Outing 1 - 6/7



「5分間、休憩!」

幸村の声と同時に、部員はその場にへたり込んだ。

其処彼処から、あー、だのしんどー、だのの呻き声が聞こえる。

中には涼しい顔をしている者も居るが。
号令した、当の本人のように。

「はあ・・・」
「幸村?どうかしたか?」
「ああ、弦一郎。」

この程度のメニューで疲れるような幸村ではない。真田は誰よりその事を知っているから、溜息の理由が解せないのである。

「別に、どうという事も無いんだけどね。今日、千百合達が東京に行くんだ。」
「む。そう言われると確かに、連休前に行くと春日が言っていた記憶があるな。」

とは言っても日にち迄は聞かなかったから、今日だとは知らなかったのだが。

「確か、夏に東京で活動する、会場の下見ではなかったか?」
「うん、そうだよ。」
「やはりか。彼奴らのグループにとっても、有意義だな。」
「うん、そうなんだけどね。」
「どうした?」

話せば話すほど浮かない顔になる幸村。

「・・・同行したかったか?」
「それも無いじゃないよ。ただそれよりもね、」
「幸村がビードロズの心配をしている確率、98%」

柳が言葉を引き取った。

「流石だね、柳。」
「心配だと?」
「うん、実はそうなんだ。」
「それって、遠いからとかそういう話?」

そう言うのは、ドリンクを飲みながら近づいて来た丸井と桑原である。

「でも、遠いって言っても電車で1時間か、そこらの距離だろ?」
「桑原の言う通りだ。確かに遠出は何かと注意が必要になるが、五十嵐以外の者は特に不安も・・・」
「違うんだ。それも勿論なんだけど。」
「えー?でも他に思いあたらないだろい。」

「俺が気にしてるのは、ナンパなんだよ。」

全員の口が「あ」の字に開いた。

普通だったら「はいはい惚気ですね」となる所だが、この場合は違う。
何故か?それは五十嵐紀伊梨が居るからだ。

「五十嵐は目を引く容姿をしているからね。小学生の頃でも中学生から度々声をかけられているくらいだったのに、中学生になって東京へ行くなんて尚更だよ。」

そして紀伊梨がナンパに遭うと、必然的に同行している千百合と紫希も巻き込まれるのである。
紀伊梨と違って2人の容姿は並みなので、一緒に遊ぼうと誘われるか露骨に溜息を吐かれるかは五分五分だが、どちらにしろ歓迎したくない事態。

「全く・・・用もないのに、見知らぬ女子に軽い気持ちで声をかけるなど、たるんどる!」
「それはその通りだけど、実際止められるものでもないな・・・」
「そうなんだ。事前の対処が出来ない事だからね、せめて傍についていたいんだけれど。」

桑原の「止められるものじゃない」という正論が心をどんよりさせる。
対症療法しか出来ないのに、こんな時に限って親も居ないわ自分も居ないわ。

「まあ、でも大丈夫なんじゃねえの?黒崎、兄貴の方も居るんだし。それにほら!五十嵐や春日は置いといて彼奴なら、声かけられても「お呼びじゃないから。」とか言って、スパッと遮ってくれんだろい。」

丸井はちょっと、自分に言い聞かせる意味も籠めて言った。

紫希は大丈夫だろうか。あんな大人しい性格では、強引にこられるとひとたまりもないんじゃないのか。
その不安を払拭したかったのだが、幸村はふるふると頭を振った。

「丸井、安心させようとしてくれてる気持ちは嬉しいけど、それは安心材料にならないかな。」
「・・・そういうもん?」

「どんなに毅然とした態度だって、ハッキリ言う事が出来たって、千百合は女の子なんだよ。力も男より弱いし、声をかけられたら怖がるし、俺以外の誰かに可愛いって思われる。そういう女の子だから、俺が守りたいんだ。」

それこそ小学校の時分は未だ制服でもなくて、毎日ズボンを履いていて。
無愛想で目が合うくらいではニコリともしないし、お喋りもあまりしないし、好きな色は黒だの青だの。
言う事もキツイし、棗に向かっては当たり前のように手が出るし、少々の事では泣いたりしない、弱音も吐かない。

でも、誰に何と言われようと、幸村にとって黒崎千百合という女の子は、紛れもなく「女の子」だった。
優しくて、照れ屋さんで、時々ハッとするくらい綺麗で、笑った顔は世界で一番可愛らしい女の子。

傍に居たい。自分を隣に置いて欲しい。泣かないで、笑っていて欲しい。
誰かがこんな可憐な女の子を傷つけるなんて、そんなの許せない。

幸村はずっとずっと、そう思っている。
千百合を好きだと自覚したあの日から今迄、本当にもうずっとだ。

「・・・・・・」
「言っても仕方がない事は分かってるから、心配し過ぎないようにはしてるんだけどね。ただ、ラケットを持ってる時は兎も角、こういう隙間時間にフッと思い出してしまうと・・・」
「確かに、溜息を禁じ得ない状況ではあるな。」

同じクラスの柳は、部活以外の時も幸村と一緒に居る事が多い。引いては、幸村が如何程千百合に惚れ込んで居るのかもよくよく知っている。

「まあ、溜息を吐いているのは幸村だけではないが。」
「む?」
「誰の話だ?」
「ほら、あっち。」

幸村が指差した先。

「はあ・・・・・」

「・・・仁王?」
「彼奴はどうしたのだ?」
「あ、聞いたぜ。振られたんだろい?」
「そうだよ。」
「振られた!?」

驚く桑原に、丸井はそ。と短く答えた。

「柳生にダブルス、断られたんだって。」