その15分後。
事のあらましを紫希から聞いた一同は、もう動揺の嵐であった。
「紫希、行きなよ。」
「いえ・・・・」
「行きなってば。」
「いえ、そういうわけには・・・」
「良いよ別に!誰も責めないよ!なんで私らテニス部でもないのに、そこまでテニス部を優先しないといけないんだよ!」
「え、酷くないー!?紫希ぴょんがかわいそーだよー!せめて一緒に行くくらい良いじゃんかー!」
「ならん!テニス部として一条と『テニス部員の交流』を深めるべきであって、春日をこのタイミングで同席させられん!目的が変わってしまう。そうだろう、お前達も同意見だな?」
「・・・・気の毒ですが、『テニス部のため』を最優先に考えるのであれば。」
「プリッ。ま、合理的ではあるがのう。」
「どうしてだ・・・どうしてこうなった・・・どうして・・・」
「・・・すまない、俺の失態だ。もっと強く、並ぶことを勧めていれば、」
「いや、春日は応じなかったと思うよ。もう、どうしようもない。誰も悪くないけど、誰かが損を被る時があるよ。今がそうなんだ。」
目の前でリアルに頭を抱えている棗を見て、頭を本当に抱えたいのはこっちだ、と桑原は内心でひとりごちる。
(いつかこんな日がくるんじゃないか、って思ってたけど・・・いざその場になってみると、こりゃあ想像以上に辛いな、精神的に・・・)
桑原にとって、紫希は大事な友達である。
唯一無二の大親友じゃなかったとしても、その辺のクラスメイトなんて比じゃないくらい、大切な友達だと思ってる。
だからなるべく悲しい目になんて遭って欲しくないし、損な役回りにもなって欲しくない。
まして紫希は、人より大人しく。優しく。そして皆と一緒に居るのが好きな女の子なのに。
それなのに、どうしてよりにもよって、紫希がこんな目に遭わねばならないのだろうか。
たかだか1個200円のキャンドルを流すだけ。
小さい事、取るに足りない事、そんな事分かってる。でも、そういう小さい事を積み重ねて、自分達の思い出のアルバムはページを増やしていくのに。
「ねえ紫希ってば、」
「良いんです、良いんです本当に。残念じゃないというと嘘になりますけど・・・でも、自分で決めた結果でもありますから。甘んじて受け入れます。皆も、お気になさらないでください。」
「うむ。それが筋だろうな。」
「うるせえんだよこの石頭が!」
「誰が石頭だ誰が!
そもそも、春日は俺達の事を考えて一条との交流に尽力してくれているのだ!だからこそ、こちらとしても抜かることはできん!それこそ春日に顔向けのできないことだ!」
千百合は奥歯を嚙み締めた。
この。この。この正論大魔王め。
何が始末が悪いと言って、主張の方法こそ違うが、紫希も正論大魔王なのだ。
合理性を取りたがる。正しい方へ行きたがる。
自分に自信が無いから。
そう、自分に自信がないから。
それがわかっているから、幸村はにっこりと微笑むことができる。
「まあとにかく、事情はわかったから。俺達は先に帰ろうか。大勢だと、一条さんは多分怯えて逃げてしまうし。」
「は!?」
「え、ブンブン帰りも一緒じゃないのー!?」
「うん。その方が目的のためには良いだろうし。」
千百合は思わず恋人に、信じられない、という表情を向けた。
いや。千百合だけじゃなく、割と皆、程度の差はあれ同じ顔を向けていたが。真田以外。
「ちょっとー--」
「それはそれとして、春日。」
「はい?」
「春日が待っていたことと、キャンドルが買えなかったことは、丸井にきっちり仔細を連絡させて貰うよ。」
「・・・え?」
「今回の件をあくまで『テニス部の利益のための行為』とするのであれば、テニス部員である丸井には事実を説明しておかないと。春日はテニス部に利益を授けてくれるんだ。知らせておかないと、丸井は『事態がよくわかってないまま、利益だけを享受してる失礼な部員』ということになってしまう。」
「うむ。それも当然のことだな。」
真田と紫希の主張は、表面上同じでも、出所は微妙にズレている。
そして、テニス部のためというのであれば、礼儀として丸井は本当のことを知らなくてはいけない。
一同の間に、一気に弛緩した空気が広がった。
紫希は性格上言うのを極度に嫌がるだろうと思ったし、一番迷惑している紫希が嫌がっているのならば余計なお世話になるか、と皆思っていたが。なるほど、これは良い突破口。
「というわけだ。安心しろ、春日。過不足なく、きちんと伝えておく。」
「いや、あの、良いですから、」
「あくまで部内のお話ですからねえ。この場合、春日さんに拒否権はないということで。」
「そ、そんな・・・」
「おうおう、面白い顔になっちょるぜよ。」
「????え、ブンブンに言うのなんて当たり前じゃないの?」
「当たり前よ。当たり前のことを、当たり前にするっていうだけ。」
千百合はホッと胸を撫でおろした。
もちろん誰も言わなければ千百合が言うつもりだったが、多分怒りがわいてきて言い方を間違うだろう。
幸村が連絡してくれるのなら、それほど良いことはない。
「春日。」
「桑原君・・・」
「埋め合わせ、何を強請るか考えておいた方が良いぜ?」
「え、」
「多分、するって言い出すと思うから。」
親友だもん。そのくらい想像はつくよ。
そう思って桑原は言ったのだが、実はこの予想は微妙に外れることになる。
それはまた、後日のお話。