め上手なのも大きいだろうが。
「先生ってすごいなあ・・・」
「え?」
「だって、いっつも丸井君に食べてもらってるんでしょ?それって、いっつも審査員に審査されてるみたいな気分じゃない?」
「あ!私もあかりと同じこと思ったわ、ここまで細かく言われるとハードル上がらない?舌が肥えてそうだし。」
「そうか?いつも美味いとしか言っていない気がするが。」
「まあ・・・こう言ったらなんだけど、大抵のものはブン太にとって「美味い」に分類されるからな。さっきの試食も、まずいとは言ってなかっただろ?」
「まあ正直、細かく批評しろといったところで、という気もしますが。」
「賞賛しか出てこんじゃろうな。」
「そうだな、それはゼリーの時に証明済みだ。」
「ああ、あったなそんなこと・・・」
「ゼリーの時?」
「そうか、お前さんは居らんかったの。」
蘇る記憶。春にゼリーの差し入れをされた時も、自分のなんてと引いていく紫希を捕まえて、どう美味しいのかとつとつと語っていた丸井の姿が、各々の脳裏に蘇る。
「だって美味いんだもん。」
「あ、ありがとうございます・・・」
「そんなに美味しいんだ・・・紫希ちゃんすごいなあっ。私なんて全然初心者だし、」
「いや、それもちょっと違うけど。」
「「え?」」
「ベテランだとか初心者だとかっていうより、俺が好きな味してるからな。」
もっというと、紫希の作るものは腹の減る味をしていると丸井は思っている。食べ終わったら、もう一個良い?と聞きたくなる感じの味。
「好きな味・・・」
「ま、好みの話ってやつだから。お前が上手かどうかとかは、あんまり関係ねえよ?お前のはお前ので上手く出来てっから、自信持ってけ!オッケー?」
ぽん、と丸井が軽く叩いてくれた背中が暖かい。
目が合った紫希が微笑んでくれて、なお暖かい。
可憐は心が落ち着いていくのを感じた。
そうだ。
いずれにせよどこかで、あげるかあげないかを決断せねばならないのだ。
来てよかった。可憐はやっと心の奥の方に安堵が生まれるのを感じた。
一同が会話している隣で、千百合はさっさと幸村にシュークリームを渡している。というか、半分押し付ける様にしている。渡すのに長々と時間をかけたくない。恥ずかしいから。
「はい。」
「ありがとう、すごく嬉しいよ。今頂いても良いかな?」
「帰ってからにして。」
「ふふっ、そうかい?じゃあそうするよ。・・・ねえ、千百合。」
「何?」
「気のせいかもしれないけれど、彼女・・・桐生さんと、何かあったのかい?」
「え、なんで。」
「なんだか、気にしてるみたいに見えるから。なんとなく、感覚でそう思っただけなんだけれど。」
当たりである。
柳はテニス部でエスパーだとか悟りだとか言われてるらしいが、千百合は幸村の方がそれに近いのでは?と思っている。
「・・・まあ。今可憐、ちょっと悩んでて。」
「へえ・・・」
「私にしては珍しいけど・・・あー、この言葉大嫌いなんだけど、同情心みたいなものがちょっと。」
「そうなんだ。それは本当に珍しいね。」
千百合は普段、同情心とかそういうものから、とても遠いタイプである。その千百合が同情心を抱いているとなると、相当な悩みだろう。
まあ、あまり深く突っ込む気も資格もないから、深堀はしないけど。
「元気になると良いね。もしも何か手を貸せることがあれば、俺も手伝うよ。」
「・・・うん。」
「・・・?」
「あ、ごめん。ちょっと、上手く言えないんだけど、手を貸すとかそういうことじゃないもんで。」
可憐には失礼極まるが、千百合の中で、可憐の恋はもうほぼ失恋決定と思っていた。
まだ辛うじて確定に至ってないだけで、内定はもう出ている。
恋愛というやつは、周りが幾ら手伝ったって限界がある。結局最後に残るのは本人達だけ。
千百合だって、手伝ってどうにかなるのなら手伝うけど。
「・・・楽してるよなあ、私。」
「どうしたんだい?急に。」
普段は楽が大好きだし、楽して何がいけないんだよと思うタイプの千百合だが。
でも、今まさにままならない恋をしている友人が目の前に居ると、何を言う事も無く黙って告白を受けただけの自分がなんだかすごく怠惰な人間に思えた。