Invited guests - 3/6


「お。」
「どうした。」
「また誰か来たー。2人くらい?」

嫌な予感。
千百合が内心でそう呟くと同時に、聞き覚えのある声がブン太!おいあれは良いのか!とか言ってるのが廊下からも聞こえた。

「よ!お疲れー--あれ?幸村君と柳。」
「やあ、丸井。桑原。」
「よう・・・」
「なんだ、どうした。えらく疲れているぞ。」
「ああうん・・・ちょっと・・・」

頭を抱える桑原そっちのけで、丸井はすたすたと紫希の座る机まで来ると、文庫を2冊取り出して机上に置いた。

「取り敢えず、図書室で借りてきたんだけどよ。これのどっちかで合ってる?」
「・・・え?」
「何か、図書委員の奴に2冊貸出中ですとか言われたんだよなー。」

丸井が持っているのは、『憂暮れ』とタイトルが書かれている本。それぞれ、『緑の羽ばたき』『砂の耳飾り』とサブタイトルが振ってある。

「・・・・え、あの、もしかして、読むつもりで・・・」
「そう。ネタバレっていったらネタバレだし、別に読まなくても良いかと思ったんだけど、まあ折角だし?」
「そ・・・べ、別に無理して読むまでして頂かなくても、」
「でも春日は読んだんだろい?」
「そうですけど・・・」
「なら読んでた方が良いじゃん?前知識が違うと、楽しみ方に差が出てきちまうし。」

「・・・何あれ。」
「俺にもよくw」
「映画じゃないかな。」
「「「「「え?」」」」」
「あのシリーズは、最近映画化したんだよ。それで、丸井に付き合ってもらうんだと思う。」
「なるほど。そのために、前もって原作を読んでおこうというわけか。」
「えー--!」

紀伊梨は思わず大声を上げた。

「ずるいずるいー!紀伊梨ちゃんも行くもーん!」
「えー。」
「なんでブンブンが返事するのさー!ねー紫希ぴょん、行って良いでしょー?ってゆーか、なんで紀伊梨ちゃんは誘ってくんないのさー!」
「ご、ごめんなさいでも・・・正統派の和風ホラーですから・・・」
「えっ・・・・」
「ぷはっ!くくく・・・」

一瞬でトーンダウンする紀伊梨に、丸井は思わず笑ってしまう。

「まあそうだよねwお前が俺達一切誘わないって、そういうことよねw」
「だってさ。行くの。見るの。」
「う・・・ぐ・・・・くううう~~~~!」
「・・・・なあ。」

桑原が、おずおずと口を開いた。

「幸村。すごく確率の低い話だってわかってるんだけど、聞いて良いか。」
「うん?俺かい?良いよ、何だい。」
「もしも途中で一条と会ったりした場合、テニス部としてはまた春日に引っ込んでもらう、っていうことになるのか?」

確率は低いけど、無い話じゃない。桑原はそう思っている。
幸村と柳も、当然それは織り込んでいる。お互いにまだ中学生なのだ。生活圏は基本被っていると見て良い。

「そうはならないよ。保証する。」

幸村はさらりと言った。

「え、今度は良いの。」
「今度というよりも、そろそろ作戦については結論を出さなくちゃいけないんだ。」
「結論?」
「つまり、一条郁が部に入れられそうか、そうでなさそうかという話だ。春日と丸井に、永遠に努力してもらうわけにもいかない。」
「確かに一条さんに入ってもらえるのは有難いけれど、駄目なものは駄目でどうしようもないからね。今日か明日にでも、林さん・・・一条さんの友達のマネージャーに、最後の勧誘をしてもらうつもりでいるよ。」

ここいらが潮時。
これは三強・・・というよりも、どっちかというと、幸村の判断に真田と柳が賛同した形だった。

元々幸村は、一条の件に関して、結論を伸ばしすぎるとこっち側の損と思っていた。
紫希も丸井も友人であり、チームメイトである。だから、部に協力してくれない人のために、仲間のリソースを割くように命じ続けるのは、あまりよろしいことではない。

諦めないで働きかけ続ければ、入部してくれるという保証もないし。

「だから、春日も丸井もそこの所は気にしないで。もし一条さんと出会っても、3人で行けば良いよ。」
「はい、わかりました。」
「オッケー。」

「それで?」
「え?」
「廊下で丸井に何か言っていただろう。あれは良いのか。」
「あ、そーそー!何か良いのかーとか言ってたよねー。」
「ああ・・・・いや、あれはその・・・噂のことで。」
「あーねw」
「はあ・・・・」
「うわさ?」
「丸井が一条郁を好きだという噂だ。」
「・・・あー!えー、それそんな噂になってるんだー!」
「あんた知らないわけ。」
「えー、だって皆けっこー紀伊梨ちゃんに聞いてくるんだもん!どーなのって!違うって言ってるけどさー!」
「ああそうか、五十嵐はブン太と同じクラスだからな。確認されちまうのか。」

もちろん真偽のほどは、目の前の友人に聞けば一瞬でわかるから、否定は簡単。
だから紀伊梨の周りでは、早くも鎮火しつつある話題ではある。ただ、他所のクラスではそうはいかない。

「で、噂がどうかしたんすかw」
「いやその・・・此処に来る途中に新聞部に見つかっちまってな。違うって言ったんだけど、照れ屋さんなんだなーで流されちまって・・・ブン太もブン太で、めんどくさいとか言って、結局訂正しないで来ちまったというか・・・」
「青木一葉か。」*番外編参照
「精市にあれだけ言われたのに、まだ懲りないわけ彼奴。」
「まあ、ゴシップに飢えてるんでしょうなw話題性としちゃ十分でしょw幸村のことは怖がってるくさいから、それ以外のとこでってなると、今一番センセーショナルだかんねw」
「せん?」
「人の心を動かす、という意味だ。」


「なあ!」


その(一部で)センセーショナルな人の声が割って入った。

「明日ミーティングだし、春日借りるぜ?」
「決定事項かよ。」
「だって、嫌って言われても困るしよい。」
「土曜日とかじゃないんすかw」
「平日の方が安いんです。仁王君が教えてくれました。」
「むー・・・どよーびは皆で遊ぶかんね!絶対だかんね!ブンブンに貸さないかんね!ほら、あのー・・・練習するから!」
「取ってつけたようにw」
「あはは。じゃあ、俺も千百合を明日借りて良いかな?」
「え?」
「土曜日に誘うつもりだったんだけどね。土曜日に練習を入れるなら、デートは今かと思って。」
「それは、地域情報誌の見返りに貰える券だな。」*番外編参照
「そう。掲載されたから、ご褒美にって。」
「本当に掲載されたのか、凄いな。」

会話に参加しながら、柳は実にのんびりとした思考で、明日の約束を思い返していた。
明日は金曜日。真田から、将棋を打とうと家に呼ばれている日である。

ただそれだけのはずだったのに、それだけに納まらないことになるのを、この場の誰も知らなかった。