「・・・・・・」
家に戻る途中。
1人になると、紫希の頭はどうしてもさっきの記憶を反芻してしまう。
話している時は色々必死で、じっくり咀嚼しきれなかったけれど。
『居ると楽しい』
『話すのも好きだし』
『春日と居るのが好き』
(私も、同じ気持ちです・・・・)
「・・・うふふっ。」
胸の中から、ふわふわと込みあがってくる嬉しさ。
人見知りとしては、まだまだ緊張の解ききれない部分もある。
相手が自分と関わる事を本当に嬉しく思っているのか?
その信頼が固まりきる迄には、言葉でも行動でも無くて、まだ幾何かの時間が必要だ。
でも丸井は、吃驚するくらいのスピードで自分の気負いを取って行く。紫希はそれをはっきりと感じられる。
紀伊梨みたいに、引っ張ってくれるわけではない。
千百合みたいに、待ってくれるわけでもない。
棗のように合わせてくれるわけでもないし、幸村のように見守ってくれるわけでもない。
丸井は、ブン!と紫希を振り回すのだ。
さっき迄寄り添ってくれていると思っていたのに、次の瞬間には思ってもみなかった方へ話を運ぶ。
でも振り回すその手を、丸井は絶対に離さない。
だから振り回されて飛んで行った着地点には、予想外の嬉しい事や、楽しい事がある。
そうしてポカンとしていると、又笑顔で寄り添ってくれる。
だから、丸井と居るのは楽しい。
丸井が自分と居るのを良しとしてくれるのは、とても嬉しい。
(早起きは三文の得、なんて。本当でしたね。)
まだ中の入っているファンタ・オレンジを大事に抱えて、紫希は家への道を戻るのだった。
一方、丸井も家路へと着いていた。
これから朝練だ。それに今日は走りきれなかったし、帰ってきたらもうひとっ走り行かないと。
でも、散歩に誘った事を後悔はしていなかった。
「ワン!」
公園の中を抜けていると、少し離れた所から吠えかけられた。
名前はシロだったか。
「・・・有難うな。」
誰にも聞こえない程度の声で呟くと、シロはやっぱりワン!と吠えて、抱き上げられて去って行った。
こうしてシロが吠えてくれたから、あの静かな女の子は驚いて声を上げたのだ。
それを聞かなかったら、自分は紫希が見て居た事に気が付かないで、走り去ってしまっただろう。
そういうの、本当に人見知りっていうんだろうか。
今日みたいな行動を取るのは性格の問題じゃなくて、本当は自分と過ごす時間は居心地が悪いとか思ってるんじゃないか?
とちらりと思う事も実は稀にあった。
でも今日、紫希は言ってくれた。
そりゃあもう、真剣な顔で。
『丸井君はとっても優しい、素敵な人なんですよ!』
『一緒に居るのが楽しいんです。お話していたら元気になりますし、
笑った顔を見ていたら気持ちが明るくなるんです。』
その後に続けて、都合の良い世の中がどうとかこんなのおかしいとか言い出すから、一度はその辺のくだりを横へ置いておいたけれど。
でも、思い返すと嬉しい。胸が軽く、暖かくなる。
好かれるのは気分が良い物だけど、それだけじゃない。自分だって、紫希に同じ思いを感じているから。
「ただいま!」
「兄ちゃん、お帰りー!」
「おかーりー!」
「おう、ただいま!」
帰ってくるなり、足元に飛びついてくる弟達。
あやしながら靴を脱いでいたら、キッチンから母親が顔を覗かせる。
「お帰り、ブン太。今日も練習でしょ?」
「ん!」
「なら朝ご飯、もう出来てるから食べて・・・ブン太。」
「え?」
「なんだかやけに嬉しそうね。何か良い事でもあったの、お兄ちゃん?」
マジか。そんな顔してるかな。
しててもおかしくないけど。
「・・・内緒!」
ああ。嬉しい内緒が又増えた。