その後、ほどなくして部活は終わり。
美梨は面接に呼ばれ、面接官の網代と、単純に興味で見学に来た跡部の前で、椅子に座っていた。
「さて・・・じゃあ、今日一日見てもらったところで、面接を始めましょっか。」
「あ!ちょっと待って!・・・ください!」
「「?」」
美梨は立ち上がると、えーと、こういう時何て言うんだっけ、などとちょっと呟き。
頭を下げた。
「ごめんなさい。今日の面接は無しにして!・・・ください。」
網代は目をぱちくりさせた。
が、跡部は表情を一切変えることなく言った。
「何故だ。」
「美梨ね、あーっと・・・私!私ね、落ちるって分かってる試験、受けたいって思うタイプじゃないの。です。」
「あら。落ちると思っているの?どうして?」
「美梨、お姉ちゃんができてる事、今はまだ全部全然できないと思うから。」
今日、美梨が見た事聞いた事感じた事。全て、可憐だからあのようにできるのであって、自分にはできないと思った。
テニスの知識も。周りを見る力も。
そして何より、自分の理解できない人間を知ろうとする心だ。
滝は言わないでおいてくれたのだ。「自分と違うタイプのことを分かる気が無いようじゃ、苦労するよ」と。
「だから、今は良いや。・・・良いです。」
「わかってるじゃねーの。聡いところは褒めてやるぜ。」
「ありがとう、です。あ!でも、後2年経って入学したら、その時は面接受けたいな。」
「・・・ええ。待ってるわ。」
「ありがとう!」
じゃあ、と言って部屋を出て行く美梨は、心なしか少し晴れやかな顔をしていた。
(美梨、大丈夫かな・・・)
帰り支度をすっかり終えた可憐は、そわそわと面接している(と可憐は思っている)妹を待っていた。自分が面接受けてるわけでもないのに、何やら緊張してしまう。
「あれ?桐生!」
「可憐ちゃん、お疲れさん。」
「あっ、忍足君向日君っ!お疲れ様っ。」
「帰らねーの?」
「あ、ちょっと美梨をねっ。」
「今面接中なんやろ。」
「・・・マジで受けてんのかよ面接。」
「ダイナミックやんなあ、やることが。」
「あ、ははは・・・」
我が妹ながら可憐もそう思う。良く出来るよなあ、と思うことを平気でやるのだ、あの妹は。
「全然似てねえよなー、お前と。本当に姉妹かよって言うくらい。顔も似てねえし。」
「岳人。」
「良いの・・・似てないの知ってるから・・・私、美梨と違ってちんちくりんだし・・」
「そこまでは言ってねーだろ!」
「似てない」とは「違う」という意味であって、「劣ってる」ということじゃないのに、ナチュラルに自分が下だと嘆く可憐。なんとなく、ああいうタイプに可憐が憧れていることは、忍足も向日も知っているが。
「でも、可憐ちゃんの方がマネージャーには向いてるで。」
「「えっ。」」
「なんで岳人が驚くねんな。」
「だって、どっちが向いてるとかそんなに差ついてるか?方向違うだけで、一緒くらいじゃねー?」
「せやろか。」
「私もそう思ー---」
「おねーちゃー-ん!」
後ろから腰に飛びつかれて、可憐は大きくよろめいた。
忍足が支えてくれなければ、多分頭から地面にダイブしただろう。
「危ねーな!気を付けろよ!」
「あはっ!ごめーん!」
「み、美梨お帰り・・・あっ、面接はっ?」
「あのねー、えーと辞退?してきたの!辞めちゃった!」
「「辞退!?」」
「なんでなん?」
「えー、美梨おねーちゃんみたく出来ないから。ぜーったい落ちると思って、今はもう良いですって言っちゃったんだよね。」
「えええええ!?」
可憐はもう、2重の意味でびっくりである。
自分から受ける気で来てたのにというびっくりと。この妹から、落ちると思うからなどという言葉が出るなんてというびっくりと。
「ど、どうしてっ!?美梨なら多分通るよ、」
「んーん、通らないと思うよ?あ、でもあの女の人の方だけだったら、もしかしたら通ったかな?でも跡部さんって人も居たし、あの人は美梨の事落とすと思うなー。」
「えええええ・・・落とさないよ、私でも通ってるのに、」
「おねーちゃんでも、じゃなくておねーちゃんだから通ったんでしょ?」
可憐は妹に対して自分は劣っていると思うことが多い。
でも、美梨は姉に対してそんなことを思った事はなかった。
似ていないとは思う。でもそれは違いの話であって、上下の話じゃない。だから可憐だけが選ばれて、自分が選ばれないことなんて、ごまんとあると普通に思っている。
「さっ、帰ろ帰ろ!美梨お腹空いちゃった!あっ!先輩、何かおごってくれない?」
「しねーよ!くそくそ、こっちだって腹減ってるし、小遣い苦しいんだよ!」
「あはは!」
(あははって・・・)
こういう時にあっけらかんと笑えるところも、妹に対してよくわからんと思うところである。
「な?」
「え?」
「言うたやろ、可憐ちゃんの方がマネージャー向いてるて。」
そうか。そうなんだろうか。
妹が向いてないと言われるのはなんだかなあと思うが、向いてると言われるとやはり嬉しい。
(私、向いてるのかな・・・)
いや。
厳密に言うと、本当に向いてるのかどうかは嬉しさの半分でしかない。
もう半分は、「忍足が」そう思ってくれていることが嬉しいのだ。
その気持ちにさえも、見て良いのか見ない方が良いのかわからないまま、可憐は夕日に照らされた帰路を歩き続けた。