宍戸の元を離れて、今度はテニスボールを運んでいる最中。後ろの美梨がおもむろに話しかけてきた。
「・・・ねーお姉ちゃん、あっと!質問もNGだっけ?」
「え?ああ、大丈夫だよっ。っていうか、内緒にしておくよっ。跡部君、今居ないしっ。」
「そう?じゃあ遠慮なく聞いちゃおっかな。さっきの、えーと宍戸?さん?」
「ああ、宍戸君っ?どうかしたのっ?」
「あの人がって言うか、お姉ちゃん、何か嫌そうな顔してたから、何かあったのかと思って。」
「・・・うーん・・・嫌そうな顔してたつもりはないんだけど・・・」
でも、思う所はある。という自覚はある。
「・・・宍戸君、なんだか最近色々考えこんじゃってるみたいなんだよねっ。特に、跡部君に向かって当たりがきつい気がしちゃって・・・」
「ふうん?ま、あの宍戸さんって人、見るからに跡部さんって人と合わなさそうだもんねー。」
「もう美梨っ。そういうことは思ってても口に出しちゃー--と、と、とうっ!?」
躓いた、と思った時にはもう遅し。
手に持っていたかごから、テニスボールがぽーん!と空高く舞い上がり。ごろごろごろ・・・
「ああああ!」
「わー、すごーい。」
「言ってる場合じゃないよっ!早く拾わないとー---美梨は動かないでねっ!ボール踏んだら転んじゃうからー--きゅっ!」
「あーあ・・・」
言ってる傍からボールを踏んで転ぶ姉。助けてあげたいけど、あいにく「手を出すな」と言われてるので。
でもそれにしても、誰か呼んだ方が早いんじゃないかなあ、なんて思っていると。
「あ~、居た居た桐生ちゃん!」
「え?芥川君っ?」
なんと、起きてらっしゃる。珍しい・・・と思ってふと姿を見ると、手にはテニスボール。
「寝てたら、これ降ってきてさ~。多分桐生ちゃんだな~と思って!」
「あ、ありがとう・・・」
そこで真っ先に自分の名が出るのが情けないというか恥ずかしいというか。しかし、実際その通りなので余計何も言えず。
「あれ?その子誰?転校生?あ、桐生ちゃんの友達~?」
「あ、妹なのっ!今日ちょっと、学校が休みでっ!それで、氷帝に興味があるからって、見学に・・・跡部君の許可はもらってるよっ!」
「美梨でーす!今日一日、おねーちゃんの後ろにくっついてるからよろしくね?・・・です。」
「へ~、妹ちゃんなんだ!おっきいね~。」
「おっきい?美梨そんなに身長高くないよ?」
「あ、じゃなくて~。俺の妹は、もーっとちびっちゃいからさ~。」
「へー!妹さんも髪の毛染めてるの?」
「染めてる?ああ、俺の金髪って地毛なんだよね~。」
「えー、良いなー!美梨も金髪が良かった、ブリーチ面倒だもん。」
(・・・な、何か馴染んでるというか、仲良いっていうか・・・)
意外とテンポが合うんだろうか。考えたら、2人とも結構楽天家でのんびりタイプかもしれない。
「そっか~。あ、でも氷帝って、別に髪の色とか何でもEからさ~。俺も染めてるのかーとか聞かれなくって楽だし、妹ちゃんもブリーチしてて全然OKだからね!」
「本当!?やったあ!美梨の思った通り!氷帝って、何かいろいろすっごく自由だよね!」
「そうそう!何て言ったって、授業中寝てても部活中寝てても、なーんにも言われないC!」
「嘘だあ!言ってるよ、言ってるでしょっ!確かに最近はもう皆諦めムードだけど、最初は皆ちゃんと言ってましたっ!芥川君が聞いてないだけっ!」
「あ、あれ?そうだっけ、ごめ~ん・・・」
一応悪いとは思ってるらしく、ちょっとしおっとなる芥川。まあこの男の場合、声をかけてもらったのに覚えてないことに対して悪いと思っているだけで、眠ってる事に対しては悪いと思ってない気もするが。
「・・・ねえねえ。」
「ん?」
美梨は姉に聞こえないように、そっとボール拾いを手伝う芥川に話しかけた。
「お姉ちゃんのこと、鬱陶しくないの?」
「A?」
「あーやって色々注意してくるの鬱陶しくないのかなーって。」
姉は好きだけど、それはそれとして、もしも自分なら鬱陶しいと美梨は思う。嫌いとまではいかないが、教師や跡部が放置しているのだから、放っておいてくれれば良いのにと感じるだろう。
芥川はただえさえ丸い目をぱちくりさせた。
「・・・考えた事ないな~。」
「そうなの?」
「うん。俺起こされても起きられないけど、起こされるの嫌だとは思ったことないC。」
感覚派の芥川は口だとそれ以上の説明ができないが、芥川が不快にならないのは、結局のところ起こしてくれる理由が「テニスのため」だからである。もしもただ芥川を苛めたいがために、意味もなく起こしてきたとしたら、さしもの芥川も文句の一つくらいは言うだろう。
起こす人も。起こさない人も。
良かれと思ってやってくれてるのがわかるから、芥川は気にならないのだ。
「・・・ふうん。」
「あ!でもそれはそれとして、俺あっちでちょっと寝直したいから、なるべく桐生ちゃんには言わないでいてくれると助かるな~。」
「うん、良いよ!」
「やった、ありがとう!」
美梨が黙っていたところで、芥川が寝直すことなんて皆に丸わかりだろう。そう突っ込んでくれる人はこの場に居なかった。