Invited guests - 5/6


マジで?
と、一体何人のテニス部員が思ったか。

「というわけで、新しくマネージャーに入ってくれました。1年生の一条郁さんです。」

ぽん、と軽く幸村に背中を叩かれる彼女は、とても不満そうかつ所在なげな顔で、やや斜め下を見ている。

「夏に一度手伝って頂いてたので、知っている方も多いと思いますが、今回はもう手伝いではなく正式入部になります。経験がないため最初はミスもあるかと思いますが、人手不足が否めない今、貴重な戦力です。暖かい目で見守ってあげてくださいますよう、お願いします。」

幸村がちら、と視線を寄越す。

よろしく、だけで良い。一言だけで良いから言え、と事前に言われていた。
本当はそれすらも気が進まないのだが。

「・・・よろしく。」
「うん。それでは、連絡は以上です。練習を開始してください。」

その号令でぞろぞろと解散しつつ、話題はやはり郁に持っていかれる。

「まさか、本当に来るとはのう。」
「ええ、正直驚きました。」
「ああ、俺もびっくりしてる・・・」
「ま、ざっとこんなもんだろい?」
「そうですね。丸井君と春日さんの成果でしょう。」
「見返りがこの有様なのは、浮かばれん気もするがの。」
「有様?」
「何でもないぜよ。」

もちろん、仁王の言う「この有様」とは、丸井と郁を取り巻く噂のことである。
郁はまあ、多分さほど悪い気はしてないだろうなということは、ぶっちゃけテニス部のメンバーは察しがついているが。

ただ、丸井と紫希的にはどうなんだろうか。

「・・・丸井君、参考までにお聞きしたいのですが。」
「ん?」
「一条さんを丸井君が好きであるという噂がありますが、どう思っておいでなんですか?いえ、真偽のほどはわかっていますよ。ただ、不本意ではないのかと思いまして。」
「ああ、それ?まあやっちまったなーとは思ったけど。」

丸井だって、本意と違う噂をされても、愉快だとは流石に言えない。
ただ。

「そこまで目くじら立てるようなもんでもねえかな?って。」
「そうなんですか?」
「まあ、彼奴が俺の事嫌いなのは見てたらすぐわかるだろい?俺は別に嫌いってわけじゃねえけど、もう入部もしたし?そこまで頑張って関わる理由も、もうねえしな。その内消えるだろい、噂なんて。」

「ああ、まあ・・・確かにそれはそうー--」
「脇の甘い奴じゃき。」
「え?な、なんでだ?」
「わからんか?一条郁は確かに丸井から近づかれる機会を手放したが、代わりにいつでも近くにいる権利を獲得したんじゃぞ。」

丸井は今、もう頑張って関わる理由がないと言った。
そう。もうそんなものはない。

頑張らなくたって、郁はこれからずっと傍に居るから。

毎日。毎朝、毎放課後。土曜も日曜も、長期休暇までずっとずー--っとだ。

それが一体どういう成り行きを意味するのか、本当にわからないのか此奴。
とか、駆け引きが得意な仁王や柳生あたりは、つい思ってしまうのだが。

「まあ、丸井君ですから。」
「それもそうじゃが。」
「何が?」
「「何も。」」
「はあ・・・・」



「本当に良かったのか。」
「うん?」
「一条郁のことだ。」

解散後、柳が幸村に声をかけた。

真田はこういうことの機微に疎いので、単純に郁がテニス部を見直し、入部に踏み切ったとしか思っていないだろう。そこに他意がある、なんて土台思っていないだろうが、幸村と柳は流石に察している。

だからこそ解せないのだ。
郁を入れることが、どういう事態を引き起こすか、幸村に分かってないわけはないのに。

「それは、彼女を入れたことかい?」
「そうだ。確かに人手は増えるから助かる。それは事実だ。しかしそれと引き換えにー--」
「丸井が一条さんのものになるかもしれないって?」
「・・・端的に言うと。」

そのための部内恋愛禁止だろ。と、部外者は思うだろうが、それは実は微妙に違う。
幸村達が禁止したのは、恋愛ありきの部活動である。逆に言うと、部活が優先される限り、恋愛も許される。

郁は最初から丸井に釣られて入ってきたが、それは内心の話。表立って郁から近づくことはないー--というか、それができない性格であることは分かっていた。だから皆、入れても問題ないと判断したのだ。

内心のこととかどうでも良い。表面上それが現れないのなら、部活に影響はない。

そしてここには但し書きがついている。
それは、後発した恋愛についてはどうにもならないということだ。

普通に部活動していて、その過程で恋愛が発生したとして、そうなったら該当者を追い出すのか?と言われると、まあ普通そんなことできない。追い出すのは、恋愛が原因で使い物にならなくなってからだ。誰と付き合っていようと、問題なく部に貢献できるのなら、それで構わないというのがテニス部の方針だった。

これはつまり、丸井が郁を好きになったら、もうどうしようもないということだ。

柳はそれが心配の種だった。
もしそうなったら、テニス部は確かに影響ないかもしれない。
でも。
でもー---

「大丈夫だよ。」
「・・・根拠は何だ。」
「俺は、俺の友達を信じてるから。」

それは。
丸井は一条のことなんて好きにならない、という信用なんだろうか。
それとも、紫希なら丸井を繋ぎとめておけるという信用なんだろうか。

ー---正直なことを言うと、柳的には、そのどちらも疑わしい。

丸井が一条を好きになる確率はそこそこ高いし。
部外者の紫希が部内者になった郁に太刀打ちできない確率もそこそこ高い。

もちろん、人の心にデータは及ばない。
テニスはスポーツであり、つまり体という物質を動かすわけなのでデータが信頼できるが、恋愛だとそうはいかない。

ただ、それを差し引いても。

(・・・いや。俺はこの場合、幸村を信じるべきだな。)

幸村が大丈夫だ、と言ってるんだから。そう思って、柳はひとまずこの件について考えるのを辞めた。

この柳の思考の流れは、柳以外のメンバーも多かれ少なかれやってることであった。
幸村が郁を入れると決めたのだ。だから大丈夫。

そう言い聞かせて、嫌な予感に見ないふりをしていた。