Invited guests - 2/6


はあああ・・・・と千百合はこれ見よがしに溜息を吐いた。

新学期初日の昼休み。
弁当を音楽室で突きながら、千百合はもう既にうんざりしている。

「どったの千百合っちー、お腹痛いの?」
「違う。」
「なんでお前が腹を立ててんのw関係ないでしょw」
「関係なくても腹立つものは立つんだよ!」
「????何怒ってんの?」
「それが、私にもよく・・・・」

千百合が腹を超立てているのは、新学期早々に囁かれている噂のことであった。


丸井ブン太は一条郁が好きらしい。という噂。


これの出所を辿ると、どうやらあのライトアップの一件が発端らしかった。
丸井は郁を連れて会場に来た後、キャンドルが売り切れていたかと思いきや、奇跡的に一個だけ手に入った。
それがまあ、たまたまピンクのハート型だったもので。
1個しかなかったもんだから、2人で一緒に海に流し。

それを学校の誰かがたまたま見ていたらしかった。おかげで、新学期の今、2人は夏休みから付き合いだしたのだとかいう噂で持ちきり。

千百合としては、憤懣やるかたない。

「よくわかんにゃいけど、元気出して出してー!文化祭ももうすぐだしさー!あ!それにほら、新人戦?があるんでしょ?ブンブンが出られ「今その名前出すんじゃねえ!」え、なんで!?」
「あっはっはっはっは!」

新人戦。
今の千百合にとって、これほど神経を逆なでするキーワードはない。

丸井に対するあれこれもそうだが、もう一つ。

「やっぱり新人戦w会場に来んのかな彼奴らw」
「そうですね・・・出場しなくても、同じ部活ですし。全国大会だって、別に出る人以外来ないというわけじゃなかったですし・・・」
「へー!あー、じゃあゆっきーのファンがまたたーくさんになりそうですなあ!」
「で、でも、あくまでメインは新人戦の方なので、それほどではないの、では・・・」
「え、そっかなー?だってさ今日だって、クラス中ゆっきーの話で持ちきりだよ?紀伊梨ちゃんもブンブンも、もーゆっきーのことばっかり聞かれちゃってさー!疲れたよもー!」

そう。
夏休みが明けたこの立海で学校を席巻する話題は、1年生にして立海大附属男子テニス部を優勝に導いたスーパールーキーズトリオのことであった。

もちろん、ビードロズだって、そうなるだろうと思ってはいた。だが、反響は予想以上だった。質問攻めに遭った紫希や棗はまだ良い方だ。千百合なんて質問どころか、「幸村君の彼女」を一目見ようと、どこの誰とも知らない人からじろじろ顔を伺われる始末。

この状態で新人戦の話とか考えるだけで疲れる。きゃあきゃあ言われる幸村を見るのも疲れるし、今の状況で丸井を応援に来る郁とか見たくないというのが千百合の心境。

「まあ新人戦はそれこそ幸村とか出ないからw多少は人もはけるっしょw」
「そうは思えないけど。」
「新人戦・・・・」
「およ?どったの?」
「あ、いえ。新人戦って、丸井君は内定が出たという話でしたけど、他は誰が出るのか気になって。D4人S3人として、レギュラー経験のある人は出られないとすると・・・」
「あー、そっか!他の皆も出るかもだよねー!やっぱおーえん行かないとですな・・・む?」
「何。」
「誰か来た!」

紀伊梨の来た、と扉の引かれる音が同時に鳴った。

「ああ、居た居た。良かった、皆お疲れ様。」
「ゆっきー!やなぎー!おつにゃーん!」

軽く手を挙げて微笑む幸村は、珍しくもちょっと疲れてるように見える。後ろの柳もそうだが。

「どうしたの。」
「悪いんだけど、ちょっと匿ってもらえないかな。」
「朝からずっと声をかけられ続けて、流石に疲れてな。」
「とびきりタフなお前らがw世間って怖いねw」
「真田君も、大変そうでした・・・大丈夫でしょうか?」
「あいつはまあ良いでしょ。真田だし。」

一応、柳の見立てでは、これもちょっとすれば納まる。逆に言うとデータ上、もうちょっと待たないとこの状況は終わらないわけで。

適当なところの椅子を引いて弁当を広げる幸村と柳は、やれやれやっと一息ついたと言わんばかりに大きく息を吐いた。

「もしかしたら、皆酷い目にあってんのかねwここに集合する感じw」
「えー、何人か入れたくないやつ居るんだけど。」
「え、誰々?」
「あ、あはは・・・・でも、仁王君辺りはいらしてもおかしくないですよね。質問とかお嫌いそうですし・・・・」
「いや、仁王は多分、そもそも学校に来ていないよ。部活以外。」
「えー!ずるいじゃーん!もー、ニオニオはしょーがないですなあ!」
「ぶれねえなあwでもじゃあ、もう大丈夫かねw柳生は生徒会室引っ込んでるだろうしw」

幸村と柳が何故音楽室に来ているのかというと。確かに友達や彼女と昼食したいというのもあるが、ここならビードロズが借りているので、「部外者は来んな!」が言えるからである。
其処へ行くと、生徒会室も同じことができるのだ。ちなみに部室は不可。周りを囲まれるので。

「桑原は良いよ。来ても入れたげる。」
「ブンブン君はw」
「不可。」
「あははは!まあ、そう言わないであげておくれよ。あの一件は、俺達も悪いんだ。」
「いや、それを差し引いても不可。」
「あの千百合ちゃん、私気にしてないですから、」
「私が嫌。」
「えええ・・・・」
「ねー。千百合っちはなんでそんなブンブンに怒るのさー?」
「いろいろと脇が甘いのがいらつくから。」

幸村の隙の無さに慣らされてる自覚はある。徹底して誤解を招かないこの男と比べるから、どーしても丸井が隙だらけのうっかり者に見えてしまうのだ。

それはわかってるけど。

「脇が甘い・・・?いえ、それにあの、私今度、埋め合わせして頂くことになり「はあああ!?」
「何故お前がw反応するw」
「するわ!彼奴のそういう所が嫌なんだよ!」

どっちかにしろよ、どっちかに。どうしてこう、あっちにもこっちにも手を広げるんだ。
丸井だって広げたくてやってるわけじゃと考える様にしていたが、この間の一件で本当かよと疑うようになっていた。なんだ彼奴、本当にわざとじゃないのか。本当か。

「ああ、良かった。アドバイスした甲斐があったよ。」
「精市!?」
「あはははは!そんなにびっくりしなくても。ああでも、千百合の驚いた顔、久しぶりに見たかもしれない。もっと見たいな、可愛い。」
「・・・・・・」

「俺さあ、兄として未だにこういう時、どういう顔して良いかわかんないんだわ。」
「嬉しくはないのか?」
「そーだよー!妹が褒められてるんですぜっ!」

紫希は皆の会話を聞きながら、昨日の丸井との電話を思い返していた。

「・・・アドバイザーって、幸村君の事だったんですか?」
「うん?丸井がそう言ってたのかい?」
「はい。」
「あはは、そんな大したものじゃないよ。遠慮なく押して良いから、って言っただけで。」
「・・・精市はさあ、丸井の味方なわけ?」
「ううん。今回はどっちかっていうと、春日の味方をしたつもりだよ。」
「いやまあ、発端としてはそうかもしれないけど・・・」
「俺は、今回に限っては春日の気持ちがわかる気がするんだ。」
「え?」
「ね。」

そういってにっこり微笑む幸村は、何も一言も言ってはいないのに、何故か全てを知られているように思えてならない。

実際、幸村は別に多くの事を知ってるわけじゃない。
でも、自信を持って言えることもある。

紫希はきっと、埋め合わせは良いと遠慮しつつ、本当は聞いて欲しいわがままがあるだろう。次から次へ思いつくはずだ。

わかる。自分もそうだから。