一方、宣伝をバスケ部に任せまくっている可憐達は、本業に勤しんでいた。
とはいっても、今日は宣伝をしている。見学者も沢山居て、その分だけ動きがいつもとちょっと変わる。
「ええと、ええと、次はこのメニューで・・・」
「桐生!」
「あっ、向日君っ!どうしたの?」
「4番コートなんだけど、結構試合長引きそうだぜ。大丈夫か?」
「あっ!そうなの、ありがとうっ!それはまずいなあ、じゃあ・・・ええっと・・・」
どうしようかなあ、なんて悩んでいたその時。
絶対に聞こえるはずのない声が聞こえた。
「おねー--ちゃー--ん!」
「・・・・・美梨!?!?」
フェンスの向こうで、妹がフラペチーノ持って、にこにこ顔で手を振っている。
周りの部員も、全員ぎょっとした顔で妹を見ている。可憐は一瞬全てを忘れ、すぐに妹の元に駆け寄った。
「み、美梨っ!」
「やっほー、お姉ちゃん!助かっちゃった、ここってテニス部でしょ?どうやって入るの?入口見つからなかったんだよねー。」
「あ、入口はあっち・・・じゃないよっ!どうしてこんな所に居るのっ!?学校はっ!?」
「今日は創立記念日で休みだよ?昨日も話したでしょ?」
「あ、そ、そうだっけ・・・」
「それでね、美梨おねーちゃんのがっこー行ってみたいなって思ってたから来たの!マネージャーにもなってみたい!」
「ええ!?」
「何か、試験か面接?に受かったら良いんでしょ?受けるのは誰でもオッケーって、看板持った人が言ってたよ!」
「だ、誰でもオッケーって・・・」
「・・・そーいう意味じゃなくねーか、誰でもオッケーって・・・」
確かに誰でもオッケーなのだが、「氷帝生に限る」という枕詞が抜けている。
(・・・んでも、確かに。)
当たり前みたいに寄って来られたら、中学生と勘違いされてもおかしくはないな、と向日は思った。
背丈がそこそこ高めなのもあるが、オーラがあるというか、実に堂々としている。ある意味、初々しさとはとても遠い。氷帝学園は制服が無いし、こういう服の生徒です、と思って見れば、見れなくもない。
「どっちかってーと、姉の方が小学生に間違われそうだな。」
「なっ!ひどいよ向日君っ!そりゃあ確かに、背は美梨と同じくらいだけど、」
「いや、それ差し引いてもよく小学生扱いされんじゃん、お前って。」
「あ、わかるー。お姉ちゃん、よくお出かけして小学生料金で通りそうになってるよねー。」
「言わないでよ、もうっ!じゃなくて、テニス部は入部できないのっ!中学生じゃないとっ!」
「えー!そんなのってないよ!美梨ちゃんと聞いたもん!誰でもオッケーって言われたもん!」
「だからー!」
そうじゃないんだ。そうだけど、そうじゃない。
どうしようこれ、どうしよう、と思っていると、よく通る声が可憐の背中にかけられる。
「良いじゃねえの、入れてやるぜ。」
可憐が目を丸くして振り向くと、キングがそこに立っていた。
可憐はおろか、部員全員が「マジかよ」と言いたげな目で自分を見ているにも関わらず、そこは跡部というか一向に気にしていない。
思いがけず「良いよ」が出た美梨は、急に目がキラキラし始めた。
「本当?良いの?」
「まあ、内定というか名誉部員みたいなもんだがな。扱いとしては樺地と同じだ。」
「あ、ああ・・・そっか、樺地君もそういえばまだ小学生だっけっ。」
「かば?」
「樺地君っていう子が居るのっ!小学生だけど、まあ・・・確かに部員みたいなものっていうか・・・」
「えー、じゃあ美梨以外にももうそういう子が居るんじゃん!早く言ってくれたら良いのに!」
「いや、そうじゃねーんだよ。色々特殊なんだよ、樺地は。マジで。」
「ふうん?まあ良いや、とにかく美梨、入れてもらえるんでしょ?」
「ああ。ただし、条件がある。」
「条件?」
美梨は目を丸くした。
「あ!さっき言ってた面接?試験?」
「試験は良い。面接だけだ。ただし、面接の前に。」
「前に?」
「今日一日、姉にくっついて部活を見ていろ。」
なんだ。そんなこと。
と、美梨は思った。
今この時はまだ、そう思っていた。